正しいこと
いつからか...それは覚えていない。
自分で記憶を消して、この汚れた仕事をし始めたことだけ...それしか覚えていない。
俺は依頼人や逃げ出した子の話を聞き、その対象を殺す...そのような仕事をしている。
今まで何人殺したかなんて覚えていない、けれど...変わらず覚えているのは殺した人間の断末魔と、血の生あたたかい感覚...そして、冷たい視線。
俺が殺すのは基本、子を虐待する親、人を自死へ追いやった者、そのような者だけ。
だが人を殺す以上...誰にも理解されることもないし、感謝されることなんて以ての外。
だがある時だったか...ある冬の日の夜、公園で長袖長ズボンだけの泣いている少年を見つけた、背丈からしても年は小学生ぐらいだろう...普通ではない、そう思いその子を近くの小屋へ呼び、暖かい飲み物を出した、そうすると少年は泣きながら『ありがとうございます...ありがとう...ござい...ます...』そういいながら飲み始めた、当たり前だろう、冬の夜...寒いはずだ。
少年に何故あの場で泣いていたのかを聞くと、少年は口を開いて話してくれた。
『俺の...家、お母さんと、お父さんと、三人で住んでるん...ですけど、お父さんは...出張でほとんど家に居なくて...うっ...』
「ゆっくりでいい、ゆっくりでいいからな」
『ありがとう...ございます......』
『お母さん...勉強、熱心で...俺に、塾とか...ばっか行かせてて、自由な時間なんて...無くて、学校から帰っても、勉強、勉強...って...いつも、夜中までやらされて、遅いと...殴られたりして...それで、テストの点が90点だった時も、殴られて...』
「お父さんはそのこと、知ってるのか?」
『お父さんは...知らないと...思います...お母さん...お父さんの前では...絶対...しない、から...アザも、見えずらい所ばっかり...するから...』
「...それで逃げて公園にいたのか」
『...はい......』
「今日はここで寝な、多少は綺麗な小屋だし毛布もある、好きなもん食え、何食いたい」
『いえっ...悪い、です...帰り...ます......』
「親のことなら俺がなんとかしてやる、今は何食いたいか言え、ねぇなら適当に作るから」
『.........まかせ...ます』
「はいよ、アレルギーとかあるか?」
『ない...です』
「良かった、じゃ待っててな、すぐ作るから」
『...お兄、さん...なんでここまで...優しくしてくれるんですか?』
「ガキが泣いてるのは好かん、ガキが笑えんのは好かんだけ、これくらいの事ならするのが普通だ」
『...ありがとう...ございます』
「はっ、感謝なんていいんだよ」
「頑張ったな、もうそこまで頑張らなくたっていいからな」
『...はい...っ...お兄...さん......』
「出来たぞ、オムライスだけど食え」
『......っ!』
少年はオムライスを...口周りをケチャップで赤くしながら、泣きながら咀嚼していた。
「そんなに焦んなくても逃げないし時間はある」
『お兄...さんの...作ってくれたオムライス...美味しいです...美味しいです.........』
「そりゃ嬉しいな」
『...ご馳走様...でした』
「口元ケチャップだらけだぞ」
少年の口をティッシュで拭くと、少年は笑っていた。可愛い、小学生の...純粋な笑顔だった。
『ありがとうございます...!』
『...ありがとう...ござい...ます.........!!』
少年は俺の胸に飛びつき泣いていた、初めてだったんだろう、暖かい飯は、暖かい人は。
「いいんだよ、さっきも言ったろ、俺はガキが泣いてるのは好かねぇんだ」
『おにい...さん.....................』
少年は俺に抱きつきながら眠ってしまった。
仕方がないな......と思いながら、近くにあった毛布を少年へ掛け、俺は座ったままそのまま眠った。
朝起きると、まだ少年は寝ていた。
起こさないように枕を少年の頭に置き朝飯を作った。
朝飯も少年は美味しそうに頬張ってくれた。
その日中に、少年の家へと連れて行ってもらうと、少年の母親らしき女が出てきた。
化粧の濃い顔で、香水で誤魔化しているのか分からないが鼻に突き刺さるような香水の匂い。
出会って早々、俺はコイツが嫌いだと確信した。
女は口を開き
〈どこへ行ってたの!!塾もサボって!!こっち来なさい!!〉
少年を引きずる女の手を掴むと女は
〈所であんたはなんなのよ、うちの子を誘ってサボらせてわね、通報するわよ〉
「好きにしろよクソ尼」
〈はぁ?殺してやるわクソガ...き?〉
次の瞬間には、少年を連れ女から離れた場所に俺は立っている、それを見て女は驚いた顔をしていた。
それもそうだろう、自分の右腕がないのだから。
この世界には能力者が沢山いる、それは教育で教えて貰えるはずだ、それが普通の世界だから。
〈あんた...能力者なのね〉
〈私は能力者じゃないけどね...銃は最低限扱えるのよ!!〉
その言葉と同時、俺は動いていた、少年へ銃が向いていたから...少年へ撃つ気だったからだ。
女の首を飛ばした。
また、殺した。
俺の手で、人を。
いや、俺の殺したのは人間じゃない、獣だ、ケダモノだ...。
そう呟く俺に少年が触れ、言った
『助けてくれて...ありがとう』
何故、君が感謝する、何故感謝してくれる。
君の親を殺したのに、俺が目の前で殺したのに。
『...俺...母親のこと嫌いで。殺したかったんです、このままじゃ俺が殺されるかもしれなかったから...だから...しようと思ってたんです...』
『...お兄さん、ありがとうございます』
瞬間、俺は少年に抱きつき泣いていた。
「ごめん...!ごめん...。俺弱いから...これぐらいしか...出来ることが...無いんだ...ごめん...ごめん...。君を笑顔にするって言ったのに...ごめん...。 」
『お兄さん...俺、今、笑顔ですよ、もう...殴られたりしないから...嬉しいんですよ』
その後、少年の父親には全てを話し、金も用意し...掃除もし、新しい住むところも用意した、それで...許して貰えた。
今でも俺の行為が正しい事なのか分からない、それでも...この少年のように...苦しむ者がいる、そして、喜んでくれる者がいる...それだけで救われる気がした。
けれど...叶うなら、別れ際に握手しようとしてくれた少年の手を......人を殺す前の、普通の人間の手で握りたかった。
この汚れた手で触れるには...純粋で、綺麗な手だったから。
[ありがとう]
その五文字...その言葉だけは...正しいと肯定する訳ではないが...俺という存在を認めてくれてた気がした。
これからも沢山...救い続けよう。
出来る限りで...。
独りで...。




