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十二 The Police Interview

 翌日、刑事が現れた。三人は分けられて、それぞれ聴取をされた。

 私が中庭のベンチに腰を掛けると、ベテラン刑事が隣に座った。若い刑事が前にしゃがんで、私に質問をする。

「誘拐された高坂弥生さんとのご関係は?」

「広島の写真館の店主と店員です」

「ご住所が同じですが」

「内弟子のように、住み込みで働いています」

「それだけですか」

 今日の刑事も、何かかんに障る物言いをする。愛人関係でも疑っているのか。そうだったら、どうだと言うのだろう。

「それだけです。何が言いたいんですか」

 私が問い返すと、ベテラン刑事が若い刑事に向かって、「やめろ」という目配せをした。

「それでは、関根雄介さんとのご関係は?」

「それは説明が長くなる」

「構いません。アパートの大家さんは、関根さんのことを『探偵』だと言っていましたが」

「それは大家さんがそう思っただけでしょう。そんなことは言わなかったと思います。関根さんは、小窓、いや高坂弥生さんの父親を名乗る人です。高坂さんには、戸籍上の父親がいません。先日、彼女を探して私の店に来ました」

 若い刑事は怪訝な顔をしたが、ベテラン刑事が「先に進めろ」と目で合図を送る。

「では、誘拐に気付いたのはいつですか」

「昨日の夕方。高坂さんが可愛がっている中学生が、拉致されるらしい現場を見て、教えてくれたんです」

「なぜ、通報しなかったんですか」

「警察が踏み込むと、犯人が逆上して暴走すると思ったからです」

「あなたたちが踏み込んで怪我人が出たじゃないですか。警察はそんなにドジじゃない」

 …なんだこの刑事。

 私の反発する表情を見て、ベテランが首を横に振る。

「容疑者と面識は?」

「私自身はありません。高坂さんの高校の同級生で、地下アイドル時代の熱烈なファンでしたが、度が過ぎてストーカーとなり、彼女の卒業ライブを爆破予告で中止させたと言っています」

「爆破予告?」

「高坂さんの話だと、警察はあまり調べもせずに、グレーのまま、あいつを野放しにしていたそうです」

「伝聞の話は必要ありません」

「そうですか。聞いた話は必要ないですね」

「そういうことを言ってるわけではありません。では、どうやって監禁場所が分かったのですか」

「それは関根さんに聞いてください」

「関根さんが主導したんですね。彼から何か聞いてましたか」

「あなた、伝聞は要らないとおっしゃった。それに主導って何ですか」

 堪らず、ベテラン刑事が話に割って入った。

「お気を悪くされたのならごめんなさい。何でも話してください」

「彼に教えてもらいながら、『スマホを探す』機能を使ったんです」

「伝聞ではないじゃないですか」

 …なんなんだこの刑事。

 ベテラン刑事は「ごめんなさいね。私が代わります」と言ってこちらを向いた。

「なるほど。では、どうやって、あの部屋に入ったのですか」

「大家さんに鍵を借りましたが、ドアは空いていました。『弥生ちゃんと一緒に死ぬ』という言葉が聞こえたので、突入しました」

「その時の様子を詳しく教えてください」

「ドアを開けると、あいつは刃物を出したので、私は間に割り込むように、彼女を庇いました。すると、『痛い』という声が聞こえたので、振り返ると一瞬あとに飛び込んだ関根さんが、あいつに刺されていたんです」

「男が関根さんを刺しに行ったわけではなく、関根さんが刃物を持った男に飛び掛かったんですね」

「その瞬間は見ていません。振り返ると二人はもう離れていました」

「なるほど。その後はどうなりましたか」

「出血していたので、高坂さんが救急車を呼びました。あの男がへたり込んで座ったところを、私が馬乗りになって取り押さえました。もう抵抗はしませんでした」

「ありがとうございます。では、容疑者に何か酌量の余地を感じるものはありますか。現状、誘拐監禁と傷害の容疑が掛かっています」

「分かりません。それは被害者である高坂さんと関根さんの感じ方だと思います」

「なるほど。あなた自身はどう感じますか」

「刃物を持っていたこと自体はどうかと思いますが、少なくとも関根さんを刺したことについては偶発的なことだと感じます。だけど、誘拐については計画性を感じました」

「計画性を感じたという理由は何ですか」

「駐車場で容疑者のらしい車を見た時、広島で中学生が目撃したというナンバーとはまったく違っていました。誘拐時には上から別のナンバーを貼ってたんじゃないかと思いました」

 監視カメラをハッキングして見た「神戸ナンバー」のことは言わなかった

「なるほどなるほど、調べてみましょう。こちらからは以上です。ご協力ありがとうございました。あなたから、何か聞きたいこと、言いたいことはありますか」

「三年前のライブ爆破予告と、今回の容疑者の関係を調べ直してもらえないかと思います。彼女の警察不信の原因です。彼女の話によると、容疑者も疑われたまま曖昧になっていることで苦しんでいて、その弁明のために彼女に会いに行ったと言ってるようです。その手段が誘拐というのは言語道断ですが、もしかしたら、犯行の動機に一片の同情を拾えることがあるかもしれません」

「分かりました。その事件の調書を当たってみます」

 私の聴取は終った。二人の刑事は、礼を言って頭を下げたが、若い方はバツが悪そうだった。


 関根の病室に行くと、ちょうど別の刑事が礼を言って帰るところだった。刑事は私に軽く会釈して出て行った。昨日、ICU(アイシーユー)の前に来た刑事だ。

 病室に入って様子を聞く。

「どうでしたか」

「正直に言いました」

「ハッキングのことも?」

「それは聞かれなかったので言いませんでした。駒戸さんのスマホのGPSで探したことにしました。駒戸さんはもしかして、私がハッカーだとか言いました?」

「いえいえ、私も『スマホを探す』機能で見つけたと言いました」

「それは本当のことなので、それとしておきましょう。ハッキングには、それなりの法的抗弁を用意していますけどね。それより、父親かもしれないということの説明を信じてもらえなくて、困りました。ストーカー同士のいざこざみたいな筋に持っていこうとしていました」

「それは酷いな。それは小窓が否定してくれるでしょう」

 そこに小窓が現れた。

「大丈夫だったか」

「うん。優しい女性刑事だったの」

「何を聞かれた」

「主にあいつのこと。同級生でファンだったことから、爆破予告疑惑、ストーカー行為、そして、広島で車に乗せられて、京都のアパートに連れて行かれたこと…ひと通り話した」

「関根さんのことは?」

「関係を聞かれたわ。鞄に入ったままだった戸籍謄本を見せて、自分の父親は誰だか分からないことを伝えて、大学時代に母と交際していた関根さんが『自分が父親ではないか』と名乗り出たことを話した。私を探している途中に関根さん自身がストーカー扱いされたけど、そうではないことを言ったよ」

 関根は安心したように「そうですか。私もそこを聞かれました」と言った。

「三人の話に食い違いはないようだ。私のことは聞かれなかったのか」

「オーナーのことは、写真館のオーナーですと言ったら、終わったよ」

 …さすがに、ダーリンとは言わないか。

「ところで、関根さん。付き添いのことなんですが、小窓と私も店があります。一週間くらいならおそばにいようと思いますが、入院が伸びた場合、どうしましょう。奥さんもお子さんもいないと言われてましたよね」

「ああ、ご心配かけてすみません。そのことをお話していませんでしたね。実は東京に母がおりまして、今朝一番に電話をして、今日からここに来てくれます」

「はあ、そうでしたか」

「本当にすみません。ご心配、ありがとうございます」

「いやいや、お母さまが来られるなら、安心です」

「全治一か月の重傷ということになっていますが、一週間で抜糸したら退院と聞いています。あとは地元の病院で経過観察だけということで聞いています」

「なるほど。大怪我おおけがには違いないですが、長引かないようで良かったです。それでは、私らはお母さまが来られたら広島に帰ります」

 今度は小窓が関根に聞いた。

「関根さんはお母さんに、私が自分の子どもかもしれないという話をされましたか」

「いえ、していません」

「分かりました。じゃあ、それに触れないようにお話をします。それと、DNA鑑定のことなんですけど、何をどうすればいいですか」

「ありがとう。実は、私の鞄にキットが入っています」

 私はベッドの横に置いてある鞄を関根に渡した。関根はキットを取り出し、一つを小窓に渡す。もう一つのセットから、細長い綿棒を取り出した。

「これで、口のなかうえのところを十回ほど擦ってください」

 そう言いながら。自分でやって見せてプラスティック製の細い筒に納めた。小窓が同じようにして関根に返すと、関根は二人の検体を封筒に入れた。

「もう準備はできています。帰りに投函してもらえますか」

「分かりました。当面はお母さんにも内緒で」


 関根のお母さんが病院に到着した。

 私の母と同年配の上品な人だ。

「このたびは、息子の雄介がお世話になったそうで、ありがとうございます。お二人との関係もよく分からないのですが、救急車を呼んで、ひと晩、面倒をみてくださったのですね。このお礼は、落ち着いたら必ずさせていただきます」

「いえ、そんなご心配はなさらないようにお願いします。関根さんが怪我をするようなことになってしまって申し訳なく思っています」

「雄介がなぜ人に刺されるようなことになったのかも、まだ聞いてはいませんが、もうね、この子は子どもの頃から思い込んだら一直線、善悪の見境もつかなくなることがあるんですよ。なんか、いけないことしたんじゃないんですか」

「いえ、関根さんは悪くないですよ」

「本当かしら...。お二人とはどういうご関係なんですか」

 関根が小窓の父親かもしれないという話を避けようとすると、すごく説明が難しい。私が口籠っていると、小窓が答えた。

「私たち、広島で写真館をやっていて、こちらはオーナーの駒戸で、私は店員の吉木といいます。関根さんとオーナーは知り合いなんだそうです。昨日、京都でばったり出会ったのですが、事件に巻き込まれまして。事件については、関根さんに聞いてください」

 嘘は言っていない。

「駒戸さんと吉木さん。そうだったんですか。広島の知り合いとばったり…。何をしに京都に…。よく分からないわねえ。まあ、あとで雄介に聞きますわ。お二人、お店をやっておられるのなら、お帰りにならなきゃならないのでしょう」

「お母さんに早く来ていただいて、助かりました」

「雄介の無茶で、ご迷惑をおかけしましたねえ」

「いえいえ、こちらこそ、関根さんにはいろいろ助けていただきました」

 私と小窓は、関根に「また連絡します」と言って、病院を出た。


 タクシーで洛北荘らくほくそうに行き、小窓は管理人に挨拶をした。サイケなTシャツは返さなくていいと言う。朝からの鑑識作業がさっき終わったところだと聞いた。駐車場に行くと、誘拐に使われた車がレッカー車に積み込まれていた。レンタカーを満タンにして返却。駅前のポストでDNA鑑定キットを投函して、京都駅から新幹線に乗った。

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