宇宙恐竜ゼトロン、江戸土俵に立つ
また、(パクリ的な)くだらないことを思いついてしまいました。(´・ω・`)
天明の夜、江戸の空は静かに澄み渡っていた。
両国の川沿いには灯籠が揺れ、祭りのように人々が集っている。
そのざわめきを裂くように、突如、夜空に眩い光の亀裂が走った。
ごう、と風が逆巻き、天地が震える。
現れたのは、黒き仮面を戴く巨影――宇宙恐竜ゼトロンであった。
その体高は六十丈、体重三十万トン。江戸の町など一歩で踏み潰せる。
人々は悲鳴を上げたが、逃げ惑うばかりではなかった。
なぜなら今宵は、神々に捧げる「大相撲御前取組」の夜であり、土俵には特別な結界が張られていたからだ。
ゼトロンがその結界に足を踏み入れた瞬間、轟音とともに巨体は縮み、
やがて二メートル余りの巨漢として、土俵に釣り合う姿となった。
町人はどよめき、武士は刀に手をかけたが、やがて誰もが息を呑んだ。
そこにはまわしを締め、無表情のまま土俵に立つ「宇宙恐竜」がいたのである。
その対角に立つのは、江戸相撲界の誇る最強の横綱、谷川鍵之助。
肩幅は広く、岩のような体格。連勝に連勝を重ね、その勝率は九割を超える。
町人からは「人類最強」と讃えられ、子供たちは彼に憧れて相撲を取り、
武士たちですら「谷川こそ天下無双」と一目置いた。
呼び出しの声が朗々と響く。
「東方――宇宙恐竜ゼトロン!」
「西方――横綱・谷川鍵之助!」
両国橋を渡る風が止み、江戸の夜は水を打ったように静まり返った。
行司が軍配を掲げる。
「はっけよい……のこった!」
立ち合い。
鍵之助は低く構え、頭から全力でぶちかました。
どん! 衝撃で土俵が揺れ、砂が宙に舞う。
ゼトロンは無表情の仮面のまま、それを正面から受け止めた。
両者は組み合い、力比べとなる。
鍵之助の腕は丸太のごとく、ゼトロンの装甲は鉄壁。
町人が声を張り上げる。
「押せ押せ! 横綱!」
「負けるな、江戸の誇り!」
鍵之助は突っ張り、張り手、寄り。
ゼトロンは黙々と受け止め、一歩も退かぬ。
その仮面には表情がないが、どこか「楽しんでいる」ような気配さえ漂った。
攻防が続くうち、ゼトロンの仮面の口がぱかりと開いた。
次の瞬間、内部に赤熱の光が渦巻き始める。
――灼熱光弾。
放てば、土俵も相手も一瞬で灰燼と化す。
だが、ゼトロンはふと気づいた。
――これは、相撲の勝負において卑怯ではないか。
仮面の奥の瞳がわずかに揺らぎ、火球は消え失せる。
宇宙を渡り歩いた怪獣の胸奥にさえ、土俵の掟が届いたのだ。
その一瞬の逡巡が、致命の隙となった。
「今だ!」
鍵之助は吠え、渾身の力でがぶり寄った。
土俵を割るかのような足運びで、一歩、二歩とゼトロンを押し出す。
ゼトロンも踏ん張るが、その迷いが命取りであった。
「のこったぁぁぁ!」
最後の寄り切り。
観客の大歓声とともに、ゼトロンの巨体が土俵際からどん、と押し出された。
行司の軍配が高く振り上げられる。
「勝負あり! 横綱、谷川鍵之助の勝ち!」
ゼトロンは土俵の外に倒れ込んだが、やがて静かに立ち上がった。
まわしを正し、無言で深々と一礼する。
その礼の姿に、観客は誰一人声を上げられなかった。
土俵の周りを埋め尽くす者達は、ただ息を殺して見つめていた。
宇宙の怪獣ですら、土俵の掟には従うのだ。
こうして江戸の夜、
宇宙恐竜ゼトロンと人類最強の横綱・谷川鍵之助との取組は幕を閉じた。
後に町人たちは語った。
「あの夜、江戸は宇宙をも超えた」と。
子供たちは真似をして土俵を作り、いつしか伝説は語り継がれていく。
――人類が宇宙恐竜を相撲で打ち破った夜として。
次回(まず無い)
ゼトロン、地方巡業へ
ゼトロン、ちゃんこ鍋を食う