47 対峙
予想通りと言うべきか、あの襲撃事件は握りつぶされた。
ミオやテオに話しても、どこに話しても問題になどしてくれないと言われた。確かに、ユウトもどこに訴えればいいのかすらわからなかった。相手は地位も金もある貴族だ。
「ユウト兄、大丈夫だったの!? そんなの酷いよ。でも、そういうのってどうすることもできないんだよね……」
王都に帰って話したときエリオですら、そう言った。
(この世界はそういうものなんだな……。悔しい)
前の世界なら、警察など訴える場所はあった。けれど、権力のある人間ならある程度握りつぶすことはできた。
(同じようなものか……)
思い返せば、どこも同じようなものなのかもしれない。
(機関の株価操作すら取り締まられてなかったもんな!!)
前の世界でやっていた株のことを思い出して腹が立った。
(でも、今の俺が星屑工房の社長だ。ガルドには同じ経営者として、負けるわけにはいかない)
「今は、どうにもできない」
わかりきったことを、まずユウトは口にする。
「けど、これからガルドが手を出せないほどの会社に成長すればいいんだ。不正なことなんかはね返すような会社にな」
「ユウト兄……」
(って、この前エレノアさんに似たようなことを言われたんだけど、俺だって本気でそう思ってるんだ)
「俺たちの会社には、それぐらいの可能性があるんだからな」
自分自身に言い聞かせるようにユウトは言った。
◇ ◇ ◇
(エリオにはああ言ったものの……。結局、気になって来てしまった)
ユウトがいるのはヴァルクロウ商会の工場の前だ。ガルドの屋敷まではさすがに知らない。ガルドに会うためには、ここしか思い浮かばなかった。
なんのニュースにもならず、問題にもならなかったということは本当にガルドの仕業かどうかすらわからないということだ。わからないままだと、もやもやする。
ミオはガルドの手の者だと言っていた。だが、確証はなかった。
それで、ユウトの足はこの場所へと向いてしまった。ここに来てもガルドに会える保証はない。それでも動かずにはいられなかった。
もちろん、会ってどうするかすらも考えていないのだが……。
「って、マジで出てきた!」
不機嫌そうな顔をしたガルドが工場から出てくるのが見えた。そこにどこかで待機していたらしい魔力馬車がやってくる。
ガルドはそこに乗り込もうとしている。
このままだと、ガルドは行ってしまう。
思い切って、ユウトは一歩踏み出した。そして、
「ガルド!」
その名前を叫んだ。ガルドがゆっくりとユウトの方を向く。
すぐにユウトとガルドの間に、ボディガードのような男が入り込む。そもそも、ユウトは敷地の外にいるので、何もできない。それに、そんな力もない。
むしろ、すぐに叩きのめされたりするのではないかと身構える。今日はミオもいない。ユウト一人だ。
それでも、確かめたかった。そして、なにか言ってやりたかった。
「なんの用だ」
ガルドが口を開いた。つかつかとユウトに近付いてくる。
「ガルド様っ」
ボディーガード止めるが、
「よい」
それをガルドが制した。
さっきもボディーガードが間に入ったとはいえ、まだ工場の門にある柵が開いていないので、対面は柵越しだ。その余裕もあるのだろう。それはユウトにとっても同じだった。なにもないままならもっとビビっていたと思う。
「なにか、言いたいことでもありそうだな」
「あ、ああ」
ユウトはキッとガルドを睨みつける。
「村の工場を襲撃させたのはお前、なのか?」
「貴様! ガルド様になんという口の利き方をっ!」
「よい。口の利き方もわきまえていない下賤な者だ」
「は、はいっ!」
フッと、嫌みったらしくガルドが顔を歪めて笑う。
「なんのことなのか、私にはわからぬな。言いがかりは止めてもらおうか」
「言いがかり……、か」
そう言われてしまえば、証拠はどこにもない。
が、その答えを聞いてユウトは逆に確信した。
ガルドは全く驚いても激高してもいない。むしろ、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
そして、ガルドはわかっている。
ユウトの顔も、星屑工房のことも知っている。詳しく伝えていないのに、何も聞いてこない。ということは、聞かずとも全てを理解しているということだ。
「言いたいことはそれだけか?」
ガルドが高圧的に言う。
ガルドがやったことだとわかっても、今のユウトにはどうすることもできない。
ユウトが何も言えないでいる間に、ガルドはすでに魔力馬車に乗り込もうとしていた。
今のユウトには、ガルドに対してなにも手を出すことができない。
(けど、ガルドがやったことはわかった。それなら、後は星屑電池でガルドに勝てばいいだけだ。今は、手が出せなくても……)
心の中で誓うユウトに、ガルドが振り向いた。そして、言った。
「ああ、そうだ。星屑工房は軌道に乗っているようだね。羨ましいものだな。私もあやかりたいものだ」
「え? お前、やっぱり星屑工房のこと……」
ユウトが言い終わらないうちに、ガルドの乗った魔力馬車の扉が閉まる。
目の前で扉が開いて、魔力馬車は走り去った。
「なんだったんだ? 今のは……」
言い捨てたガルドの言葉に、ユウトはなんだか嫌な予感がした。




