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【完全版】世界を支配する悪い魔女は こっそり気紛れの人生を過ごすことにした ~可愛い勇者に倒して貰うまで~   作者: 白山 いづみ
幾億の星を見上げて 流れ星を待つ

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アーペの飛行技術開発


 森の中からアーペの街に戻ると、昨日とは違い、どこか緊張した空気が流れていた。

 長年街の防衛になっている守護の聖者の柵が、一部とはいえ破られたのだ。

 住人の不安は当然のことだろう。


 丘陵につくられた街並の坂を、ソーマに支えられながら歩く。

 最初は過保護なまでに世話をやいてくるソーマの背中に揺られていたが、人目のあるところで降ろして貰った。

 正直、恥ずかしい。

 そしてアクアの視線が優しげなのが、何故か、怖い。


 しかしゆっくり歩いてみて気付いたが、この技巧の街の技術は、生活に溶け込んでいるようだ。

 石造りの道の中央は馬車用に舗装され、両端は歩行者用になだらかな階段になっている。

 一定間隔で休憩用の椅子が設置されている事に、街の運営者の配慮が感じられる。

 それが貧血で重い身体には、有難い。

 ――貧血がこんなに辛いものだとは、知らなかった。



 やっと教会に辿り着くと、かなり日が昇っていた。

 年季の入った立派な木造の教会を見上げて大きく溜息をつく。


 死者の弔いの鐘が、何度も鳴り響いている。

 あれだけの混戦だ。

 死者が出ていて当然だが、やはりその数の鐘をきくと、取り返しのつかない現実を突き付けられる。



 聖堂は厳粛な空気に満ちていたが、魔女探しの姿はない。

 多くの棺の前に、聖使達が花を添えていた。


「生き残りは診療所よ。命に別状が無くても錯乱状態で、とてもここには連れて来れないの」

 アクアは聖堂をざっと見回して、聖使に声を掛けて聖者の所在をたずねる。


 無駄の無いアクアの行動に、アルヴァは、少し驚かされていた。

 いつも効率的なリースの後についてまわっていただけのことはある――とみて、いいのだろうか?

 なにか、違和感がある。

 自分の調子が悪くてそう感じるだけだろうか?



 聖者は執務室にいた。

 流石に昨日の作業着姿ではなく、きちんと聖者とわかる丈の長い聖衣を着ている。

 黙っていれば、年相応の風格をもった聖者なのだが――。


「おお、無事だったな。ソーマに助けられたのか。一晩一緒にいて、食われなかったかね?」

「やだなぁ聖者様。俺は手負いの人間をつまみ食いなんてズルい真似はしませんよ」


 ――この二人は、何を言っているのだろうか。

「……協会の人間を助けて頂き、ありがとうございました。街の退魔師の方は大丈夫でしたか?」

 話を本題に逸らす。

 軽口に長々と付き合うような気力はない。

 

「ああ。街の奴らは多少の怪我はしたが、死んじゃいねぇ。アルヴァといったか。お前さんの騎馬戦には驚かされたぜ。それで大分助かった。ありがとな」


 騎馬戦――。

 言われてみれば、そういうことになるのか。

 馬に乗ったまま戦ったのは初めてだったが。

 口は軽いが温かい言葉に、死者の数で冷えきっていた胸が少し温む。


「それにしても今回の飛行技術開発は、この技巧の街としても相当な技術成果だ。空を飛べる付加価値をみても、かなりやばい。街の奴らも職人魂に火が着いてどんどん改良を進めてる。問題は費用だ。いい取引先を探してるんだが、何処か心当たりとかあるか?」


 いきなり昨夜の話から、機工の話になった。

 この街全体の技術者の熱意はかなりのものだろう。

 そして多分、魔女探し達がこうして満身創痍で戻ってくるのは、想定済だったということか。


「……それは、各地を巡っている商人にお声がけしたほが良いと思いますが……」

「商人にはうまい商売になるだろうな。だが、でかすぎる利権は、争いの種だ。何かいい案ねぇかなと考えてんだよなー」

「教会で扱うのはダメなんですか? 天使を奉戴してる教会に、空を飛べる機工ってピッタリじゃねぇですか?」

 ソーマが首を傾ける。

「あー確かに、似合う話なんだが、教会の経済の大半は国とか地域の予算から出てる。アーペでだけ事業展開するとなると、別の教会からの反感を買ったりするだろ。面倒事にはしたくねぇんだよ」


 商人に依存せず、金銭的なしがらみが無い取引先――。

 アルヴァは、少し慎重に口をひらいた。


「――魔女探しの協会、はどうでしょう。今資金源のようなものはありませんが、各地の教会に広まり始めていますし、国の管轄下には無い組織です。各地を旅している魔女探し達であれば需要がありますし、売買の基盤を協会にすれば、地域間での利権問題にもならないのでは」


 情報共有を主軸にしている協会に金銭的な話を持ち込んで良いのかは、わからない。

 だが、協会の中心人物であるクレイ=ファーガスに話が通れば、難しい事ではないだろう。



「お、それ良いな! じゃあその方向でやっていくか!」

 慎重に話をしたつもりが、あっさり軽く重要な話が進んでしまった。


「ちょっ……これは俺の意見で、協会の代表者の承諾を頂く必要が……」

「ああ、クレイだな。あいつは面白い話には乗ってくる奴だし大丈夫だろう。俺からの手紙書いとくから、技術資料を領主のアンゼリカから貰ってきてくれんか」

 


 机上に散乱していた紙切れに、簡単な紹介を一筆したためて、渡される。

 流石に死傷者が多く出ている時に、聖者がここを留守にする訳にはいかないだろう。


「診療所で退魔師達の取り纏めをしてる筈だ。ソーマも知ってるよな」

「勿論。案内しますよ」


 教会をあとにして、ソーマの案内で隣接する診療所に向かうことになった。

 眠そうなアクアも、欠伸を噛み殺しながら黙ってついてくる。




 死者の弔いに厳粛な空気だった教会とは違い、こちらは、まだ戦場のような雰囲気に満ちている。

 簡易台の上で呻くようにうなされている魔女探し達は、話し掛けられるような状態ではない。


 診療所の外では天幕を張り、地元の退魔師達の炊き出しをしていた。

 そこだけ、少し温かい空気がながれている。


「ノーリがここを手伝ってたから、昨夜は私もここにいたの。ぐっすり寝るどころじゃなかったわ」

「そういえば、ノーリは……?」

 ざっと診療所の中を見て回ったが、それらしい姿はない。

「いないわね……一晩中働いてたみたいだから、どこかで休んでるのかもね」


 炊き出しを囲む集団に近付くと、こちらに気付いた退魔師の一人が立ち上がった。

「おぉ、あんた生きてたのか! まぁこっちに来いよ。凄い戦い方だったよな!」

 一斉に振り返った好奇の視線に晒されて、おもわず一歩引きたくなる。


「ん? 誰か来たのか? ああ、ソーマか。まぁ折角来たなら食っていけ」

 巨大な鍋を抱えた作業着の女性が、炊事場から平然と歩いてきて、ドスンと鍋を地面に置く。


「お、丁度良かった、アンゼリカさん。今日も美人ですね!」

「その顔に言われると腹が立つが、まぁいい。昨夜の騒ぎは知ってるだろうが、森に異常はなかったか? そっちの魔女探しっぽいのは無傷のようだが――」


 ちら、とこちらを見る彼女は、皮肉ではなく本当に美人の域に入る。

 短い焦げ茶色の髪に、塗料でまだらになった作業着姿。

 遠目で見るとただの技工士だが、間近に立つと、年齢不詳で、不思議な品がある。



「領主様、彼ですよ。彼が馬で戦ってくれて、俺達も大分助かったんですよ」

 退魔師が食べながら集まってくる。

 アンゼリカ――領主とは、この女性か。

 見た目と役職が合わないのは聖者と同類なのだろうか。


「私は今朝ここに来たから、その話は聞いていなかったが……活躍してくれた訳だな?」

 何故かまわりの退魔師達が、無傷でいるアルヴァを弁護するような格好になっていた。


「吸血鬼に襲われてたのを、俺が拾ったんですよ。それはそうと、飛行技術の資料を聖者様から貰ってくるように言われてます。このアルヴァが、いい取引先を思い付いたんでね」

 ソーマが、聖者から預かった一筆の紙切れを自分の手からスルリと取って、アンゼリカに渡す。


「そうか。では少し場所を変えよう。診察室が空いてた筈だ」

 サッと建物に足を向けた彼女のあとに続く。

 退魔師達の好奇の視線から逃れられるのは有難い。





 診察室の白い仕切りを端に寄せて、小さな部屋の中を出来るだけ広くする。

 雑多に散乱した机上の器具を端に寄せ、アンゼリカはそこに紙をひろげた。

「改めて、私はアンゼリカ=ケルン。この東地区アーペの領主だ」


 彼女の視線をうけて、アルヴァは背筋を伸ばして手を胸に添える。

「リュディア王国中央教会所属、アルヴァ=シルセックです。こちらは同僚のアクア=エルタス。今回は魔女探し協会の一員として行動しています」


「リュディアか。クレイもリュディア王国の出身だったな。あの前衛が、よく協会なんて始めたものだ。奴も年齢には勝てなかったという事かな」

 口調はどこまでも淡々としているが、そういう領主の表情が、どこか、あたたかいものになる。


 協会の代表者であるクレイ=ファーガス。

 彼の人脈は、一体どこまで広いのだろう。


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