46 覆面の男たち
正直、ユウトは弱い。だけど、ここでは王都のように衛兵を呼ぶことはできない。
一か八か!
男たちに向かって行こうとしたそのとき、
「なにしてんだ! お前ら!」
「大丈夫か!? ミオちゃん!」
「ミオ!」
「父さん!」
村の方から、鉱夫たちが走ってくるのが見えた。ミオの父であるテオもいる。ハンスも鍛冶に使うハンマーのようなものを持って走ってくる。鉱夫たちの手には、ツルハシなど鉱山で使う道具が握られている。が、今はその目的で使うのではなさそうなことがすぐにわかる。
ユウトは思い切って息を吸い込んだ。そして、
「こいつら、工場を壊す気だ!」
叫んだ。
「ちっ」
覆面の男たちが舌打ちする。
「なにぃ!?」
「俺たちの希望を好きにさせるかっ!」
「そうだそうだ!」
ユウトの言葉を聞いた鉱夫たちが口々に叫んだ。その声は怒りが含まれている。
(希望……。鉱夫の人たちも本当に、そう思っててくれたんだ……。って、悠長にそんなこと思ってる場合じゃなかった!)
「ふざけるなぁあああああ!」
鉱夫たちが覆面の男たちに向かって一斉に得物を振り上げる。
「ここまで抵抗するとは……」
ユウトの近くにいた覆面の男がぼそりと言った。
(?)
それが少し気になった。
ミオだけを相手にしていたときとは違う乱戦になる。騒ぎに気付いた鉱夫たちが得物を手に次々とやってくる。さすがに、鉱山でいつも働いているだけはある。体力はあるらしい。人数の差も大きかった。覆面の男たちが押されている。
ちなみに、ユウトは邪魔にならないように端っこでじっと成り行きを見守っている。下手に飛び出して足手まといになるのも困るからだ。
(が、がんばれ……)
とりあえず、心の中だけは応援しておく。
意外なのは、テオが思ったよりも強いことだ。一対一ではないとはいえ、覆面の男に引けを取っていない。
(さすがミオの父親……)
そう思わずにはいられない。
「くそっ! 引けっ!」
リーダーらしき男がこれ以上は意味が無い争いだと悟ったのか、他の男たちに向かって指示を出す。
そのとき、ミオの鉄の棒が一人の男の覆面にかすった。
「お前!?」
すぐに男が覆面を元に戻してしまったためユウトには顔は見えなかった。だが、ミオには見えたらしい。ミオはその顔を凝視していた。
(知った顔か?)
思ったのも束の間、男たちが退却していく。ミオや鉱夫たちは元々、この場所を守ることを第一に思っていたらしく男たちを追うことはしない。
覆面の男たちが見えなくなって、ユウトはどっと地面に座り込んでしまった。
「大丈夫か!? ユウト!」
ミオが駆け寄ってくる。
「怪我したのか!?」
してない、と言おうとして声が出なかった。
どうなってしまうのか、とても怖かった。
「ひゅっ、げほっ」
落ち着くために息を吸おうとして、咳き込んでしまう。だが、それでようやく声が出た。
「ミオこそ」
「私は大丈夫だ。慣れているからな」
「そっか、よかった」
ミオの姿を確認するように見る。
「ミオも、怪我してないみたいだな。よかった。ごめん。俺、何もできなくて」
「なに言ってるんだ。私はユウトが無事でよかったからいいんだ。無理して怪我なんかしたら大変だろう? ユウトには私に出来ないことができるんだからな」
「ミオ……」
こんなときに何もできなかった自分をユウトは役立たずだと思っていた。
「ユウトは、この村に未来をくれたんだ。それだけで十分だろう? 立てるか?」
「あ、ああ」
ミオの言葉に涙が出そうになってしまったが、ユウトは必死に堪えた。ミオのユウトよりも小さな手が、ユウトのことをしっかりと引き上げてくれる。
「大丈夫かい? 二人とも」
テオが駆け寄ってくる。他の鉱夫たちもミオのことを心配してかこちらにやってきた。そう、てっきりミオのことだけを心配しているのかと思ったユウトだったが、
「おう、兄ちゃん大丈夫か?」
「ミオちゃん、すごかったな。俺たちが来るまでよくがんばったな」
「俺たちにゃよくわからねぇが、兄ちゃんがいなきゃなんだかすげぇものがこの村でできねぇんだからな。無事でよかったぜ」
口々に掛けられる言葉の中にはユウトに対するものも含まれていた。
こんなにも心配されることが、期待されることがユウトに今まであっただろうか。前の世界にいたときには無かった。
この世界では、もう違うのだ。
「あ、ええと……、その、ありがとうございます。俺は無事です。皆さんのお陰で」
「そうか、よかったな」
がははと鉱夫たちが笑う。
最初にこの村に来たときには見たこともなかった嬉しそうな顔だった。
そして、
「しかし、あいつらなんだったんだ? 俺たちの工場を壊そうとしやがって」
「全くだ」
鉱夫たちはが口々に言う。
「なあ、ユウト」
ミオがこそりとユウトの耳元に囁いてくる。
「ひえっ」
あまりに近くて不意打ちで、ユウトは声を上げた。
「すまない。まだ警戒していたか?」
「い、いや。ちょ、ちょっとだけ」
ミオに近付かれてドキドキしたとは言えず、そういうことにしておく。
「さっきの男たちのことだが」
「あ、うん。そういえば、覆面をしていたけどミオには見えたのか?」
「ああ」
ミオは頷く。それから言った。
「あいつ、前に王都で私を襲ったヤツだった」
「それって……」
「ああ、ガルドの手の者だ」
「……」
驚きは無かった。
「やっぱり、邪魔してきたか」
「あいつのやりそうなことだ」
ミオもそう思っていたらしい。
「だが、守り切れてよかった。当分は、私はここを警護することにする。ここは大事な場所だからな」
「助かる。ミオは強いからな。心強いよ」
「任せておけ」
ミオの笑顔は本当に心強かった。それに、ミオだけではなく、この村の人たちがすぐに駆けつけてきてくれたことも嬉しかった。そのお陰で被害も出なかった。
(でも、ガルドのことだ。こんな邪魔をしてくるってことは、俺たちのやっていることを知ったということだよな。これからも何かしてくる可能性がある。これが失敗したとなると次は何をしてくるのか……)
あのガルドがこのまま引き下がるとは思えない。




