5話 夜間、急襲、因縁の対決。
「目は問題ないかしら? シエラ、ガストン」
「ええ、なんとも…… 昼と変わりなく見えてます」
「これは素晴らしい。これなら朝も夜も無く、寝ることも無く、常に高パフォーマンスで行動できる…… さすがレティ」
ふむ。よかった。
私たち三人は夜間の依頼を完璧にこなす為、猫のように瞳孔を改造して、夜目が効くようにした。
ついでに色の感じ方や知覚もいじって、常に昼と同じような見え方になるようにしたつもりだが、改造に問題は発生していないようでよかった。
魔の森、中層の少し手前。
木々が生い茂り、月光すら差さない場所に、銀月茸はある。
ぼんやりと光を放っているため、とてもわかりやすい。
わかりやすいのに何故、喫緊の依頼が出ているのか…… それは。
「やはり居ますね、フォレストスパイダー。群れで狩りをする、人ほどの大きさの蜘蛛。なるほど、銀月茸をとりにきた獲物を待ち伏せて狩るんですね。なかなか頭のいい魔物です」
「ひえ、蜘蛛…… 大きいと怖いですね……」
「……燃やすとキノコも巻き込んじゃうから、どうしようかしら。氷、土も範囲が難しいし。レティ、助言が欲しいわ」
フォレストスパイダーは、ガストンに位置がバレているのを感じているのか、コソコソと距離を詰めてきつつ、まだ攻撃してこない。
「ふむ、私としては、直ぐに命を刈り取れる電気と、素材に傷を付けずに済む毒が好きなんですが…… 難しそうなら、土魔法で小さな弾をつくって、超高速で打ち付ける、というのはどうでしょう?」
「小さな、弾……! 思いつかなかったわ! さすがレティね! 精密な魔力操作は必要だけれど、それなら威力も申し分ないわよね」
「……! 二人とも、蜘蛛が襲ってきます!俺の後ろへ!」
ゆるく雑談しているような私たちに怒りを感じたのか、蜘蛛たちが痺れを切らせて襲ってきた。
ガストンは戦闘スキル『ウォークライ』を放ち、蜘蛛たちの敵意を自分に集める。
シエラは土を小さく丸めた弾をいくつか空中に浮かべ、発射の時を狙っている。
どうやら、今回は一点集中ではなく、散弾のように範囲にばら撒くつもりのようだ。当然、ガストンも巻き込むだろうが、そのためにガストンには安くてボロい中古の服を着てもらっている。
ガストンに群がろうとする蜘蛛に、シエラが土散弾を放つ。
数体とガストンに命中し、数体を撃破。
位置が悪くガストンが壁になって撃ち損ねた蜘蛛に対して、シエラが再度魔力を練り上げ……
「!?」
「なに、が……っ」
目の前で急に残りの蜘蛛がバラバラに弾け飛んだ、と認識したのとほぼ同時、私はなんらかの攻撃を食らって吹き飛び、大きな木の幹に打ち付けられた。
視界の急な変化に少しだけ思考が追い付かなかったが、問題はない。
予想外の事態。だが、想定内ではある。
……私の想定内が、ガストンとシエラの想定内ではない、という事も、想定内だ。
「こ、これ、あの時の、俺の、……あのときの! 死神だ……っ!!ひ、ひっ……!?」
「よくも!! よくもレティに攻撃を!!!!! 焼き殺してやる!!刻み殺してやる!!う、うわあああああ!!!!」
ふたりとも、これでは戦闘なんて出来ないではないか。
想定内だが、予想以上のメンタル不安定化だな……。
「『精神強制鎮静化』、ふたりとも、『私の言葉だけを聴きなさい』」
強制鎮静化は少し精神への不可が大きいから、あまり使いたくないが。
ガストンのトラウマへの恐怖心が、私が吹き飛ばされたことにより極度に増大し。
シエラの狂信的な感情が、私を吹き飛ばした何かへの極大の怒りと殺意を発生させた。
これは仕方の無い措置だ。まったく、他人の感情のコントロールは面倒だな……。
これからは、依頼中は軽くでも精神鎮静化をかけておいた方がいいかな? 人間性への悪影響を考えていたが、不測の事態への対応力を高めるには冷静でいられる措置は必要だろう。
よし、ふたりとも完全に落ち着いたし、反撃といこう。
極度の緊張状態、興奮状態にあるふたりには、少し無茶な改造をしても問題ないだろう。
「ガストン、あなたの知覚を更に倍にします。ウォークライで敵意を引き寄せ、シエラに敵の情報を正確に報告しなさい。 シエラ、あなたの思考を更に加速させて、思考加速時の脳冷却も強くしてあげます。相手の速度を上回る、音よりも早い雷魔法で、正確に敵の眉間を貫きなさい。『私の言うことが最適解です』、さあ、やりなさい」
「了解です。シエラ、俺の服の傷と周りの木々の幹を見てくれ。敵は暗視でも見えないほどに闇に溶けているが、物理的に存在しているのは確かだ。確かに木の幹に張り付いてこちらを見ている。そして、相手は何かを飛ばして攻撃してきているが、それは自分の正面にしか飛ばせないようだ……!」
ガストンが、高速で飛ばし続けてこられる攻撃を全て受けながら、冷静に『見て』、シエラに共有する。
「ありがと、ガストン。…………よし、動きのパターンが見えた……。 いけるわ、まかせて! 雷魔法『サンダーボルト』!!」
ガストンから得た情報で、シエラが高速で動き回る敵の位置を正確に予測。
パンッ、と、空気の弾ける音が聴こえた。
シエラの指先からでた音速を優に超える雷が、ガストンの前にいたソレを撃ち貫く。
空気を切り裂くような敵の連続攻撃が止み、なにか大きなものが地面に落ちる音がした。
……一撃で、討伐成功だ。
二人の精神不安定化にかこつけての数ステップ飛ばしての改造も出来たし、予想外の素材収入も手に入れたし、いままでにないほどホクホクで気分が良い。
「……シエラ、素晴らしいですね。たしかに眉間に一撃。ふふん、これなら素材も高く……!? まあ!これは…… 上位冒険者の噂にあった、ギガントマンティスの変異体、『シャドウリーパー』では? ふふ、ふふふ…… これは高く売れますよ、良かったですね、ふたりとも?」
「……あの化け物が、死神が、こんな、たった一撃で……こんなの、どっちが化け物なのか……いや、うん、勝てたんだ、負けなかった、無傷で……? 俺、やっぱり、大変な事に巻き込まれてるんじゃ……?」
「土魔法の応用、それと雷魔法による一点集中の殺傷力。わたしの得意な火魔法より、こっちの方が効率がいいわね。ふふ、さすがレティ、わたしを更に高みに連れていってくれる。レティのために、わたし、もっともっと強くなるからね……!」
シャドウリーパーは上位冒険者にのみ知らされている特別討伐対象だったはずだ。交渉次第では、大きな報酬に化けるはず。
なぜそうだと知ってるのかって? ……人間属性、便利なんだよね。
さてさて、あとは本来の依頼のキノコを集めて、朝方に街に戻ろう。
今から報酬が楽しみだ。とても。
「ガストン、シャドウリーパーはあなたが担いで運んでもらえますか?」
「あ、ええ、もちろん。 ……う、腹側は柔らかい…… ちょっと気持ち悪いな……」
「ねえレティ、あとで魔法の相談、もう少しいいかしら?」
「もちろんよ、シエラ。もっともっと役に立ってもらいますからね」
「ええ、もっと、もっと、もっと役に立ちたいもの!!」
「俺も、うん、もっと頑張らないとなぁ……」
ここまで読んで頂き有難うございます。
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