42 星屑電池実演
会場になっている食堂がざわめいている。ちなみに来てくれた投資家の中には女性もいるが男性が多い。同じ男性として、ユウトにもざわめきの理由はわかる。
もちろん、ざわめきの理由は道具を持って現れたエレノアだ。
「……!」
一度は見たことのあるユウトでも、これは破壊力が強い。出てきたのはいつもの目が見えないほどの厚底眼鏡をかけていない状態のエレノアだ。つまり、素顔ということで、それがどれだけすごいかというと、今のように誰もがざわめいてしまうほどの超絶美人だということだ。
「えー、では実際にお見せします」
エレノアが口を開く。見た目に反して、いつもの少しとぼけたような口調は変わらない。が、いつもよりはなんだか緊張しているような感じだ。動きが少しかくかくしている。会場にいる人たちがエレノアの一挙手一投足を見逃すまいと目を見張っているのがわかる。
(エレノアさんが美人過ぎて目が離せないのかもしれないけど、興味を持って見てもらえないよりはいいよな……)
星屑工房の社長としては、ちょっと複雑な気分になるユウトだった。
「この部屋はもちろん、普通の家で使われているようなランプが灯りに使われているね」
エレノアの言葉に会場の人たちが頷く。昼間だが、部屋の中は少し薄暗い。
「魔力電池を使った明かりを見たことがある人はいるかい? いたら手を上げて欲しい」
エレノアが言うと、パラパラと手が上がった。さすが投資家たちだ。うんうん、とエレノアは頷いている。
「じゃあ、これを見てくれ。これは魔力電池で使われる電球だ。だが、私の開発した星屑電池なら、この電球に明かりを灯すことが可能だ」
そう言って、エレノアはパッと電球に明かりを灯した。薄暗かった食堂の中が嘘のように明るくなる。
「うわっ」
「明るい!」
「魔力電池以上じゃないか!?」
わっと会場から声が上がる。
ふふん、とエレノアが得意げに鼻を鳴らした。
「しかも、明るいだけじゃない。魔力電池のように魔力を必要することもなく、安価で作れて、長持ちするんだ。魔力電池よりも大勢の人が使える時代が来るだろうね。というわけで、星屑石はものすごい可能性を秘めているんだよ。この世界を塗り替えてしまうくらいのね。だから、力を貸して欲しい。私は世界を変えたいんだ」
説明を終えたエレノアがぺこりと頭を下げる。その瞬間、わっと拍手が上がった。エレノアが最初に出てきたときとは違うざわめきだった。今度は、熱に浮かされたような盛り上がり方だった。
どうやら、エレノアの実験と言葉で星屑電池の可能性が伝わったらしい。
まだ立ち上げたばかりの小さな会社だからなのか、この場に来ている投資家はユウトたちのような平民(?)が多い。というか、貴族や大商人が来ているようには見えない。ぱっと見でそういう感じに見える人はいない。そもそも貴族はガルドのヴァルクロウ商会の方に投資しているはずだ。
だからなのかはわからないが、
「魔力電池を超える電池か……」
「もしかして、すごい技術なんじゃないのか?」
などという声が聞こえてくる。ユウトとしても、期待してもらえるのは嬉しい。拍手を浴びるエレノアを見ながら、ユウトは手応えを感じていた。やはり、ホームページに説明を載せるだけよりも実際に見てもらう効果は絶対にある。あとは、本当にこの人たちが株を買ってくれるかどうかだ。
ユウトも立ち上がってエレノアの隣に並んだ。
「星屑工房には可能性はありますが、まだ資金がありません。見ていただいたとおり、星屑電池の技術に間違いはありません。皆さんの力を貸していただけると、本当にありがたいです。もちろん、その見返りに会社として成長することで株価も上げていきたいと思っています」
そう言ってユウトは頭を下げる。
最後の言葉は、自分が株の取引をしていたときにまず聞きたかった言葉だった。だから、すぐに口から出た。投資家が望んでいるのは、株価が上がることだ。そこを期待しているからこそ、投資家はお金を出してくれる。そもそも、期待していないものに投資などしない。ユウトには素直に言うことしかできなかった。
再び拍手が上がる。ユウトは顔を上げた。
星屑電池で灯された明かりのお陰で、集まってくれた人たちの顔もよく見ることができた。
もちろん、心を動かされている様子ではない人もいる。様々な投資家がいるのだからそれは仕方ない。新しい技術に懐疑的なのはよくあることだ。なにしろ、自分の大切なお金を使って投資するか決めなくてはならないのだから。投資家としてのユウトにはよくわかる。だが、ユウトの言葉に目を輝かせている人もいた。それが、とても嬉しかった。
◇ ◇ ◇
「はぁ、終わった……」
説明会が終わると、どっと疲れが出た。
「うむ」
エレノアと二人でどかっと説明会に来ていた人がいなくなった食堂の椅子に座り込む。エレノアはすっかりいつもの顔に戻っている。さっきのエレノアの姿には驚いたが、今はそれどころではなく疲れていた。あんな人前に立ったのだ。
「お疲れ様、ユウト兄」
「ありがとう」
「ユウト。その、すごかったぞ。説明、上手く出来ていたと思う」
「あ、ありがとう」
エリオとミオにねぎらわれて、というかほぼミオの言葉にユウトは疲れが吹っ飛んだような気がした。
(ミオが褒めてくれた……。嬉しい。俺、ちゃんと出来てたんだな。よかった。ミオの村の未来もかかってるんだもんな。期待しててくれたのかな)
そう思うと、なんとか上手くいってよかったとユウトは自分を褒めたくなる。
「あ」
だが、自分ばかり褒めている場合じゃないとユウトは気付く。
「エレノアさん、ありがとうございました」
エレノアもかなり疲れている様子だ。星屑工房の社長としては、星屑電池開発の鍵となるエレノアのことを労わなくてはならない。
「いやいや、ユウト君もな」
だが、エレノアもユウトのことを気遣うように答えた。
「上手くいってよかったわね」
ふわりと優しい声が掛かる。みんながそちらを向く。
そこにいたのはサラだった。全員分のお茶とお茶菓子を載せたお盆を持って立っている。
「疲れたでしょう。どうぞ」
みんながいる場所の近くの机に、サラは持ってきたお茶とお茶菓子を置いてくれる。
「ありがとうございます」
ユウトは頭を下げた。
いつもどおり、かなり味の濃そうなお菓子にバターを溶かし込んだお茶だったが、今はとてもありがたかった。やはり、疲れているときにはこういうものが合うらしい。ミオが討伐の帰りに来ていたのもわかる。
それに、サラがこの場所を貸してくれなかったら説明会すら出来なかった。
「いただきます。……はぁ」
いつもは濃すぎると思うお茶の味も今は身に染みた。
「あとは、株が買ってもらえるかどうかなんだよな……」
ぽろりとユウトは呟く。結局、今までやってきたことも今日来てくれた人たちが行動を起こしてくれないと進めることが出来ない。
「すごいということはわかってもらえたと思うんだ。大丈夫だろう」
自分の作ったものに自信があるのか、エレノアは自信満々で不安などなさそうだ。
「もちろん、俺もそう思ってますけどね」
口には出してみるものの、やはり不安はある。
「ユウトはやるだけやっただろう? 村を代表してそれはお礼を言いたい。ありがとう」
「あ、ああ」
が、ミオに言われると単純ではあるとユウト自身思うが妙に力がわいてきた。
「そう、だな」
確かにそうだ。後は、投資家たちの判断に任せるしかない。
「俺なら、この会社もしかして大きくなるかもしれない、なんて思って買うかもしれないしな。なんか、可能性があるかもなんて思ってさ」
うん、とユウトは頷いた。安くて可能性があってこれから伸びるかもしれない株。そんな株をみつけられたら投資家として、それ以上に嬉しいことはない。
星屑工房はこれからそういう会社になるのだ。




