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35 クズはクズでも

 まずはエレノアにクズ石とルミネ鉱山の状態を見てもらうところからだった。歩いてルミネ鉱山まで行くのは絶対に無理だと本人が言ったので馬車に乗せてもらうことにした。王都へ魔魂石を運んで村に帰る馬車だ。もちろん、ユウトとミオも一緒に乗せてもらった。


「へえ、ここがね」

「おう、エレノア!」

「ハンスさん! 久しぶりだね。なかなか王都まで飲みに来ないじゃないか」

「そういつも行けるか!」


 ハンスもエレノアを迎えてくれた。二人を見ていると、なんだかおじいちゃんと孫のような感じだ。つまり、仲が良さそうだ。


「じゃあ、さっそくクズ石というのを見せてもらおうか」

「おう、こっちだ」


 ハンスに連れられて鍛冶場へ向かう。完全に元通りにはなっていないが、一応建物はそれらしく直してある。もし、ガルドが鉱山に来たときに何か見つかったら困ると言って、見た目だけはなんとか直したらしい。


「へえ、これがクズ石なんだね」


 エレノアがさっそくクズ石を手に取ってまじまじと眺めている。エレノアの仕事が終わってから来たので、外は暗くなって鍛冶場の中もランプの明かりだけで、かなり暗い。


「うーん。見ただけではわからないね。これは色々やってみる必要がありそうだよ。ハンスさん、とりあえず炉に投げ入れてみてもいいかい?」

「馬鹿言え! またここを壊す気か!」

「あはは、そうだね」


 エレノアは笑っているが、ユウトには今のはかなり本気な気がした。


(やっぱり、この人マッドサイエンティスト気質だ……)


 ユウトが心の中で呟いている間にも話は進んでいく。


「とにかく、色々とやってみたいね」

「できそうですか?」

「私の手にかかればね。ハンスさんはどう思う?」

「俺か? できると思わなければ、あんな手紙は書かねぇよ」

「うんうん。だよね。というわけだよ」


 エレノアは安心させるように、ぽんぽんとユウトの肩を叩いた。


「大丈夫、私には技術がある。任せたまえ」

「それは保証するぜ。この嬢ちゃんはちょっと変わってるが、魔魂石のエネルギーをなんとか少しでも高めようって技術も開発してるんだ」

「そのせいで、あの人たちを苦しめることにもなっているのだけどね」


 分厚い眼鏡で表情はわからないが、エレノアが辛そうに俯いた。


「すまん、そんなつもりじゃなかったんだが」

「いいよ。私がやったことだからね。私がなんとかするよ」

「……」


 ユウトはエレノアに声が掛けられなかった。自分が開発したもので苦しんでいる人がいるのは辛いに決まっている。その場所でエレノアは働き続けていたのだ。

 エレノアがユウトの方を見た。そして、きっぱりと言った。


「私には技術があると言ったが、お金は無い! 開発のことは任せて欲しいが、他のことはさっぱりわからないのでね。そこのところは頼むよ」

「は、はい!」


 エレノアはあまりにも清々しかった。


「大丈夫なのか?」


 隣にいるミオがそっとユウトに耳打ちする。なんだかくすぐったかった。


「よくわからないけど、自信満々みたいだし大丈夫じゃないかな」

「……そうか」


 ミオは少し不安そうにクズ石を見て言った。


「手に取っても大丈夫か?」

「普段の状態なら大丈夫だと思うよ。今まで何事も起こらなかったんだからね」


 エレノアが答えると、ミオはそっとクズ石を一つ、つまみ上げた。


「ただのクズ石だと思っていたんだが」


 そのままミオはランプの火にクズ石をかざす。


「あ」


 ミオが声を上げる。


「この石、透けるんだな」

「おお、本当だね」


 エレノアがのぞき込む。


「なんだか、中に星があるみたいだな」


 ミオが呟く。

 その表現が詩的だ、とユウトは思った。その瞬間に閃いた。


「その石、クズ石じゃなくて星屑石って呼ぶのはどうだろう? クズはクズでも星屑ならキレイかと思った、んだけど……」


 いい考えだと思ったのだが、言っているうちになんだかユウトは恥ずかしくなってきた。あまりにロマンチストすぎたかもしれない。

 が、


「星屑石か、いいな」


 ミオが嬉しそうに微笑んだ。


「うんうん。いいね。なかなかロマンチストじゃないかユウト君。役に立つものなら、名前は私にはどうだっていいことなのだけれどね」


 眼鏡の下で、エレノアは笑っている気がする。だが、ミオが嬉しそうならそれでいいと思った。


「ユウトも見るか? キレイだぞ」


 ミオがクズ石をユウトに渡す。ユウトもクズ石を光にかざしてみた。


「本当だ」


 ミオの言うとおりだった。星が、石の中に入っているように見えてそれはまるで宇宙のようだった。最初は石炭に似ていると思ったが、どうやら全く違う石のようだ。


「だろう?」


 なぜかミオは自分の手柄のように嬉しそうにしている。普段のミオとは違って、なんだかとても無邪気に見えて可愛いと、ユウトは思った。いつもよりも表情も明るい気がする。


(さっきは不安そうだったけど、少しだけ前向きな表情になった気がする。名前を変えただけでも気持ちって結構変わるのかもしれないな。だとしたら、俺の言ったことも悪くなかったか)


 この村の人もミオも、希望が見えないままずっと苦しんでいたのだ。元気づけられるなら恥ずかしい気持ちも吹っ飛んでしまう、と思いたい。

 ユウトはもう一度クズ石を光にかざす。


「本当に、キレイだな。この石の向こうに希望が見える気がする」


 思わずぽつりと呟いてしまって、ユウトはしまったと思った。さっきよりももっと恥ずかしいことを言ってしまった気がする。

 案の定、


「あっはっは、上手いこと言うじゃねぇか」


 ハンスに大笑いされながら、ばんばんと背中を叩かれた。

 けれど、ミオは笑っていなかった。微笑みながらユウトのことを見ている。


「いいんじゃないかい? 星屑石」


 エレノアが言った。


「呼び名なんて役に立つものならどうでもいいと思っていたがね。いつまでもクズ石と呼んでいたらこっちもそう思い込んでしまってやる気が半減するかもしれない。これからは星屑石と呼ばせてもらうことにしょう。その方がユウト君の言ったとおり希望が見えるってものだよ」


 うんうんとエレノアが頷いている。自分がロマンチックな名称を付けてしまったことがやはり少し気恥ずかしいものの、ユウトもこくりと首を縦に振った。


「私は、明日は休みだからね。明日の夕方まではここにいて戻ることにするよ。あまりガルドのところを空けても不審に思われるだろうからね。それは困るのでね。これからもそういうやり方をすると思うと、なかなかこっちには来られないね」

「そうですね」

「そうすると開発がなかなか進まないことになってしまうかな」


 ふーむとエレノアが頭をひねっている。


「それは、ある程度開発が進んで見通しが立ったら向こうを辞めるということではダメですか?」

「なるほどね。今の段階では難しいと思うが、検討しよう。ああ、そうだ。魔魂石の採掘をしている人にも話を聞きたいんだがいいかい? ハンスさんに聞いたり、ガルドの様子を見ているだけで直接見たことはないからね。それと、星屑石の状況も見てみたい」

「もちろんだ。父さんにも話を付けておいた」


 それにはミオが答える。


「ありがとう。話が早くて助かるよ」


 話がどんどん進んでいく。

 ここから先の星屑石のことはエレノアに任せておくのが良さそうだ。詳しいことを聞いてもユウトにはわからない。


「じゃあ、俺も明日には帰ってこっちにできることを進めておくよ」

「頼んだよ」

「はい」

「頼むぞ、ユウト」

「任せとけ」


 ミオにも信頼しきった目を向けながら言われて、ユウトは胸を張った。もちろん、そんなものは虚勢を張っているだけに決まっている。が、ミオに頼られたらもう頑張るしかない。


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