43 株式公開
『なんか、この会社気になる』
『この星屑電池ってやつが出回るようになれば、高い魔力電池を買わずにすむってこと?』
『魔力電池の代わりになればかなり伸びるんじゃね?』
『可能性を感じる』
「……!!」
ユウトはエリオと一緒にいつもの部屋でクリスタルタブレットをのぞき込んで、声にならない声を上げていた。
「す、スゲー……。星屑工房の掲示板が出来てる!?」
そう、ユウトたちが見ているのは星屑工房の掲示板だった。今までは書き込んだり見たりするだけだった掲示板だが、今は自分たちの会社の掲示板が出来て、更にそこにコメントが書き込まれている。
「なんか、現実感がないな……」
「現実だよ、ユウト兄!」
「そう、だよな」
自分の会社の掲示板が出来ているというのは不思議な感覚だ。
「みんな、期待してくれてるみたいだよ!」
目を輝かせるエリオだが、
『本当にそんなすごいエネルギーなんてあるのかよ? 失敗するに決まってる』
『大事なお金をドブに捨てるだけ』
などという、否定的なコメントも書き込まれていた。いわゆるアンチコメントというやつだ。株の掲示板にはよくあるコメントだ。
どんな株でもアンチは絶対に湧く。ユウトは前の世界の掲示板で嫌というほど見てきた。しかし、自分の会社を意味もわからず罵られるのは頭にくる。
「あるあるとはいえ、ここまで同じだとは……。どこに行っても人間って変わらないんだな」
思わず呟いてしまう。
「同じ? どこと?」
「あ、いや。俺が前にいたところでも似たようなことを言っているやつがいたからな。よくわかっていないくせに批判してくるヤツはどこにでもいるんだなと思ってさ」
「そっか。なんだコイツって思ったけど、どこにでもいるんだね」
当たり前だがエリオもあまりいい気分ではなかったらしい。
「でも、期待してくれてる人もいるんだよね」
「そうだな」
エリオの言うとおり、期待してくれている人も確かにいる。掲示板に書き込んだからといって株を買ってくれるかどうかはまた別問題なのだが……。
株が買われるかどうか、それが一番の問題なのだ。
「今日から、株が公開されて売り出されるんだよね」
「そうなってるな」
エリオと顔を見合わせてごくりと息をのむ。
ここで買いが入らなければ会社にとっては全くお金が入ってこないということで、言ってしまえばめちゃくちゃ困る。星屑電池が量産できない。
「ホームページも作って告知したし、説明会もした。俺たちはやれることはやった」
「うん」
「手応えもあったよな」
「うん」
「よし! じゃあ、見るか」
正直、かなり緊張している。だが、ここまで来たらもう運を天に任せるというか、見ていることしかできない。
この世界では株は公開されたと同時に、一般の市場に売り出されるものらしい。その辺は単純でわかりやすくてありがたい。
「じゃあ、ページ開いてみるね」
エリオがクリスタルタブレットを操作して、証券会社のページに入る。
まだ株の値段は動いていなかった。もちろん、星屑工房だけでなく、他の株もだ。
今は朝だ。株式市場はもうすぐ開く。
クリスタルタブレットの時計を見ると、株式市場が開くまではあと数分だ。
「……」
「……」
ユウトどころか、いつもはよく喋るエリオまでが無言になって、動かない株価を見つめている。まだ取引が始まっていないので、ぴくりとも動かないのは当たり前だ。
勝負は、市場が開いてからだ。
まずはユウトが設定した株価で株が買われていく。そして、全ての株が買われた時点で株価の上下が始まる。そういう仕組みのようだ。
そして、勝負の時が来た。
ユウトは目を見開いて株の売買に注目する。
「ユウト兄! 買われてる! 買われてるよ!」
「お、おう」
動きは、正直小さい。リアルタイムで株が買われていくところを見ても大きな買いは無い。それでも、
「本当に買われてるな」
「だね!」
誰かが星屑工房に期待して株を買ってくれている。その事実は素直に嬉しい。
「よかった……」
まだ発行した全ての株が買われるかはわからないが、買われた分の資金は全て星屑工房へ入ってくる。
「少しは前進したな」
「だね」
「正直、全く売れなかったらどうしようかと思ってたけどな」
「それはないとおいらは思ってたよ。だって、おいらたちの会社すごいもん! でも、よかったぁ」
「はは……」
どうやらエリオの方が大物らしい。本当に、ユウトは株が動き出すまで全く売れなかったらどうしようかと、不安で仕方なかった。
やるだけのことはやっても、不安になるのは仕方がない。株の世界には、単純にいい会社の株が売れるわけではない。前にエリオが引っかかっていたような仕手株もある。情報で翻弄されるような株もある。どんな会社の株でもそういったことに巻き込まれることはある。
けれど、出来ればそんなものには巻き込まれずに健全に成長する会社にしたいとユウトは思っている。
「ユウト兄!」
エリオがユウトに向けて手のひらを差し出している。
「うしっ!」
ユウトはその意図に気付いて、エリオとハイタッチした。
とにかく、株式会社として一歩を踏み出したことには間違いがない。
株が買われたことをミオやエレノアにすぐに伝えたかったが、まだ二人がクリスタルタブレットを持っていないため、またの機会になってしまうのが残念だった。




