ソシャゲの敵チームリーダーは運営の犬です。
敵だって、苦しみを持っている。ちょっと身近な感じだけど。
ピリリリリ
「...始まるのか。」
午前0時、メンテナンスは開始時間。ユーザーは睡眠時間と被りありがたいと感じるのだろう。でも私にとってはメンテナンスこそが仕事であり、午前0時と言うのは忌み嫌う時間である。
まずは自己紹介とゲーム説明をしよう。私はとあるソシャゲで"マーシャライズ"と言うチームで総裁を務めるガミラスという者である。そして、敵キャラである。ゲーム名はダーティクロニクル、略してダークロ。ゲームとしてはこちら側が用意するギミックに対応するキャラがダンジョンに来て、私たちを倒すという形のアクションゲームだ。
今回のメンテナンスなのだが実は私たちが深く関係している。実はダークロはキャラクター以外にカードという能力を追加できるシステムがある。カードはガチャや確率ドロップで入手することができる。
ドロップでゲットできるカード。今回はここが重要である。我がチーム、マーシャライズの第二隊副隊長アルカノイドが満を辞して前回のアップデートで追加されたストーリーで華々しく退場した。そこまではよかった。金髪でイケメンで深い過去が用意された彼は人気がと〜っても高かった。
・・・と〜っても高かったのだ。だから期待に添えないとユーザーから大バッシングを喰らう。それを恐れたビビリのアホ運営は私にこんな提案をふっかけてきた。
「スキル使用までの秒数は長いけど、体力半分確定で持ってけるスキルお願いね〜!」
断れるはずがなかった。なんせほんの数ヶ月前のアップデートで運営に楯突いたラスボス候補だったチームが突如何の予兆もなくストーリー内で崩れた。そしてキャラクターたちは他のチームに吸収された。普通に考えてそのチームよりも影が薄い私たちが楯突けばテキスト表示だけで済まされる。それにアルカノイドは出さないと更にチームの影は薄くなってしまう。あと普通に自分のチームメンバーが他のチームに取られたらムカつく。
そして今日、数時間前のことだ。
「最近ルークのフィギュア強奪事件もあって物騒ですよねー。ところで"博士の心意気である"、このカードがどうしたんですか?」
運営から急遽カードが渡された。運営曰く先ほど言ったラスボスチームの最後の輝きとして出したネタカードらしい。確かにルビィ博士というキャラがあのチームにはいた。
「実はこのカード以外にも、ルビィ博士シリーズって言ってる語尾に"ある"がついてるカードがあるんだよね。結構弱いカードなんだけど。」
問題を正確に理解した今はこの時点で気づかなかった私の鈍感さに呆れてしまう。
「このカードの能力が"ある"とついているカードの発動時間を短縮する、という能力。それで2秒で打てるんだよね。」
私はこの時点で急な寒気に包まれた。実は今でも続いているが。
「・・・"アル"カノイド、ですか?」
表情を動かさずに顔を縦に振る運営たち。あの表情は今に至るまで頭にこびりついている。
「2秒でHP半分、4秒で倒せる。このゲーム楽しいと思う?しかも高難易度追加したばっかの!」
なぜあんなに喧嘩腰なのかはわからない。あの時の私は全責任が自分にあると思い、
「メンテナンスを開始してください!私のための謝罪会議をさせてください!」
と咄嗟に発してしまった。もちろん後悔は今でもしている。だが一番の後悔は
「もう名前入れたら良くね?アルカノイドの生き様、っと!これで印刷お願いねー!」
と2秒で決定してしまった私の馬鹿な行動のほうである。奇しくも2秒、である。2秒にこれほどまでの悪縁があるなど数ヶ月前は思ってもいなかった。
というわけで今から謝罪会議が始まる。運営が相手に連絡してくれた。そのくらい当然だが。まあ謝罪会議と言っても今回謝罪するのは1名だけである。
"マッドルーク"今回の高難易度ダンジョンで追加されたキャラである。またルークというキャラの色違いキャラ。高難易度ではカードではなくキャラがドロップする、というダークロお馴染みの手口によって生み出されたキャラだ。
自分の反省をしている間にマッドルークが住んでいる、死神の暗闇城に到着した。禍々しいオーラを放っていると思っていたが今では私の負のオーラがそれを上回っている。その証拠にコウモリたちが私の周りを可愛く飛んでいる。
「はあ、入りたくないなあ。てか何で私だけしかいないの?」
城を目の前にしたら途端に怒りが湧いてくる。私は上の指示に従っただけであり、売上にも貢献している私が何でこんなに責任を背負わなければならないのだろう。
「私たちにはアルカノイドがいるんだぞ!人気投票2位だぞ!
・・・死んだけど。」
アルカノイドのことを口にすればするほど虚しい気持ちだけが心に降り積もる。
ドタドタドタドタ
やっと降りてきたか。早く降りてきてくれないとメンテ延長しちゃうからやめてほしい。
バンッ!
「うるせーぞ!!コウモリちゃんたちが逃げるじゃねーかよ!」
バタバタバタバタ
やっとドアを開けたと思コウモリちゃんたちの心配をしているようだがあなたの大声でコウモリちゃんたちが私の元を離れて行ったことは理解しているのだろうか。
「すいません、謝罪に参りましたガミラスです。」
私はマッドルークに丁重に挨拶をした。つもりなのだが、、、
「てめー誰だ!ああん゛!!お呼びじゃねーんだよ!!」
随分と手荒い歓迎を受けた。本家のルークは王子様のような爽やかさが特徴なのに、色が変わるとこうも性格が変わるのか。ルークも人気キャラなのに検索したらこいつも一緒に出てくるのは少し気の毒だ。
マッドルークは私が城の中に入るのをとてつもなく拒んだが私のチームリーダーらしい威圧感とほーんの少しの、本当に少しの地面とディープキスを交わす土下座のお陰で無事玄関前で話すことになった。
「とりあえずこれ見ろ!!」
「なんだこのオーラ!!!」
「おお、俺のオーラで真っ暗だろ!!」
目の前に一面広がる闇の景色。絵の具をぶちまけたような光景、まさにマッドにふさわしいこの景色だが私もチームリーダーとして飲まれるわけにはいかない。
「すいませんでした!!!!弁償します!!!」
本気の威嚇とほんーの、本当に少しの弁償で解決できる。ガミラスという看板の大きさがこのゲームを支えている。まあアルカノイドには負けるが。
「おいこれを見てくれよ!!」
マッドルークが指を指しているようだが闇のオーラが私を圧倒しているせいか何も見えない。
「これだよ!!フィギュア製造の機械だよ!!」
このゲームではキャラクターを提供する際にはこちらがフィギュアとして作らなければならない。プラスチックのパーツを運営から買って作る。そうなればカードと違ってコストが莫大になる。
「だからこの機械費用とか諸々合わせて5000万ゴールド払えや!!あと早く土下座しろ!!」
5000万ゴールド。ゴールドが湯水のように湧き出てくるぬるま湯に浸かっているプレイヤーたちはわからないかもしれないがこちら側からすれば5000万ゴールドあれば全キャラクターの凸が可能なぐらい莫大なのだ。そんな金額をたった一度の文字化け程度の軽いバグくらいのミスを犯したくらいで払えなんて
「払います。すいませんでした!!!」
ドンッ!!
ほんの少しの私の顔3つ分のたんこぶができる程度の軽い土下座で許される。
・・・許される。悔しい。一つのチームを作ったと思ったら手塩をかけて育てた愛弟子に逆に上手くチームに味をつけてもらったし。マッドルークとかいうパチモンには真剣な本物の土下座をしてしまうし。恥ずかしい、恥ずかしい。もう目の前が真っ白になってしまう。
怒りの涙で床が光っている。だが何かがおかしい。私は頭で全力で涙を拭き取る。
「マッドルークさん。お金を払う前にいいですか。」
「なんだよ!!!」
「さっきあなたのオーラと言いましたが違いますよね?この闇はオーラでなく、塗装の色だ!!」
「そ、そんなわけねえよ!!こんなに大掛かりな機械があっるのによ!!」
言葉では冷静そうだが小刻みな揺れで涙の水溜りが揺れている。動揺していることを私の涙で知るとは、悔しいが涙が役に立つとは。
「で、でも塗装はするだろ!!」
「塗装しない!!塗装するとしたら、既存のフィギュアに上塗りする時だけだ!!」
「それもあるだろ!!」
「ならこれを見ろ!!!」
私は服に溜めた涙の水溜りにマッドルークのフィギュアを擦り付ける。
「あっ!!」
綺麗な水溜りが闇に染まる。そして現れたのは
「このルークのフィギュア。あなた盗みましたね?」
「うっ!!」
「それにおかしいんですよ、運営は私が行くことをあなたに連絡したと言っていました。だがあなたは白々しく私が事前に来ることを知らないように対応していた。知っていたら普通城の中に入れますもんね。流石にお茶だって出すはずだ。でも入れれない事情があった。だってあの機械も全部ハリボテだから!!それにすぐに土下座させたのも視線をすぐに機械から逸らすためだからだ!!」
決まった!
「すいませんでした、、、」
だがまだ終わらない!涙の恨みはこの一撃で晴らす!
「マッドルーク!!もし機械がハリボテで盗んだフィギュアを塗装しているだけなら、私が刷ったカード代の方が高い!!弁償するのはそっちだ!!あとモンスターの中にルビィ博士いるだろ!!」
「払います、、、ルビィ博士も謝らせます、、、」
こうしてメンテナンスは終わった。マッドルークは借金返済のためにとにかくクエストを難しくして負けた時のコンテニュー石を稼ぐことにしたらしい。運営はお陰で適正キャラ追加で儲かってウハウハ。
一方私は暇している。アルカノイドの死がこの前あったから当分私の出番はない。
でも、天から私の勇姿はアルカノイドに魅せられたと思う。カッコ悪いリーダーだけど、簡単に色が落ちてしまうようなハリボテではない。地に足をつけながら私はサ終の日まで歩み続ける。
面白いと思ったら是非⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎、ブックマークよろしくお願いします!!