王朝期の中国史の享受で得られる心の栄養
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」や「Gemini AI」を使用させて頂きました。
一昨年の秋頃から特に顕著な傾向なのですが、私は中国史に纏わる逸話や故事成語などを創作に反映させる事が割とありますね。
特に「史記」や「三国志演義」の時代から清朝までの王朝期の中国史由来の要素を、ここ最近はよく反映させていると自負しております。
その最たる例と言うべきは、清朝最後の皇帝である宣統帝の孫娘という出自を持つ愛新覚羅紅蘭女王によって立憲君主制国家として建国された清朝の後継国家を舞台とする宮廷ものの「中華王朝史記」というシリーズです。
こうしてシリーズとして展開している事から考えますと、やはり私は王朝期の中国史が好きなのでしょうね。
そこで本エッセイでは、私が王朝期の中国史を好きになった経緯や魅力を感じている要素などについて語っていきたいと思います。
王朝期の中国史をストーリーとして好きになった切っ掛けは、やはり横山光輝先生の中国史漫画が大きいですね。
私は元々ロボットアニメが好きで、「バビル2世」や「鉄人28号」を始めとする横山光輝先生の作品群の総登場を目指したOVAである「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」も好きなのですが、ここから遡る形で横山光輝先生の中国史漫画を読んでいったんです。
要するに最初のモチベーションは「諸葛孔明や神行太保戴宗は、元ネタだとどんな人達なのだろう?」という感じだったのですね。
そうして横山光輝先生の中国史漫画の世界へ入門していったのですが、歴史ジャンルの奥深くも面白い点は、特定の時代や人物を好きになると、それに纏わる過去や後世の時代の出来事にも興味が湧いてくる事なのですよ。
例えば「水滸伝」では呉学人の事を「書は万巻に通じ智は諸葛孔明に迫ると噂されている人物である」と描写する場面があるのですが、その諸葛孔明の事を知りたくなれば「三国志」を繙いたら良いのですからね。
そしてその「三国志」を読みますと、曹丕に禅譲を迫られた献帝が「漢は秦・楚を滅ぼして朕に及ぶこと四百年」と反論するくだりがあり、その秦と楚が滅んで漢王朝が成立していく過程は「史記」や「項羽と劉邦」を読み進めていく事で自ずと理解出来ていくのですね。
そうして前後関係を追っていくうちに様々な時代や国や勢力に推しが出来ていって、いつの間にか国や勢力や時代単位で箱推ししたくなってくるのですよ。
この歴史の連続性に起因するロマンと層の厚さが、王朝期の中国史というジャンルの大きな醍醐味なのだと思いますね。
そうして中国史というジャンルを楽しめるようになったのも、歴史漫画に反映された横山光輝先生のストーリー構成と再構築の巧みさや確かな歴史的視点が大きいですね。
遺作となった「殷周伝説・太公望伝奇」の次回作として横山光輝先生は孫子を主人公に据えた作品を構想されていたそうですね。
もしも「孫子」の歴史漫画が実現していたなら、「史記」や「戦国獅子伝」を読む時の理解が更に進むのは勿論の事、より一層に楽しく中国史の世界に浸る事が出来た事でしょう。
そうした具合に、私の場合は横山光輝先生の歴史漫画を切っ掛けに中国史のストーリーの大筋に興味を抱いたのですが、中国史の小ネタ的な分野に興味を抱いた最初の切っ掛けは小学生の時に読んだ故事成語辞典だったと思います。
小学生の時の私は国語科目が得意な子供で諺を覚えるのも好きだったのですが、「臥薪嘗胆」や「刎頸の友」といった中国史由来の故事成語には独特の格調とカッコ良さを感じて積極的に覚えるようになりましたね。
そうして長じてから「史記」の物語に触れる事で、「子供の時に覚えた故事成語は、話の流れではこのように使われていたのか…」と感動した次第です。
そして横山光輝先生の歴史漫画で描かれていない時代の中国史については、各種書籍や歴史解説系ゆっくり動画などで学校の歴史の授業等では掘り下げられなかった所まで楽しく知る事が出来ましたね。
三国志の後日談とも言うべき八王の乱や五胡十六国時代、そして明清交替期において張献忠が蜀で行った暴政や清軍による揚州大虐殺など、ドロドロとした血腥い出来事も少なくはないですが、スケールが大きくてダイナミックな所は間違いなく中国史の醍醐味です。
そうした具合に王朝期の中国史に触れて感じた楽しさや醍醐味を反映させたのが、前述した「中華王朝史記」の連作なのですね。
さすがに「史記」や「三国志」のお話をストレートに書くのは私としては恐れ多いですし、完全な架空の中華風異世界を舞台にした中華ファンタジーもまた綺羅星のような先行作品が沢山存在します。
そこで私は、二十世紀半ば辺りで歴史が分岐した事で一九七〇年代後半の中国大陸に再び王朝が誕生したIF世界の中国現代史という形で「中華王朝史記」の連作を書くようになったのですね。
この方法ならば、王族や文武百官の設定などに私の趣味趣向を好きなだけ反映させ、尚且つ「史記」や「三国志」といった史実の出来事にも言及する事が出来るのですよ。
何しろ中華王朝は清朝の流れを汲んではいるものの、立憲君主制が採用された事で適度に近代化されており、尚且つ女性君主が代々統べる国家になっていますからね。
そういう訳で中華王朝の王城である紫禁城は、後宮や宦官が存在しない代わりに多数の女性官僚が活躍している風通しの良い気風になっています。
その一方、王族や文武百官は王朝期の中国史を彩った名立たる人達の直系の子孫という出自になっているのですね。
例えば、この愛新覚羅紅蘭女王陛下は清朝最後の皇帝である宣統帝の孫娘という立場になっています。
この紅蘭陛下は君主であるものの冕冠を被っていませんが、これは中華王朝が他の君主制国家との協調を目的に帝号を廃したからなのですね。
そうした謙虚で聡明な美人の女王陛下というのは、私の理想とする君主像ですね。
そんな愛新覚羅紅蘭女王陛下と結婚した王配は、劉玄武殿下という人物です。
この人は蜀漢皇帝である劉備玄徳の直系の子孫という出自なのですね。
劉備は「三国志演義」においては生涯を天下泰平のために捧げた義の人として描かれていて好感度も高いので、私の作品の中では劉備の直系の子孫が現代においても王族として活躍しているという事にさせて頂きました。
劉玄武殿下以外にも三国志時代の人物の末裔は中華王朝の宮中に存在しています。
その代表格の一人が、この司馬花琳上将軍ですね。
この人は司馬懿と司馬炎の末裔です。
八王の乱で大変な事になった司馬一族ですが、何とか現代まで命脈を保って活躍して欲しい。
そんな思いを込めながら設定した人物です。
この司馬花琳上将軍には、キリッとした誇り高い女性騎士という属性もありますね。
三国志以降の時代の人物の子孫も存在していまして、この代表例の一人がこの完顔夕華ですね。
彼女の役職は太傅で、金王朝を興した女真族の指導者である完顔阿骨打の直系の子孫という位置付けです。
金王朝は元&南宋との戦いで滅んでしまったので、「完顔氏の子孫も活躍させたい」という思いで設定致しました。
どうも私は「中華王朝史記」において、「偉人達の子孫に新たな王朝時代を築いてほしい」という願いを込めているようですね。
判官贔屓ともまた違うのですが。
そういう訳で私は今後も、歴史漫画や歴史小説といった中国史系コンテンツの鑑賞と「中華王朝史記」の創作という二方面で、王朝期の中国史を楽しんでいきたいと思います。