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10 魔力電池

 ユウトはエリオと連れ立ってサラの宿を出た。

 今はまだ午前中だから、外が明るくて周りの建物の中の照明は気にならない。が、ここ数日でユウトは気付いていた。

 ユウトはエリオに尋ねる。


「なあ、この辺はロウソクとかランプとかの照明だよな? 俺たちの部屋もランプが置いてあるし」

「そりゃそうだよ。貴族とか大商人が使うような魔力電池は高価だからね。中心街みたいに明るくはできないよ」

「魔力電池?」


 照明が明るいか明るくないか、それだけのつもりで聞いたユウトだったが聞き慣れない単語に思わず身を乗り出した。


「え? ユウト兄、知らないのか? 中心街みたいに明るい照明は魔力電池で動いてるんだよ。あ! アレもそうなんだよ!」


 エリオが指さす。その先にはこの世界に来たばかりのときに見た、馬が引いてないのに動いている不思議な馬車が走っていた。


「アレは魔法電池で動いてるんだって。馬もいなくてどうやって動いてるのか、おいらにはよくわかなんないけど、スゲーよな」

「へえ」


 最初に見たとき、アレは一体どんな仕組みで動いているのかユウトも不思議に思った。


「おいらも王都に来てから初めて見たからびっくりしたんだ。ユウト兄も結構田舎から出てきたんだな」

「うーん、まあ」


 ユウトの前にいた世界ではどんな田舎でも馬が引く馬車なんてほとんど走っていなくて、自動車なんてものが走っていた。などと言っても、エリオには理解してもらえなさそうなので、それは曖昧に答えて黙っておくことにした。


「魔力電池ってなんなんだ?」


 あまりに聞き慣れない言葉だ。


「それも知らないの? 今は昔みたいに魔力を持っている人がどんどん減ってるし、日常で魔法を使える人なんて見たこともないだろ? だから、おいらも難しいことはよくわかんないけど、魔力を持ってる人がなんか鉱山から採れる石に魔力を込めて電池ってやつにしてるんだって。でも、魔力電池は高いからお金持ちしか買えないんだ」

「なる、ほど?」


 なんだか急にファンタジーのような現代のような話になってユウトの頭はこんがらがる。


(つまり魔力を電池に蓄えて電力みたいに使ってるってことか? そして、それが高価なものってことなのか)


 エリオの説明を、ユウトは頭の中でわかりやすく整理してみる。多分、大体合っているはずだ。


(しかし、ここファンタジー世界っぽいから、魔法もどこかで見られるかと期待していたんだが。使える人いないのか、魔法)


 せっかくファンタジーっぽい世界に来たのに、魔法が見られなくて残念に思うユウトだった。


「そうだ! これも、魔法電池で動いてるんだよ!」


 エリオがポケットからクリスタルタブレットを取り出す。


「すごいでしょ!」


 エリオは誇らしげにクリスタルタブレットを掲げる。


「そういえば……」


 クリスタルタブレット。当たり前のように、エリオは持っているしユウトにはスマホとして見慣れたものだ。

 だが、


「それって、他の人が持ってるの、あまり見たことがないな」


 まだ数日しか働いていないが、サラの宿の客の中で持っている人は見たことがない。もちろん、サラも持っていないようだった。ユウトがいた世界なら、食事の前とか後にはどうしても見てチェックしたくなる人が多いと思うのだが、出す素振りをする人はいなかった。周りを見回しても歩きスマホならぬ、歩きクリスタルタブレットをしている人も見ない。


「そりゃそうだよ!」


 えへん、とエリオが胸を張る。


「だって、クリスタルタブレットはまだ出たばっかりなんだよ。そんなすごいもの持ってるおいら、すごいでしょ!」

「ってことは、まだ普及してないってことか……」

「それって何が出来るんだ? 前に貴族や大商人が持ってるって言ってたよな? あと投資家も」


 ユウトにとっては、あまりに当たり前のツールだったから、スマホと同じ当たり前のものとして考えていた。


「んーと、おいらは株の取引に使うために買っただけなんだけど。株の取引と、掲示板と……。あと、えっと、商人も取引に使うって言ってたような。あとは、遠くにいる人と話したりできるみたいだよ。文字でだから、すごく速い手紙みたいなものみたい。あ、でも手紙を受け取る先の人もクリスタルタブレットを持ってないといけないから、おいらは送れる人がいないなあ」

「それだよ!」

「ど、どれ!?」


 突然叫んでしまったユウトに、エリオは驚いた様子で何かが周りにあるのかと目をきょろきょろさせている。


「だから、これだって! クリスタルタブレット!」

「え?」


 再び叫んでしまってから、ユウトは口をつぐむ。こんなところで大声で話していたら、他の人にも聞かれてしまう。ユウトは道の端にエリオを引っ張っていった。


「なになに?」


 こんなときでもエリオは素直についてきてくれる。

 もう一度、ユウトは周りを見回す。ユウトたちを見ているような人たちはいない。それに、やはり改めて通行人を見ていても、クリスタルタブレットを持って歩いている人もいない。エリオの言うとおり、まだ普及していないというのは本当のようだ。


「エリオには先見の明があるんだな」

「え? なに? せんけん?」

「先を見抜く力があるってことだよ。それは株の世界では最高に役に立つんだ」

「でも、おいら自分では何もしてないよ?」


 エリオは訳がわからない様子で首をひねっている。ユウトは小声で耳元に囁く。


「もし、手紙で何日も掛かって届けられるものが一瞬で届くようになったら、エリオはどう思う?」

「どうって……、スゲー! って思う」

「だろ? だから、このクリスタルタブレットはすごいんだよ」

「うーん。おいらは株をやるのに便利だからって言われて、思わずスゲー! カッコいい! って思って買っちゃったけど……。株とかやらない人は買うかなあ? 結構高いし」


 まだエリオは納得できないようだ。


「貴族とか商人でもまだ持ってない人も多いみたいだし」

「よくそんなもん即決で買ったな!」

「だって、カッコいいから」


 照れたようにエリオは笑う。


「確かに。みんなが持っていないすごいものを持っているのが嬉しいのは、俺にもわかるけど。意外と思い切りがいいというかすごいよな、エリオ」

「そうかなあ」

「だから、俺に言われてすぐに仕手株にも手が出せたのか。思い切りのよさも大事ってことか」


 実際、現実世界で株をやっていたときにもタイミングが悪くてやられたことは何度もある。株には思い切りも大切な要素ではある。


「で、これ、なんて会社が出してるんだ? その会社の情報って見られる?」

「クリスタルタブレット……、だから……、あ、そうだ! クリスタリス通信、だっけ?」


 一生懸命思い出している様子でエリオがクリスタルタブレットを操作している。


「あ! あった。なになに『通信の未来を見据える、クリスタリス通信』? これ、キャッチコピーみたいなやつ? ふんふん。クリスタルタブレットも開発してるけど、中身の通信にも力を入れてるみたい」

「やっぱり」


 ユウトは呟く。


「そのクリスタリス通信の株価は今どうなってる? 確認してみてくれないか?」

「クリスタリス通信の株価? えっと……、500セレンくらいだね」

「まだ目は付けられてないみたいだな……」

「? クリスタルタブレットなんて、特殊な人しか持ってないものだよ? ユウト兄は、こんな株が気になるの?」

「こんな株、か。それ、ちょっと貸してくれ」


 ユウトはエリオからクリスタルタブレットを受け取って、チャートを見る。ヨコヨコと投資家たちが呼んでいる平らなチャートがずっと続いていたようだ。しかし、多少の上下はあるものの、最近のチャートはなだらかな右肩上がりだ。派手に動いている様子もない。

 開発にお金がかかったのか赤字はまだあるようだが、段々と少なくなって売り上げも上がってきている。


「よし! これだ」


 ユウトは画面から顔を上げた。


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