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【完全版】世界を支配する悪い魔女は こっそり気紛れの人生を過ごすことにした ~可愛い勇者に倒して貰うまで~   作者: 白山 いづみ
朝焼けを抱く

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世界を支配する魔女の呪い


「いまのは……?!」

 

 咄嗟に駆け出した警護官のあとを追い、アルヴァも中央議会の議場へ向かった。

 重厚な赤い敷物が敷かれた廊下を駆け抜けると、すでに警護官でごった返している議場入口に着いた。


 

「蛇の魔物だ! 多すぎる! 議員達を外へ……!」

 議会の入口近くにいた議員達が、必死に逃げ出してくる。

 その足元に絡み付いた赤黒い蛇を警護官達が切り捨て、次々と外へ誘導していく。


 大きく開かれた議場の中は、真っ暗だ。

 入口付近が魔物で埋め尽くされているのか?

 ――いや、闇魔法が議場を支配しているのか。

 

 

『――光よ 我が意に従い 闇を払え!!』

 咄嗟に議場内へむけて詠唱したアルヴァの魔力が、入口付近の様子を照らし出す。

 

「おおっ、君は光魔法使いか! こっちに来て議場内を照らしてくれ!」

 半ば強制的に警護官達に背中を押され、つんのめるように議場内に足を踏み入れることになった。

 

 緊急時とはいえ、この国の警護体制は大丈夫なのか?

 

 だが今は、そんな心配をしている場合ではない。

 もう一度同じ詠唱を、悲鳴が響く空間に向けて、強い魔力を込めて放つ。


 まるで大きな劇場のような、重厚で広い空間。

 

 足元から無数に出現し、議員達に絡みつく赤黒い蛇の魔物。

 階層の奥の高台が議長席なのか、緑の護衛官の姿もある。

 

 だが、闇が晴れてひときわ目を引いたのは、議場の中央に浮かぶ、ひとりの人間だった。



「……………………」

 

 さっき街中で見かけた旅人の女性。

 深く被った外套と、口元を隠す襟巻と、たぶん買ったばかりの、仮面。


 

 足元の蛇に手一杯なのか、議員達からの元気な野次はない。

 かわりに、苦しげな呻きが満ちる。

 

 無数の赤黒い蛇は、議員達に致命傷を与えるほどの力は無さそうだ。

 なのにここまで彼らが静かだということは――まさか、毒か。

 

 

「……この国を治める人達。忘れているようだから、思い出させてあげる。私は、『世界を支配する魔女』。……リーオレイス帝国との国交とか、面白い話をしているのね」


 高く、凛とした声が、議場に響いた。


 

「……!」 

 一瞬、頭が真っ白になる。

 

 ――なぜか気になる、という予感のようなものは、放置すべきではなかったのだ。


 

 議場の高台に、リッド=ウインツ総議長が立った。

 そこにも無数の蛇がいるが、他の議員達のように苦しむ様子はない。

 どうやら傍にいる緑の制服――ユリウスも無事のようだ。

 瞬時に身の回りの蛇達を撃退したのだろうか。

 


「帝国と仲良くすれば、この国は内部から侵食される。私以外が世界を支配するなんて、許さない。くだらない決断をする議員達は、必要ない」


 すう、と彼女が手を広げる。

 アルヴァの光魔法で払われた議場の闇魔法が、足元の無数の蛇と共に、ふたたび一気に立ち昇る。


 

「駄目だ! やめてくれ……!」

 リッド=ウインツ総議長の声が闇の中に消える。

 ――その言葉は議員達の為ではなく、魔女の為だ。

 折角、協会が魔女への見方を変えようとしているのに、ここで魔女が直接手を下してしまっては――


 あっというまに視界が暗くなり、足元の蛇が再び議員達に絡み付く。

「『光よ ……』っ!」

 アルヴァの足元にも蛇の感触が触れた。

 急いで斬り落とすも、小さな魔物の気配は次々と発生してくる。

 

「早く、皆を外へ!」「魔物が多過ぎる……!」

 呻き声の中、総議長と警護官の切迫した声が錯綜する。

 

 光魔法で一瞬明るくしても、圧倒的な魔力差に、すぐに視界が閉ざされてしまう。


 ――これでは、議員達は全滅する……!




『――――みんな、おかえりなさい』


 突然、ぱあっと眩しいまでの白い輝きが炸裂した。

 足下を埋め尽くしていた赤黒い蛇が一瞬で消え去り、清らかな白い光が、きらきらと議場に満ちていく。


 

「なっ……何だ……!?」


 ふわりと白い光を纏って議長席の壇上に現れたのは、聖衣の女性だ。

 

「……『光明の聖女』様……!」

 

 ワッと警護官達の歓声があがる。

 総議長も、突然出現した聖女ミラノ=アートに、驚きと安心の色を浮かべた。


 

「――ふふ、『おかえりなさい』か。素敵な言葉ね……ミラノ」

 宙に浮いている魔女は驚くこともなく、壇上の聖女を見下ろした。

 

「……あなたに、追い付いてきました。お願い、もう、やめてくださいっ! こんな事しなくても――」

 

「世界を支配しているのは、私。……私を倒すのなら、メルド湖沼地帯で、待ってるわ」

 

 魔女はそう言って、スウ、と闇魔法を纏うように姿を消した。

 


 

 一瞬の静寂のあと、わっと警護官達の歓声があがる。

「光明の聖女様!」「聖女様が魔女を追い払った……!」


「……はっ……えっ? な、ここどこですか?? 総議長様?!」

 我に返ってひとりで驚いているミラノを、総議長とユリウスが丁重に壇上から降ろした。

 

 ――光明の聖女が行方不明になっていたことは、公表されていないことだ。


 

 喧騒のなか、一瞬、冷たい空気が傍をすりぬけた。


 

 パッと手を伸ばすと、サラッとした風に触れた。

 

「……!」

 

 風が抜けていった議場の出口へ駆け出し、気配を消した気配をさがす。

 

 

 ――いつも一緒にいたリースは、人間としての気配が希薄だった。

 彼を探す事に慣れていたことが、こんなことに役立つとは――。

 気配を完璧に消すことは出来ても、存在するということを消すことは出来ない。

 

 風は廊下をぬけて階段を駆け上がり、屋上の扉を薄く開いて、外に出ていく。

 

 ――ただの風が、閉ざされた扉を開く訳がない。

 

「待ってください! 俺です、アルヴァ=シルセックです……!」

 おもわず声をあげて、扉の外へ飛び出した。



 


 

 よく晴れた寒空。

 冷たい風に、長い茶髪がさらりと揺れる。



 

「アルヴァ。……大きくなったね」

 カチャッと外した仮面の下から、深い緑色の瞳があらわれた。


「……っ!」

 胸が、苦しい。

 

 やっと会えた、大切な存在。

 ――だけど、声が、出ない。

 

 

「――泣かないで。折角の男前な顔が、台無しだよ」


 少し困ったふうに笑って見せる、魔女。


 

 俺は、この人を引き留めるようなものは、何も持っていない。

 ここで何を願っても、何も叶うとは思えない。

 でも、せめて何か言わないと。

 くしゃりと目を擦って、軋むような胸元を抑える。


「……ずっと、会いたかったんです……」

 


「――完璧に姿を消してたのに、ここまで追いかけてきた。10年前もリースを振り切って、戦場に駆け付けてきた。……いつも私を驚かせてくれるね。アルヴァ」


 穏やかな、優しい声が名前を呼ぶ。

 ただそれだけの事に、胸の奥が、熱い。


 

「では、あなたを驚かせた俺の願いを、ひとつだけ聞いて頂けますか?」

「いいよ。どんなお願い?」

 

「……あなたの、本当の名前を、教えてください」

 

 

 まっすぐ、魔女を見つめる。

 深い緑色の瞳に、何気ないふわっとした表情と、サラリと風に流れる茶色の髪。


「私の名は、イオエル=リンクス。……ふふ、だれかに名前を教えるなんて、魔女になってから初めてね」

 

 足元から出てきた紫色の羽根蛇に乗り、彼女は再び闇魔法を纏うように姿を消してしまった。

 さあ、と風が吹き抜けていく。

 ――――空を飛んでしまっては、追いかけられない。

 


 

「イオエル…………」


 世界を支配する魔女の、仮面を外した名前。

 やっと会えた、どうしてか、切実に、大切だと思う人。

 

 胸の奥に暖かく響くその名前を――――自分は遥か昔から、知っていた気がする。



 

 ……静かに目を閉じると、どこかの風景が浮かんでくる。

 緑の森。焼け焦げた野原。

 黒く燃えひろがる炎と、兵士の死体の山。

 

『イオエル……大丈夫。まだ、頑張れる……』




 トンと肩を叩かれて、ビクッと我に返った。

 

「?!」

 

「あ、悪い。そんなにびっくりすると思わなくてな……」

 振り返ると、教会で会った緑の護衛官が、苦笑いを浮かべていた。


「あ……すみません。勝手に屋上に出てしまって」

「それはいいさ。さっきの騒動で光魔法連発してくれたそうじゃないか。総議長様達が呼んでるから、一緒に来てくれ」

「……わかりました」

 

 総議長の護衛がこちらの位置をすぐ把握できたということは、ユリウスの小鳥の目が、この屋上に届いているということだ。


 魔女と話をしていたのも、見られただろうか?

 ……いや、あの騒動の直後、こちらを探すことに長時間意識を向ける暇はなかった筈だ。

 

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