11話 深層、違和感、計画の練り直し。
「不自然すぎる…… 俺の知覚範囲には、小動物以上の生き物はいません。これが深層か……?」
「わたしの魔力ソナーでも同じよ? これが普通、じゃないわよね」
魔の森、深層。
凶悪な魔物が跋扈する危険地帯、のはずだが。
おかしい。強者のナワバリ分けを考慮しても、これは不自然過ぎる。
異常があるのは確かだが、それが何かがわからねば対処が遅れかねないな……。
ガストンの知覚とシエラの魔力回路を更に少し高め、より周囲の警戒を強くさせる。
しばらく、手がかりとなる足跡や匂いなどを追っていたところ、ようやくなにかがガストンの知覚にひっかかったようだ。
「強い反応…… 猛スピードでこちらに向かっています! 戦闘準備を!」
「ガストン、しっかり受け止めること。シエラ、計画通りに」
「わかってるわ、まかせて!」
数秒。前方から、巨体の割に素早く静かに、巨大なクマが姿を現した。
あれがティタノベア。ギルドの解体担当から採取した映像データよりも小柄だが、まあいいだろう、ティタノベアはティタノベアだ。
さて、戦闘がはじまる。
……と思った瞬間。ベアは我々から随分と離れたところで急停止。なんと踵を返して逃げたではないか。
「素材が…… 追いますよ!」
走って後を追う。
何故逃げたのか…… まさか、我々に怯えて、な訳はないだろう。
……まさか、罠? いや、クマは頭がいい。有り得る話ではあるが。
「……不味いです。この先、反応が十個ほど……!!」
くそ、そう来たか。
小柄なティタノベアを追いかけた先。
そこに待っていたのは、ティタノベアの群れ、十匹ほど。
それに……
「ヒ……ッ!?」
「チッ。……おっと、いけない」
ティタノベア達の後ろに、ティタノベアが小さく見えるほどに巨大なクマがいた。
あの巨体、黒黒とした異質な毛皮。
ギルドの資料にあった、変異種の『ジャガーノート』だろう。だが、資料の情報よりも数段大きいようだが……。
アレのプレッシャーに、私のポーターたちが恐怖し洗脳が少し綻んだ。
即座に修正、強化したが……つい舌打ちが出てしまった。
この私が、ケモノごときに否定されるところだったのだ。
…………不快だな。
「計画は変更です。ガストン、申し訳ないですが、今回は荷運びと雑用ばかりさせてしまう事になります。戦闘はシエラに一任します」
「ほっ…… あ、いや、はい、わかりました!」
「シエラ。……コイツらまとめて、冷水のプールに沈めてしまいなさい。あなたの力ならできるでしょう。ああ、回転なんかさせてもいいかもしれませんね、さっさと溺死させるのです」
「わかったわ、レティ。まかせて!」
戦闘開始。
変異種の咆哮が、音圧としてこちらを襲う。
……当然だが、バイタルもメンタルも無傷だ。舐めるな、獣。
「いくわよ! タイダルウェーブ!!」
超質量の水が、回転しながらベアたちを飲み込む。
水中でジタバタと藻掻く様は滑稽で愛嬌すら感じる。
しかし、さすがシエラ。私が改造したとはいえ、規格外の魔力だ。素材がいいと改造も楽しくて良い。
……しばらく眺めていたが、ティタノベアはすべて溺死したようだ。
「シエラ、ありがとう。もういいですよ」
「うん、レティ。……ちょっとだけ疲れたわね、さすがに」
「ガストンに果物でも貰っておきなさい。……さて」
さて、さて。
ティタノベア変異種、『ジャガーノート』。
コイツだけはまだ、動けなくとも少しだけ息がある。
ジャガーノートに近付き、濡れた耳に手を当てる。
虚ろだが、生きようとする目をしている。
最後の力で抵抗しようとするが、もう遅い。
──私を怒らせた事、後悔するといい。
バチッ、と、音がした。
肉が焼ける匂いがする。
「人間というのは、実は電気が流れているんですよ。それを操作すると、こういう事もできるんです。……ああ、焼いちゃいましたけど、脳は食べませんからね、私」
自身から発せられる電気を増幅し、電流として、濡れた耳から脳に直接流し込んだ。
ただそれだけだ。
ジャガーノートの目から、生気が失われた。
「ふう、すっきりしました。たまには自分でやるのも良いですね」
気も晴れたし、大量の素材も手に入った。
予想外の高級素材も手に入って、またまたホクホクだ。
「ティタノベアは美味しいと聞きましたが、変異種は味がどう変わるのでしょう? 大きい分、大味になるのか、それとも……?」
「ああ、それならここで昼休憩にしますか? ステーキ食べ比べ、やってみますか」
「採用です、ガストン。とりあえず今食べる分だけ、解体を済ませましょう。シエラ、もう手伝えますか?」
「大丈夫よ、レティ! まかせてちょうだい!」
「イチたちも、ガストンの指示通り手伝うように」
「はい、レティさま」
ティタノベアとジャガーノートの食べ比べ。どんな味か楽しみだな。
私はジャガーノートの方が美味い、に賭けよう。
ここまで読んで頂き有難うございます。
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