50 ミオの提案
「一人ずつ証券会社の口座を作るのは大変なら、私がみんなのお金をまとめて作るのはどうだろう?」
村長であるテオの提案には村のみんなが賛成してくれた。
「村長なら安心だ」
そう言われているところを見ると、どうやら村人たちにはとても信頼されているようだ。ミオも誇らしげにテオのことを見ていた。
株の取引をするにはクリスタルタブレットを持っていなければ、王都の取引所に行くしかない。
そういうわけで、テオは村人たちから預かったお金を持ってユウトとともに王都に向かうことになった。
「私も一緒に行く。みんなのお金を預かっているんだからな。護衛も必要だろう。この動きは知られていないだろうが、心配だからな。私がいない間に、また工場が襲撃されないかも心配だが……」
「それは俺たちに任せておけ」
「おう!」
「安心して行ってこいよ」
さすが肉体派の男たちだ。こうして集まって声を上げているとかなり心強い。ここは任せても大丈夫そうだ。
◇ ◇ ◇
「私一人でも、その、株主っていうのにはなれるだろうか?」
無事に王都についてテオが手続きをして株券を買おうとしていたとき、ミオがぽつりと言った。
ミオがなにか言いにくそうにもじもじとしていたから、どうしたのかと思っていたときだった。
「ああ、うん。もちろん。エリオだってなってるんだからな」
「私の持っている分でも足りるだろうか?」
「今、それほど高くないから、みんなとまとめてじゃなくても買える株価ではあると思う、けど」
言いながら、ユウトはミオの意図が掴めなくて困っていた。そこに、テオが助け船を出してくれた。
「ミオはもしかして、私たちとは別で個人の株主になりたいということかい?」
テオの言葉にミオは頷く。そして、言った。
「私は大勢の中の一人ではなく、私個人として星屑工房の株主になりたいんだ。ユウトのことを、応援したいんだ。ユウトがしていることに対して役に立ちたい。別に、みんなと一緒でもいいということはわかっている。だけど、私は……」
「ミオ……」
ユウトは胸がじんとした。
テオはうんうんと頷いている。
「私は構わないよ。ミオはそうしなさい。貯めていたお金を持ってきたんだろう? せっかくここまで来たんだからね。ユウト君もそれでいいかい?」
「は、はい! ミオさんが応援してくれているのは嬉しいので!」
テオへの返事だったので、うっかり素直に言ってしまった。もしかしたら、ミオもそうだったのかな、とユウトは思った。
そして、ミオは他のルミネ村の人たちとは別に、個人で株主になることになった。
「ユウト兄! ここにいたんだね!」
エリオが取引所に駆け込んできた。
「そっちはどう?」
「なんとかなりそうだ。エリオの方はどうなってる?」
「掲示板でも頑張って呼びかけてみた。そうしたら、少しだけどわかってくれる人がいたみたいで、今はヨコヨコが続いてる」
「よし。ちょっと見せてくれるか?」
「うん」
エリオがさっとクリスタルタブレットを取り出す。
「これ、見て」
確かにチャートはヨコヨコが続いていた。
「板は……。蓋があるか」
「そうなんだ。これが突破できなくて困ってる」
「蓋?」
エリオが首を捻る。
「蓋ってのは、この価格は突破できないと投資家たちに思わせるために、大量の株を同じ値段に置いてあるものだ。これは、明らかに株価操作だと俺は思う。もちろん、やっているのはガルドだろうな。仲間がいるのなら、ガルドたち、なのかもしれないが」
「そっか、蓋。コイツのせいで」
エリオはじっと板を見てマユをしかめる。
「蓋、喰えるか……?」
星屑工房は元々の株価がまず低い。
「一気に喰えば、他の投資家も追随して買い上がってくれるかもしれない……」
「どういうこと?」
ユウトの呟きにエリオが再び不思議そうな顔をしている。
「蓋があると心理的にも株を買い辛い。だが、この蓋がなくなったらどう思う?」
「うーん。もしかして、株価が一気に上がるかもってなるかも?」
「それなんだよ」
こくり、とユウトは頷いた。
そういう動きは前の世界の相場で何度も見てきた。株は心理戦だ。
エリオが呼びかけてくれたとはいえ、まだ買い渋っている投資家もいるに違いない。いくら信じてくれと言っても、下がっている株を買うのは勇気がいる。
ユウトはミオとテオに向き直った。
「お願いできますか?」
「ああ、今の話を聞いて私の全てをかける価値があると思ったぞ」
「私も、村のためにそこまで考えてくれているユウト君たちにかけたいと思うよ。もちろん、村のみんなもそう思っているはずだ」
ミオもテオも頷いてくれた。
「ありがとうございます」
ユウトは二人に頭を下げる。
「お願いします」
「任せておけ」
ミオが笑う。ユウトの言ったことを本気で信じてくれている顔だ。その笑顔を見ていると、負ける気なんてしなかった。
(いや、負けるわけにはいかない。俺たちは勝つ! これは、マネーゲームじゃない。本気の戦いだ! ガルドの好きにさせてたまるものか。星屑工房は俺たちの大切な会社だ!)
ユウトは気合いを入れるように、拳を握りしめた。




