表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1:アラサーバンドマンの愉快な日々

 男女問わず二十代から中年頃まで、そこそこ広いライブハウスをバンド見たさ・聞きたさにそれなりの人数が集まっている。

このロックバンドがワンマンでこなせるようになってから大分経つ。

先日は俺たちのオリジナル曲を、某有名動画サイトの歌い手が歌ってみた、との事で少しだけバズり、来場者がまた少し増えたんだそうだ。

そろそろ()()位のキャパだと手狭かと考えながら舞台上の仲間を眺めれば、今夜もノリにノって観客を沸かせていた。

ボーカル・ギター・ドラム・キーボードで構成される、この4人組バンドの音響スタッフをしているのが俺、加賀見(かがみ)(あい)

音響スタッフといっても、インディーズのバンドスタッフなんてのは所謂雑用係。自分で機材の搬入から搬出、地方移動の車の運転もするし、じゃんけんで負ければ弁当の買い出しもする。今日の弁当係は免れたが、終演後のモップ掛けからは逃げられなかった。

31歳にもなってインディーズバンドのローディとか、と、先日街中でばったり会った元カノには鼻で笑われたが、まぁ、これで食っていけてるし、なんだかんだ楽しく仕事出来てるしなぁという所だ。


「ラストー!お前ら飛べー!!」


ライブの最後にいつも歌う曲のイントロが流れ、ボーカルが叫ぶと同時に観客が腕を上げながらリズムに合わせて跳ねる。

激しいその振動を浴びながら横を見れば、周りの熱くなっていく温度とは別空間にいるかのように、腕を組んでじっと舞台上を見つめるいつもの常連がいた。

ノリには加わらない、でも関東圏のライブにはいつも姿を見せるその男は、今日も変わらずライブハウス後方の、この音響ブースの近くで眩しそうに舞台を眺めながら佇んでいる。

そこに居るのを確認し(すっかり定位置になってるなぁ)なんて考えながら、俺はラスサビの盛り上がりに向けて手元のツマミを右へ捻り、頬を触るホワイトブリーチの長髪を後ろに放った。




「アイちゃーん!このコード抜いといていいー?」

「助かるーついでに巻いといてー」


終演後の片付けを捌きながら今夜の段取りを考えていた時、手元に影が落ちる。

誰かが何か用かと顔を上げると、ボーカルの那月が満面の笑みを浮かべながら立っていた。


「なに」

「アイ、ファンミやろうぜって」

「ファンミ?ファンミって良く聞くけど実際何すんの?」

「知らねー」

「知らねぇのかよ…」


元気と歌声だけが取り柄のボーカルは直情型で、面白そうだと思ったらなんでも手を出す。今回もその暴走かと思ったが、那月の後ろからリーダーでありドラムのハリスがひょっこりと顔を出した。


「藍、ファンミやる。その中で曲も演るからお前も参加なー」

「…まぁ、それはいいけど。ファンミって何やんの」

「それはこれから会議だな!」


高校からの長い付き合いなハリスは、見た目もファーストネームも白人系だが、苗字は木ノ下だし日本語が母国語の日本人だ。確か父親が外国人だった記憶があるが、出会った頃にはハリスの両親は離婚していたので良くは知らない。

堀の深い顔立ちでファンが多く、ドラムソロで黄色い歓声が沸く頼れるバンドメンバーの兄さんだが…俺とは長い付き合いもあって、ハリスの腐れ縁兼相談役みたいな立ち位置になっている。


「このあと?明日?」

「あー…飯食いがてらでこの後だな」


これでファンミとやらの開催と打ち合わせが決まり、ライブハウス近くのファミレスに向かう事が決まった。

 バンドメンバー全員と、スタッフ側のリーダーとしていつの間にかそうなっていた俺、そしてホテルや箱の手配を一手に担っている総務系アシスタントの莉子さんが集まり、膝を突き合わせての打ち上げを兼ねた話し合いは…なかなかのカオスだった。


「んで、ファンミって何やんの?」


 全員が席に着き、注文が終わったところでそう聞けば…まさかの全員が首を傾げた。

掘り下げてみれば、案の定言い出しっぺだった那月が思いつきのままに言ったというのが発端で、その中身は見事な空っぽだった。

丁度古参ファンとの交流の場がそろそろあっても良いんじゃないか、と思っていたハリスがそれに乗ったという形で。

(こんなこったろうと思ったよ)と真顔で頷き合った俺と莉子さんは、メンバーを放って話を進める事にした。


「曲はやんだろ?バンドだし」

「そうですねぇ。軽く調べたんですけどー、歌手がやる場合は歌ったり、ちょっとしたゲームしたり、質問コーナーしたりするみたいですねー」


俺とハリスの疑問に少しのんびり口調の莉子さんがそう答えると、ギターのコマツ(本名小松)がヘラリと「ポッキーゲームとか?」と言い、キーボードの秀が「小人数なら出口でお見送りハイタッチとかやりたいー」と言った事で、コマツの発言は全員から無視される事になった。

おおよその予定日時、質問は前もって募集するのか、ファンミの応募資格はどうするのかなどを大体決めて会議終了になると、各々追加で腹一杯になるまで飯を食い、解散となった。

 帰り道。ハリスと二人並んで歩きながらぽつりぽつりとライブの反省会を言い合っていると、先を歩くコマツが振り向きながら笑う。


「リーダーらさ、よくそんなに話す事あるね?大体毎日一緒にいるのに」

「決めなきゃいけない事が山のようにあんだよ」


ハリスが答え、俺がそれに「俺らリーダー兼マネージャーみたいなもんだしな」と続けて笑う。どこか頭の片隅で(仲が良いのがこのチームの一番良い所だな)と考えた。

高校から一緒のハリスも、大学の後輩な那月も、途中合流のコマツと秀、莉子さんも、全員が俺とハリスを立てながらも自己主張も忘れず、それでいて仲が良い。

こんだけ一緒にいて、もう家族みたいなもんだなーと思いながらメンバーの後ろ姿を眺めていたら、なんだか嬉しくなって思わず鼻歌を奏でた。



金髪ロン毛、ガチムチ受です~よろしくお願いします!

次回更新は明日。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ