54 ユウトの株主は……
ユウトはルミネ村に急いでいた。今日は荷馬車ではなく、きちんと自分で頼んだ馬車だ。荷馬車が来るまでなんか待っていられなかった。
「おいらも行く!」
「私も行こうかしら。今日は、お店はお休みにしましょう」
などと言って、エリオとサラも一緒に行くことになった。二人ともじっとしてはいられないといった様子だった。
もちろん、ユウトもそうだ。だから、荷馬車を待たずにルミネ村に向かっている。一刻も早く、新しく入った情報をみんなに伝えたかったからだ。
◇ ◇ ◇
「いやいや、よく来たね。生産はとても順調だよ。ハンスさんもいて助かっているよ。今もバリバリ中で働いているよ」
ルミネ村の前で出迎えてくれたのは、いつもの分厚い眼鏡を掛けたエレノアだった。最近は、エレノアも連絡用にとクリスタルタブレットを購入したのでユウトたちが行くことをわかっていたのだ。
「それと、ガルドの件はうまくいったようだね」
「え?」
エレノアに言われて、ユウトは首を捻る。
「ほら、ガルドが不正をしていたという報道が出ただろう? あれはね、私が新聞社にたれこんだんだ。こっちも軌道に乗ってきたし、そろそろいいかと思ってね。今ならガルドの工場にいた人たちをこっちに受け入れることだって可能だろう? 頃合いを見計らっていたんだ」
「エレノアさん……」
ユウトは開いた口が塞がらなかった。
「いつの間にそんなこと……。いや、確かに色々こっちに有利になったし助かりましたけどね。しかも、全員受け入れるのは……。まあ、軌道に乗ればなんとか、なる、か?」
「うんうん。なんとかなるさ。人助けにもなるし、本格的に動き出せば新しい人手だって必要だろう?」
エレノアはテヘペロ、と可愛く舌を出した。そんな仕草をされては誤魔化されてしまうに決まっている。それに助かったのは本当に確かだ。
更にエレノアになにか言おうかとユウトが考えていると、
「ユウト!? 来たのか?」
馬車が着いたことを聞きつけたのか、ミオが走ってくるのが見えた。
「本当なのか!? 有力な貴族たちが星屑電池の生産を援助してくれるというのは……!?」
「本当なんだ。俺もびっくりしてるけどな」
開口一番、言ったミオにユウトは答える。
「星屑電池に、援助……。本当なんだな……」
「ああ、大株主にも名前を連ねてくれるみたいだ」
「私も言ったじゃないか。信じていなかったのかい?」
「も、もちろん、信じてはいたんだが。訳がわからなくて……」
エレノアがからかうように言うが、ミオはどうやら混乱しているようだ。エレノアは、全く驚いていない様子だ。さっきも、もうわかりきったこととして先にガルドの話の方をしていた。
「しかも、あのガルドが捕まったんだろう?」
ミオは当たり前だが驚いたようにユウトに詰め寄る。その様子を、全てわかっているエレノアはうむうむと首を縦に振りながら見ている。自分がたれこんだということは吹聴する気はないらしい。だから、ユウトは自分で説明することにした。
「そうなんだ。もう魔力電池が作れなくなるかもしれないことを、出資してくれている貴族たちにも隠してたらしくてさ。それで不正をしてたっていきなり信用を無くしたみたいなんだんだ」
「そういうことか……。そんなやつにこの村はずっと……」
「でも、これからは違うんだ。あいつに酷い扱いを受けることはなくなる。ルミネ村もルミネ鉱山も星屑工房も発展するよ。豊かになるんだ、きっと」
「ユウト……」
ミオの目が少し潤んでいるように見えた。
「ミオ! 大丈夫か!? 目にホコリでも入ったか!?」
「ば、馬鹿! これは……、そのっ、ちょっと嬉しくてだなっ」
「わー、ユウト兄。ミオさん泣かせてる。女の子を泣かせたらダメなんだよ。ね、サラ姉」
「嬉しくて泣いているのなら、いいんじゃないかしら」
「うっ、こんなところを人に見られるなんて……。ユウト! お前がでかい声で言うからっ」
ミオが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「ごめん、ミオ」
「全く……」
ミオはむすりとした顔でそっぽを向いてしまった。
そのとき、
「おお、ユウト君。来ていたんだね」
今度はミオの父親、テオがやってくるのが見えた。
「私も色々と聞いたよ。ありがとう。ユウト君のおかげで、この村はなんとかなりそうだ。みんなを代表してお礼を言うよ」
「い、いえっ。俺はただ、会社を起こしただけでみんながいてくれたからなんとかなったんですよ。みんなのお陰です」
ユウトは周りにいる人たちを見回す。
エリオ、エレノア、サラ。それに、今ここにはいない、株主の人たち。鉱夫のみんな。
そして、ミオ。
「誰が欠けても、きっとここまで来れなかった。と、思います。だって、俺一人じゃ星屑石の価値もわからなかったし、星屑電池の開発もできなかったし、資金だって集められなかった。それに、ガルドの手の者たちが来た時に撃退だってできなかった。俺、弱いですから」
はは、とユウトは笑う。すると、
「そうだね。私がいなければ、星屑電池は間違いなく完成しなかったね。しかも、もう量産体制は整っている。更に更に! 規格は魔力電池と同じだ。つまり、魔力電池で使っていた機器を星屑電池でも同じように使えるということさ。これは、魔力電池を開発した私でなければ絶対に無理だったからねっ」
はっはっはと、エレノアも胸を張って笑った。自分が作った物に対しては、自慢する気満々らしい。もちろん、この人には世話になりっぱなしだから、その態度を否定する気もない。
「ほら、見ておくれ。あの立派な工場を! あの中で星屑電池が作られているんだ。出荷も間近なのだよ」
エレノアは本当に嬉しそうだ。眼鏡を掛けていてもわかる。
「確かに、エレノアさんにもお世話になったなあ。ガルドのところを辞めてこっちに来てくれたんだから」
今度はテオが言った。
うんうん、とユウトは頷く。
「みんなすごいよ。本当にすごい」
思わずユウトは呟いてしまう。
「ミオは強いし」
ユウトが呟いていると、
「ユウトもすごいぞ」
隣からひそりと小さな声がした。ミオだった。
「え?」
「ユウトもすごい。ユウトがいなければ、みんながまとまることもなかったんだからな。ユウトはすごい。私はそう思っているぞ。前も言っただろう? ユウトはもっと自信を持て」
ミオは真っ直ぐにユウトの目を見て言う。
「え……。その、あ、ありがとう」
ミオはそう言ってくれるけれど、まだユウトには実感が無い。それでも、嬉しいのは確かだった。
(ただの引きこもりの負け犬投資家が異世界転移して、ここまでできたんだ。すごい、よな? だって、引きこもりもせずに、外に出て大勢の人と話して、会社なんて起こして成功して……。とりあえず、色々やった!)
ユウトは深呼吸して目の前を見る。
目の前には、前の世界ではいなかった仲間と自分を信じてくれている可愛い女の子がいる。
そして、これから大きくなっていくであろう会社の工場もある。
「わ! ユウト兄! これ見て!」
感慨に浸っていると、エリオが叫んだ。どうやら、クリスタルタブレットを見ていたらしい。
「なんだよ、こんなときに……」
「クリスタリス通信の株価が上がってるんだよ! ユウト兄、まだ持ってたよね?」
「あ、ああ」
確かにまだ上がる可能性があるかと思って、資金がなくなったときの最後の切り札的に持っている分がある。
「なんか爆上げしてるよ」
「なにぃ!」
ユウトはクリスタルタブレットをのぞき込む。
「本当だ! なんでだ!?」
「えっと、星屑電池が商品化されたらクリスタルタブレットも安くなって庶民でも手が届くようになるかもしれないって、期待で買われてるっぽい」
「マジか!」
思わず投資家としてユウトはガッツポーズしてしまう。
自分が経営側に回っていても、他に持っている株があればそれが上がるのは嬉しいに決まっている。しかも、自分が起こした要因によって上がっているのだ。喜ぶなと言う方が無理だ。
「ユウト、本当に株が好きなんだな」
「まあ、な」
呆れたようにミオが言うが、その言葉に刺々しさは全く含まれていなかった。出会った頃とはすごい違いだ。
むしろ、仕方ない人だなという感じで微笑んでいるように見える。
ユウトは鉱山の方へと目を向けた。そこでは、忙しそうに鉱夫たちが働いているのが見える。その顔は心なしか前より輝いている。子どもたちの遊んでいるような声もどこかから聞こえてくる。前には考えられなかった平和な光景だ。そして、村がこうなったことにはユウトが関わっている。
もちろんユウト一人で全てができたとは思わない。それでも、この村が立ち直るきっかけを作ることができたことは嬉しいに決まっている。
これはマネーゲームなんかじゃなく、みんなの力と実力で勝ち取った勝利だ。
「……そういえば」
ふとユウトは思って、ミオのことを見る。
「どうした?」
「もう、ミオは投資家が嫌いじゃないのか? 最初に出会ったときはすごく嫌われてたみたいだったからな」
「あのときは、まだ何も知らなかったからな。投資家がガルドのように酷いやつらばかりじゃないと教えてくれたのは、ユウト。お前だ。それに、今は私も投資家だからな」
にやり、といった顔でミオは笑う。
「よかった。まさか、ミオまで投資家になるなんて思わなかったな」
「星屑工房に限るけどな」
「お、おう」
そう言われると本気で信頼されているようで、株のことを言われているだけなのになんだか照れてしまう。それで、思わずユウトはぽろりと口に出してしまった。
「あのさ、俺の株価ってミオの中でどれくらい?」
言ってから、ハッと我に返った。ゲームなんかでよくある親密度的な感じで聞いてしまったが、ミオには通じただろうか。ここはファンタジー世界のように見えても現実なのだ。それに、結構恥ずかしいことを聞いてしまったかもしれない。
「は? 何を言ってるんだ? ユウトの株価……?」
案の定、ミオは少し悩むように首を捻った。それから真っ直ぐにユウトを見た。そして、言った。
「ユウトに株価なんかつけられるわけないだろ。けど、ユウトの株主は私だけだ。他のヤツには絶対に渡さないぞ」
「えっと……?」
最初はなにを言われているのかわからなかった。けれど、ハッと気付いてユウトは顔が熱くなった。もしかして、ミオにとんでもないことを言われたかもしれない。もちろん、親密度的に言って、それは最上級の表現で……。
よく見ると、ミオの顔もなんだか赤い。
ユウトはごくりと唾を飲み込んで、思い切って聞いてみた。
「あのさ、それはミオの株主も俺だけでいいってこと?」
ユウトの言葉に、ミオは顔を赤くしたままこくりと頷いた。




