51 買い上がれ!
「よし! 壁、喰ったぞ!」
ガルドが作っていたと思われる壁が、ルミネ村のみんながお金を出してテオが買ってくれた株のお陰で破られた。
『うお、いきなり壁喰った!』
『どうした? これ、もしかして上行くのか?』
掲示板もざわつき出す。
「よし!」
ユウトは思わずガッツポーズをした。これはいい流れだ。
『もう出来上がってて、体制が整えば販売はできるんだもんな?』
『公式サイトでは、そう言ってたぞ』
『この株価なら買ってみるか?』
掲示板の流れが変わるのが見ていてわかる。
少しずつ、株価が動いていく。もちろん、上に決まっている。急速にではないが、じわじわと株価が上がっていく。
「これはどういうことなんだ?」
「この数字が今の株価なんだ。今、上がっただろ?」
「これが、株価……」
ミオも興味深そうにクリスタルタブレットをのぞき込んでいる。
「さ、下がった!」
今の状態で不謹慎だが、素直に反応しているミオが可愛いと思ってしまう。
「株は上げ下げを繰り返すものなんだ」
「本当だ。今度は上がった」
ミオは株価の上下に釘付けになっている。最初に出会ったときに、投資家が嫌いなどと言われたのが嘘みたいだ。
今はミオも株価を見ることに夢中になっている。
「私は、まだ買わなくてもいいのか?」
「もう少し待ってくれ」
そう。まだミオの分は投入していない。
「安定して上がってきたね」
「エリオが呼びかけてくれたからな。それと、ルミネ村の人たちの分を投入したのが効いたな」
思わず笑みがこぼれる。ここまでハマってくれると仕掛けた方としては、嬉しくなるのは仕方ない。
けれど、
「また出たか、壁」
更に高いところに壁が出現した。
「頼む、ミオ。それと、テオさんも残りの分。お願いします」
村の人たちから預かった分も、一気に全部買ったわけではない。もし、全てを一気に使ってしまって手詰まりになると困る。
「ようやく私の出番か」
ミオがなんだか嬉しそうだ。
「きっと、あれを破ればかなり安定すると思います。よろしくお願いします」
「わかった。私はやるぞ」
もはや、投資家が嫌いだと言ったことなど完全に忘れているようだ。ミオに嫌われるのは困るので、ツッコミは入れないことにする。それに、ミオが株に嫌悪感がなくなっていることはユウトからすればいいことだ。株が悪いわけではない。それを不当に操って儲けている連中が悪いだけなのだ。
「すごいぞ、ユウト! 私が買ったことで今、株価が動いた!」
「だな」
ミオが目を輝かせる。まるで子どものように喜ぶミオが眩しい。戦っている姿も好きだが、こうして無邪気に笑うミオもとてもいいと思う。
「私が、動かしたんだな」
「そうなんだ。株はそうやって動くものなんだ」
「すごいな」
壁は再び喰われた。
掲示板も勢いづいている。
そこに、
「サラ姉!?」
サラが現れた。
驚きの声を上げたのはエリオだ。
「みんなで集まっていたのね」
うふふ、とサラが微笑む。
「なんで、ここに?」
エリオは不思議そうに言いつつ、嬉しそうな顔をしている。サラの顔を見るだけでものすごい変わりようでわかりやすい。
「私も仲間に入れてくれないかしら」
にっこり笑ってサラが言った。
「サラ姉、どうして?」
「だって、これからものすごく大きくなる会社なんでしょう? それなら私も応援したいわ。私だってあの説明会のとき、ちゃんと聞いていたもの。今、投資しておけば更に大きなお金になって返ってくるんでしょう?」
「サラさん……」
穏やかに微笑みながら言われると、ユウトたちのためなのかお金のためなのかよくわからなくなる。それでも、株を買ってくれるのはありがたいに決まっている。
「どうやって株を買えばいいか教えてくれるかしら?」
「おいら教える教える!」
「ありがとう、エリオ」
エリオがサラにまとわりつく。
「ユウト兄は、そこで待ってていいからね。おいらが教えるから!」
「わかったわかった」
「サラ姉、こっちこっち!」
「あらあら」
どうやら、エリオはサラに頼られていることが嬉しいらしい。本当にわかりやすい。頼りにされたいわりには、サラにまとわりつく子犬のようになってしまっているのだが、本人はそれに気付いていないらしい。
「サラさんも投資してくれるなんて、心強いな」
「説明会の会場を貸してくれたという方だね。私たちの村のためにありがたい」
「はい。とても頼りになるいい人です」
ユウトは頷いた。まさか、サラまでが投資してくれるとは思っていなかったから、現れたのには驚いた。サラも星屑電池に魅力を感じてくれているのを知って嬉しくなる。
(他の投資家も、きっと本当に星屑電池の可能性を信じてくれているんだよな。だから、みんな投資してくれてるんだ。期待に応えないとな)
目の前で信じて投資してくれる人を見ると、頑張らなくてはいけないなと思う。
投資はゴールではなく、スタートでしかない。
ここを乗り切ったら、星屑電池の量産に入ることになる。そして、この世界の人たちに安定したエネルギーを届けるのだ。
(ガルドも魔力電池の先の無さを考えて、星屑電池を作れる俺たちの会社を乗っ取って自分のものにしようとしていた。そうすれば、またエネルギーは独占できる。そんなことになったら大変だ。誰も救われなくなってしまう)
「あの、テオさん」
「なんだい?」
「星屑石は、俺たちが使っても問題はないんですよね。そういう契約だと言っていましたよね?」
「そうだよ。ガルドは、クズ石だと思っていたあの石の廃棄に掛かるお金さえ出そうとしなかったからね。自分に利益があるところだけは搾り取って、お金が無駄に掛かるところは私たちに押しつけていたんだ。きちんとそれを記した契約書まで残してあるから、大丈夫なはずだよ」
「よかったです」
ミオからもそのことは聞いていたが、もう一度確かめたかった。
ガルドは自分の鉱山であるにもかかわらず、星屑石には手出しはできないということだ。だとしたら、乗っ取りさえ防げればきっとなんとかなる。




