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三十路な私たちの複雑な関係について(全21話完結)  作者: あおあん


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12/21

12,緑と匠①

 マンションの前でぽつねんと立っているだけで絵になる、たっくん。

 駆け寄って来て、私に両手をパンッと合わせた。


「ほんっと、悪い!」

「いーよ」


 福ちゃんとの食事終わったところだし、ちょっと、たっくんのことも気になってたし。


「デリバリー、ありがと。あんまし好きじゃなかった」

「そっか」


 たっくんはすごく疲れてそうだ。


「仕事、大変なの?」

「大変じゃない仕事なんてないだろ?」

「質問、間違えた……仕事、嫌なの?」

「ああ、ちょっと……辛くなってきた」


 この背の高いイケメンは、時々こうして弱い部分をさらけ出してくる。

 それが、私にはどうしても放っておけない。


 ソファに座って、両手で顔を隠している。

 こうして泣いているところを、何度か見たことがある。

 そっと両腕で包む。


「泣きたいときは、泣け」


 そう言って、よしよししてあげる。


「緑……おれ……」

「仕事、辞める?」


 真っ赤な目をして、顔を上げた。

 うわぁ。泣き顔もうつくしーのな。


「なんで分かった」

「なんとなく」


 この人が自分をいじめるように仕事をしてる理由は女だ。

 たっくんには忘れられない人がいる。


 その女のことは見たこともないし、名前も知らないけど、とんだ馬鹿だと思う。

 こんなに愛されてるのに、他の男のところに行くなんて、ほんと信じられない。


「少し寝なよ」

「ああ」と言って、たっくんは、その場でソファに横になった。


 何か掛けてあげなきゃと思い、たっくんの部屋に入る。

 相変わらず、何もない。


 初めてここに来たのは3年くらい前、今の職場でバイトしながら高校通ってた時、親が離婚して、引っ越そうって言ってきた。高校はどうでもよかったけど、バイト場は離れたくなかったから、親にそう言ったら、じゃ、一人でやってけと追い出された。


 そしてここに転がり込んだ。たっくんには好きな女がいるし……そんなことお構いなしに寄ってくる女だっていっぱいいるから、私に手を出す必要がない。ここはすこぶる安全地帯なのだ。


「女を連れ込むときは出て行くから言ってね」って言ったら、「呼ばねーよ」だって。

 こんなに良いマンション住んでるから、てっきりそういう事が目的なのかと思ってたけど、ハズレた。仕事でマンション販売をしてるみたいで、「売るのが勿体ないくらいいい物件が出た」から、自分で買ったんだって。ヤバい奴。


 私はその後、高校行かなくなって、バイト先で社員にしてもらった。

 3年間、何も増えてない、何も減ってない部屋を見渡す。

 殺風景なベッドから掛け布団を引っ張り上げた。


「なにがあったの?」


 布団を掛けながら、小さな声で言ってみる。

 綺麗に整った顔の、塗れた睫毛が痛々しい。





 いい匂いで起きた。

 実は、たっくんは料理が上手い。

 昔、バイト先で教わったって言ってたけど、家では滅多にやらない。


「おはよー」

「おはよ。昨日はありがとな」

「いやぁ、いけてる男の泣き顔、いいもん見せてもらったなぁ~」

「からかってんじゃねぇ」


 よかった。たっくん、笑顔だ。


「これ、食ってから行けよ」

「ありがと!今、食べる分しかない?」

「は?」

「お弁当に持って行きたい」

「ああ。あるよ」


 手際よく詰めてくれる。


「二人分、お願い」

「おう。弁当箱とか無いから、キャンプ行ったときのやつに詰めるけど、洗うの大変なら捨てちゃっていーぞ」

「えー、そしたらもう作ってもらえないじゃん」

「誰と食うんだよ」

「彼ピ」

「アジッ」


 たっくんが、なにか落とした。


「は?なんて?かれ、ぴ?」

「そーだよ」

「お前、そんなの居たの?」

「出来たばっか」

「よかったなー!」

「だから、お弁当、いっぱい詰めてね」


 水で手を冷やしてる。火傷しちゃったの?


「なんか、たっくん、ニヤニヤしてきもいよ」

「悪かったな」


 たっくんが私の幸せを応援してくれるっぽいのが嬉しかった。

 リュックとは別に、アウトドア用のバッグに食べ物いっぱい持たせてくれた。

 福ちゃん、驚くだろうな。


「また、しばらくあっちで寝泊まりするから、元気でね」

「ああ、体調に気を付けろよ」

「たっくんもね」

「彼ピによろしくな」

「はは。言っとくー」




 たっくんちと職場は、近くて助かる。

 えっさ、えっさと大きなバッグを運んでいたら、後ろから声を掛けられた。


「緑さん、僕、それ持ちます」

「あ、福ちゃん」


 ひょいっと私からバッグを奪った。

 頑張って運ぶところも含めて、喜ばせたかったのに。


「重っ!なに入ってるんですか?」

「愛情弁当的な……?福ちゃんは、なにしてんの?」

「どら焼き的な……?」

「なにそれー!」


 私の真似してる、福ちゃん、うける。


「福ちゃん、私のいない間、一人でやれた?」

「いくつだと思ってんですか。問題ありませんよ。緑さんこそ、家の方は大丈夫だったんですか?」

「いや。なんか、辛そうで、私も見てて辛かったわ」


 これじゃあ、何言ってるか分からないよな、とは思ったけど、私にだって、どう説明していいか分からない。ちゃんとまとめて、今度、話すから。今は、ごめんよ。




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