44 工場完成
「これが……」
「うむ、将来的にはもっと大きくしたいんだがね。まずはこんなものか」
ルミネ村の鉱山の近くに、少し大きめの小屋のようなものが建った。
「すみません。俺が集められる資金ではどでかい工場は建てられなくて」
「いやいや、いいんだ。まだまだ世間に認められてもいないもので、ここまで出来たのはユウト君のお陰だからね。これから嫌でも大きくなっていくよ」
うんうん、とユウトと一緒に小屋を眺めながらエレノアが頷く。
「星屑電池が、ここで作れるのか?」
一緒に隣にいたミオが聞いた。
「ああ、そうだよ。ルミネ村の人たちも手伝ってくれることになったし、ハンスさんがいてくれれば効率も上がるだろうしね。なに、私が指示をすれば後は単純作業なんだから、誰でも出来ると思うんだよ」
「そういうものなのか……」
エレノアに説明されて、ミオは不思議そうな顔になっている。
「ガルドの工場みたいなことにはならないんだよな?」
ミオは呟いた。どうやらそこが一番の心配だったらしい。確かに、工場と聞いてあのヴァルクロウ商会のあの惨状を思い出してしまうのはわかる。
だが、
「馬鹿を言わないで欲しいな」
きっぱりとエレノアは言った。
「言ったじゃないか。あの状況を変えたいと思って私は頑張っているんだ。そんなことになるわけがないじゃないか」
「……すまない。そうだったな」
ハッとしたように、ミオはエレノアを見る。
「大丈夫。もちろん、村の人たちにも正当に賃金が払われるはずだ。きっとヴァルクロウ商会以上にね。それをするのは私ではなく、ユウト君の役目だが」
「あ、は、はい! それはもちろん! ただ、利益が出ないと困るんですが」
「それは、任せておきたまえ」
はっはっは、とエレノアが笑う。
「ユウト、信じてもいいんだな?」
「も、もちろん!」
ミオに信頼を込めた目で見つめられて、ユウトはこくこくと頷くしかなかった。
(まだ利益が出てないから株主が株を買ってくれた分しか資金が無いんだけど、きっとなんとかしてみせる!)
口には出さず、ユウトは思う。
そんな不確定なことを言えば、きっとミオは不安になってしまう。だが、本当にここから成長することは確かだ。多分。
「本当は王都の近くに作った方がよかったですよね……」
色々と不安になってしまうところはあるので、思っていたことが口に出てしまう。
「うーん、それはそうだけど、ここの村の人たちが手伝ってくれるというのもあるし、王都だと土地代も掛かるからね。今はこの場所でいいと思うよ。森を開くのも頑張ってくれたし、村の人たちには本当に助けられたしね」
「それは、村のためでもあるからな。ここが賑わうのは私も嬉しい」
「そうか……」
ユウトがマイナスだと思ったことも、エレノアとミオがプラスに思ってくれているのならありがたい。
「でも、ガルドにみつかったら何か言われるんじゃないのか?」
「それは……」
確かにそこは心配の種ではあった。
「だからこそ、こっちに工場を作ったのもあるんだけどな。王都だったらすぐになにか妨害されるかと思ったんだ」
とは言ってみたものの、ルミネ村にガルドが来ているのを見たことがある。
「相手も会社を経営している人間だしな。それに貴族なんだ。妨害と言っても、暴力なんかに訴えることはないだろ、きっと。他には何をしてくるかわからないけど……」
ユウトは自分で口に出していて、段々と不安になってくる。
「うんうん。でも、心配しても仕方ないからね。まずは私たちのやれることをやっていこう。会社が大きくなれば、ガルドも手出しは出来なくなるだろうからね」
「そうですね」
一応ユウトよりも年上なだけはある。エレノアが安心させるようなことを言ってくれた。
(どちらにしても、もう説明会をしたり、ホームページなんかも作ったりしているんだ。人の目に留まることはしている。ただ、ガルドが気付いているのかはわからないんだよな。俺たちの会社はガルドに真っ向から対抗するものだ。気付いたら、何かしてくる可能性もある)
考えてはいるものの、対抗策はエレノアの言うとおりガルドが手出しできない会社になることくらいだ。
切り開いた土地はガルドの所有地ではなく、ガルドに許可を取る必要もない。そのことはきちんと村長であるミオの父、テオには話をしたから間違いない。ガルドとの契約書も全部見せてもらった。
(やることはやっている!)
心配事ばかり考えていても仕方ない。株の取引をやっていたときにも上がったり下がったりが気になって不安になったり眠れなかったりしたこともあった。でも、あのときはユウト一人の問題だった。今は、他にも沢山の人の命運がかかっている。ミオをはじめ、ルミネ村の人たちはもちろん、星屑工房の可能性を信じて株を買ってくれた投資家たちの期待も背負っている。
(まさか自分が投資をしてもらう立場になるなんて考えもしていなかったな。以前はマネーゲームみたいなものだと思っていたけど立場が変われば見方も変わってくるもんだ)
「私も」
ぼそりとミオが呟いた。
「私も今まで頑張っていたつもりだった。でも、先がどうなるかなんてわからなくて、くらい未来しか見えなかったんだ。でも」
ミオがユウトをチラリと見る。
「今なら信じられる。この村はこれからよくなっていく。ユウトが……、とエレノアさんがここに来てくれてからそう思うんだ。この村は変わっていくと信じられるようになったんだ」
そう言って、ミオは微笑んだ。ユウトを信じ切っているような笑顔だった。
「……!?」
(いつものキリリとした顔もいいけど、笑った顔も可愛すぎる……)
その笑顔だけで不安も何もかも吹っ飛びそうなユウトだった。




