45 襲撃
なんとか最初に発行した分の株は売ることが出来た。
「上がった!」
「下がった!」
「また上がった!」
「うっ、下がった……」
株価に上下はつきもので、気にしない方がいいものだとは知りながら思わず見てしまうのは止められない。
「エリオ、ほどほどにしとけよ」
「わかってるけど、気になるよ-」
実はエリオが見ている画面を横目で見ていたユウトだ。が、自分のことを棚に上げて言ってしまうとエリオが手をバタバタさせながら言った。さっき上がったとか下がったとか口に出していたのは全部エリオだ。
「今のところ、ほとんどずっとヨコヨコだろ? 上がったとか下がったとか言ってるけど、1セレンくらいの話だろ」
「そうなんだけどさ」
「まあ、俺も気になるけどな」
「だよね! 気にならないはずないよね!」
エリオが自分だけではないとわかって嬉しいのかクリスタルタブレットの画面から顔を上げる。
「俺たちだって株を持ってるわけだしな。それに自社の株なんて気にならないわけないだろ。それに、元が投資家なんだからな」
「それだよね」
本当にそれなのだ。
とにかく、星屑工房の株は大きく動くことはなくヨコヨコの状態が続いていた。最初から予測していたことだ。まだ本格的に稼働するまでは、その状態を保ってぶっ飛ぶ準備をしているようなものだ。
(ま、失敗したら下がるんだけどな……。というか、成功しなければそもそも星屑電池しか商品は無いわけで、倒産ってことか……。考えたくない)
とにかく、株は材料がなければ動くことはない。そういうものだ。
星屑電池の工場は準備中で、今は内部でエレノアの指揮の下、生産体制を整えているところだ。
◇ ◇ ◇
「もうすぐ生産の目処が立ちそうだよ」
エレノアに言われて、その日ユウトはルミネ村に向かった。工場の内部も整ったらしい。ならば社長としてはどんなものなのか見ておきたかった。前に見たときはまだ外側しか出来ていなかった。
最近ではミオに頼まなくても荷運びの馬車の人とは顔見知りになって、自分で乗せてくれるように頼むこともできるようになった。
ルミネ村に着くと、ミオが出迎えてくれた。
「ミオ、今日は討伐に行かなくてよかったのか?」
「ユウトが来ると聞いていたからな……。と、というか最近は討伐よりも、こっちの準備で忙しいんだ。星屑工房の方を優先するのは当たり前だろう?」
なぜか、討伐に行かなくていいか聞いただけなのに、ミオはそっぽを向いてしまった。
(俺、なんか悪いこと言った?)
「今日はエレノアさんはいないからな。私が案内する」
「よろしく頼む」
すたすたと歩くミオに、ユウトはついていく。
「そういえば、工場が稼働し始めたらエレノアさんはもうヴァルクロウ商会は辞めてこっちへ来ると言っていた。そうなのか?」
「ああ、さすがにもう掛け持ちは嫌だと言っていた。星屑工房に専念することで、星屑電池の普及を進める方が、あそこにいる人たちも助けられると判断したみたいだ。あの人たちを置いて去るのはかなり悩んだらしいけどな。でも、エレノアさんは星屑電池が軌道に乗ればもう魔力電池は廃れていくと踏んでるみたいだからな。俺もそう思うよ。で、今は向こうを片付けているところらしい。ガルドには止められないように辞表を置いてくると言っていたな」
「そうか」
ミオが頷く。
「素直に言って辞めさせるガルドじゃないだろうしな。私もそれがいいと思う」
工場、というか小屋が見えてくる。
「しかし、ここまで歩いてきてなんとなく思ったけど、村の雰囲気ちょっと変わったよな」
「そうか?」
「なんというか、少しだけ明るくなったような?」
「そう、かもしれないな。これまでは先が見えなかった。けど、星屑工房が出来ることで少しだけ希望が見えたのかもしれないな。とはいえ、今のところ貧乏村には変わりはないが」
ふふ、とミオが笑う。
「けど、これからもっと変わっていくんだ。きっと」
ミオがそう思ってくれるのがユウトには嬉しかった。
本当に、最初に来た時よりは活気がある気がする。ユウトが始めたことで村がいい方向へ向かってくれるのは喜ばしいことだ。
なんだかスキップでもしたくなる気分になっていたところに、村の入り口の方からざわめきが聞こえてきた。
「なんだ?」
ミオが振り向く。
「うわっ!」
「なんなんだ、お前ら!」
鉱夫たちの叫び声が聞こえてくる。その声は段々ユウトたちの方へと近付いてくる。
「な、なんだ!?」
なにが起きているのか、ユウトにはわからない。それでも、聞こえてくる声が不安そうな響きを含んでいてなんだか嫌な感じがする。
隣でミオが身構えた。
姿が現れたそいつらは、覆面をしていた。覆面をしていても体格で男だとわかる。数人の見るからに怪しい男たちが向かっているのは、やはりユウトたちのいる方向で……、
「工場!?」
思わずユウトは叫んでいた。
ユウトたちがいる先には星屑電池の工場があるのだ。男たちは、工場を壊すためなのか手にハンマーのようなものをそれぞれ持っている。
「え、まさか!」
「あいつら、工場を狙っている」
ミオが低い声で言った。
「待って待って! せっかくもうすぐ生産に入れるのに! 会社も立ち上げて資金も用意したのに!」
「どいてろ、ユウト」
パニックになって叫ぶユウトを、ミオは脇に押した。
「なにか、武器は……」
男たちが迫ってくる。
今日のミオは、いつも村にいるときの格好で武装はしていない。
「その格好じゃ……」
「わかってる。でも、やるしかないだろう」
「え、えっと」
「下がってろ」
「そう言われても……、あ。ミオ、これ!」
工場を作るために使っていた資材らしき鉄の棒が近くに落ちていた。ユウトはそれを拾い上げてミオに渡す。
「助かる! 後は任せろ」
パシ! と鉄の棒を受け取ったミオは男たちに向かって駆け出した。
「俺、は……。絶対足手まといだよな」
どう見ても手練れの悪党っぽく見える男たちに敵う気は全くしない。情けないが、ユウトは大人しく後ろの方で見守ることにした。
本当に男たちの狙いは工場らしかった真っ直ぐにこちらに向かってくる。
ミオと男たちが、ぶつかった。金属と金属がぶつかる音がする。男たちの持っているハンマーの方が絶対に重いだろうところを、ミオは軽くいなしていく。しかも、それを数人分だ。
「ミオ、スゲー……」
ユウトは思わず怖さも忘れて、見とれてしまった。ミオが戦う姿は、あまりにも美しかった。男たちの力任せな攻撃とは違う。まるで華麗に踊っているかのように見える。
しかし、数が違いすぎる。ミオが押されている。
「くっ」
やはり複数を相手にするのは大変なのか、ミオの顔が苦痛に歪む。
(女の子のミオが戦ってるのに、俺が後ろで見ていていいのか? 俺、ミオより絶対弱いし足手まといになる……)
ミオと初めて会ったときにもこんなことがあった。だが、今回はハンマーを持っているような更に凶悪な男たちだ。それに、ミオにも足手まといだと言われた。
(でも……)
ユウトは足下に落ちていたもう一本の鉄の棒を拾い上げた。
(ここは俺の工場だ。それにミオのことも守りたい!)
ユウトは地面を蹴った。




