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15 本日二度目の出会い

「王都には冒険者ギルドもちゃんとあってすごいよね。こういうところで、モンスター討伐の依頼とかできるらしいよ。それ以外にも色々と困ったこととか依頼できるんだって。もちろん、草むしりとかじゃなくて冒険者に頼むようなことだけどね」

「あー、そういう感じなんだな」

「おいらの村だと近くの森にモンスターが出たりしても、どうにもできなかったり、たまたま通りがかった冒険者に討伐を頼むとかしかできなかったから都会ってすごいよな。ユウト兄のいたところもそんな感じだったの?」

「あ、ああ。まあ」


 そんなものは小説やアニメ、ゲームの中でしか見たことのない世界だったと言っても、エリオには理解が難しそうなので黙っておくことにする。エリオは、ユウトのことも同じく田舎からというか、この王都ではない場所から出てきたと思っているようなので、わからないことがあっても説明をしてくれるのがありがたい。


(やっぱりあの格好だし、依頼しに来たというよりも依頼を受けに来たのかな)


 どう見てもミオは依頼を受ける側だ。ユウトも中に入ってみたかったが、依頼することも依頼するお金も無い。もちろん、依頼を受けるような腕も無い。

 つまり、冒険者ギルドに入る理由が全くなかった。


「取引所には堂々と入れるのにな……」


 思わず呟いてしまう。

 株の取引は身近なユウトだが、せっかくファンタジーな世界に来たというのに、冒険などという言葉とはほど遠い。


「冒険者ギルドにも入ってみたいの? おいらも入ったことないんだよね。入ってみる? 入るのは自由だと思うよ」

「いい! やめとこう! 今日は!」


 ユウトのことを見た瞬間にあの態度だったミオのことだ。ユウトがギルドの中にまで入ったのを見たら更に嫌な顔をされそうだ。しかも、ユウトはミオに弱そうだと言われた。なんの用事でこんなところに来たのかと思われるに違いない。


(いや、被害妄想か。そもそも向こうはなんとも思ってないかもしれないし、そこまで俺のことを気にしていないかもしれない。むしろ、さっきの目は虫けらでも見るような目だった……。名前すら覚えていないかも……。う、うう……)


 自分で自分を慰めようとして、逆にドツボにはまるユウトだった。


「そう? ユウト兄がそういうならいいけど」

「いいんだ。俺には株がある」


 自分を納得させるようにユウトは言った。


(ファンタジー世界だろうがなんだろうが、生きていければそれでいいんだ。それに、俺はミオに言われたとおり弱いから討伐なんかで稼げるわけがないし。手段は人それぞれでいい。ファンタジーだからってファンタジーなことしなくちゃいけないってことはないんだ)


「そうだ! 俺は今度こそ株で勝つ!」

「おいらもおいらも!」


 決意を口に出すと、エリオも隣で同意する。


(現実世界で負けた分を、この世界で取り戻せばいいんだ!)


 ユウトはぐっと拳を握った。


「でもさ、すごく綺麗な人だったよね。さっきの人」

「あ、うん」


 エリオはミオのことを言っているようだ。さすが、ユウトが一目見たときからファンタジー世界のヒロインみたいに可愛いと思っただけはある。エリオから見てもそうらしい。


「でも、サラ姉には敵わないと思うけど」


 そう言ってから、エリオは急に顔を赤らめる。


「あ、えっと、サラ姉には言わないでねっ。内緒だからね!」

「どっちをだよ」

「どっちって、さっきの鎧の人を綺麗って言ったこと? それとも、サラ姉に敵わないって言ったこと? ど、どっちもだよ!」


 エリオは一人で勝手に慌てふためいている。


「大丈夫。言わないよ」

「よかった。絶対だからね」


 エリオは確か16歳とか言っていたはずだが、恋する小学生のようで見ていて微笑ましい。


(それにしても年下のエリオも恋してるっていうのに、俺は全くそんなのに縁が無いよな。現実でも異世界でも……)


 せっかく可愛い子を見掛けて助けても、瞬時に嫌われるようなユウトだ。

 もう、ミオに会ったとしても全く接点などないと思った。見掛けても一瞥してどこかに行ってしまうに違いない。

 ユウトはそう思っていた。その日、二度目の出会いがあるなどと思ってもみなかった。

 サラの宿に帰って、ユウトはいつものように宿の手伝いをしていた。もちろん皿洗いなどの裏方だ。早めの夕食の時間だった。エリオは注文を取ったり料理を運んだり接客に回っていた。


「いらっしゃいませー。あれ?」


 お客さんを迎えるエリオの声が聞こえてきた。エリオの不思議そうな声が気になって、ユウトは思わず顔を出してしまった。


「!」

「お前!」


 今日二度目の目が合った。

 サラの宿にある食堂に入ってきたのは、ミオだった。


「あら、ミオちゃん。いらっしゃい」


 どうやら顔見知りというか常連なのか、サラがミオのことをちゃん付けで呼んでいる。


「きょ、今日はいい。すまないっ」


 ユウトの顔を見たからなのか、ミオは店を慌てて出て行ってしまった。


「あらあら、どうしたのかしら。急用でも思い出したのかしらね?」


 サラはおっとりした様子でミオが出ていったドアの向こうを見ていた。


「ミオちゃんと知り合いだったの?」

「あ、えっと」


 さっきもエリオに似たようなことを聞かれたような気がする。今日はそういう日なのかと思うユウトだった。


「知り合いというか、たまたま一度話したことがあるくらいです」


 ユウト自身言っていて残念だが、本当にそのとおりだ。


「というか、サラさんは知り合いなんですか?」

「ええ、ミオちゃんは討伐の後には私の料理が食べたくなるって時々食堂に寄ってくれるのよ」

「なるほど」


 本当にミオは討伐をしている側らしい。そして、身体を動かした後はガッツリ系の料理が食べたくなるのはなんとなくわかる。ただ、やはり食べたくなるのは時々なのもわかる。毎日はちょっとくどいとユウトも思っている。


(いや、ちょっとどころじゃないか。でも、食べさせてもらっている立場で文句は言えないしな)


「そういうときは、ご家族の分も持ち帰りで買っていってくれるのよ」

「へえ」


 家族思いなんだろうかとユウトは思う。ユウトがまだ投資家だと気付く前は、デレ成分も見せてくれたミオだ。


「どんな子なんですか?」

「あの子、あまり話さないから私もよくわからないのだけどね。前にぽつぽつと話してくれたのは、ええと……。なにかご家族に事情があってミオちゃんがお金を稼がないといけないと言っていた気がするわ。そうそう。確か、お父様がどこかの鉱山がある村の村長さんなんですって。掘っても掘っても搾取されて、鉱夫にお金なんか入ってこないと、あの子がこぼしていたことがあるわ。なんだかわからないけど、大変みたいなの。どこって言ってたかしらね?」


 名前までは覚えていないらしく、サラが首をひねっていると客席の方から声がした。


「それ、ルミネ鉱山のことじゃない?」

「そうそう。そんな名前だった気がするわ」

「魔力電池の原料になっている魔魂石(まこんせき)を採掘している鉱山ね」

「まあ、お客さん詳しいんですね」


 いつの間にか、隅のテーブルで木のジョッキになみなみと入ったビールっぽいお酒を飲んでいるお客が会話に加わっていた。なんだか薄汚れた作業着を着て、分厚い眼鏡を掛けた……、


(一応、女性か?)


 ユウトはちらりと声の主を見る。

 あまりに身なりに無頓着そうな格好をしているので、パッと見て性別がわからなかった。が、声は確かに女性だ。

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