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【完全版】世界を支配する悪い魔女は こっそり気紛れの人生を過ごすことにした ~可愛い勇者に倒して貰うまで~   作者: 白山 いづみ
気まぐれの人生

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取扱い会議

 

 ジノヴィは教会と魔女探し達の会議中、待機を指示された講堂の外で直立していた。


 この大商業都市サルディスに集ってくる魔女探し達は多い。

 魔女を連れてリーオレイス帝国に行くと主張するジノヴィの意向と、そもそも魔女を倒して世の中の仕組みを変えたいという一般的な魔女探し達の主張がかみ合う方が難しい。

 魔女を捕まえてきたという情報は、勿論彼らの間で大きな話題になった。

 けれど今まで散々偽の情報に振り回されてきた魔女探し達には、無自覚の魔女を本物だとは思えなかった。

 そんなに簡単に捕まる人間が本物である訳がないというのも彼らの見解だ。


 結局、偽者の取り扱いは好きにすればいいのではという雰囲気が最初からあった会議だが、問題は捕まえてきたのがリーオレイス帝国人で、帝国に連れていくと言っている部分だった。

 今でこそ戦争状態ではないが、このリュディア王国とリーオレイス帝国は、昔から事あるたびにぶつかってきた。国民感情としても、決して仲が良いとはいえない。

 万が一にでも本物だった場合、リュディア王国はリーオレイス帝国に、折角見つけた魔女をみすみす渡した事になる。それが問題だった。

 ――だが、平行線を辿りそうになった議題は、権力者の一声で決着がついた。


 

 ジノヴィは困惑気味にぞろぞろと解散していく魔女探し達をじっと見送った。

 最後にスティアが、厳しい顔をさらに険しくしながら出てきた。

「待たせたわね。リーオレイス帝国にあの人間を連れていくのは許可されたわ。ただ、このリュディア王国の教会に所属する人間が連行先まで同行して、事の顛末を見届けて帰るのが条件よ」

「なるほど。しかし何か問題が?」

「教会の人間となると、魔女探しは対象外でしょ。ここの聖使、退魔士は誰も行きたくないと言っていて。そうしたら……」


 言い淀んだスティアの隣に、アルヴァが笑顔で駆け付けた。

「俺が行きます。俺だって、退魔士です」

「……こんなので、決定しちゃったのよ」

 スティアが大きく息を吐いた。


 実は、教会の聖使と退魔士達が嫌がるのには、その旅にジノヴィがいるからという理由がある。

 ジノヴィは魔女探しの一人として教会を拠点に各地を旅しており、腕も立つ名の知れた有名人だが、旅の仲間を全て喪うという、危険な噂話を持つ事でも有名なのだ。

 実際に前回まで一緒に行動していた相棒の姿が今回は無いとなると、この教会の人間も、その噂話の真実味を感じざるを得ない。


「私が手を挙げたんだけど、たまたま同席されていたあのお方にすぐ却下されてしまって。それでアルヴァが手を挙げたら、子どもならばリーオレイス帝国も特別な警戒はしないだろうということで、許可されたのよ」

「あのお方……?」

 

 現在、この教会には代表者である聖者がいない。

 数ヶ月前に先代の聖者が亡くなってから、その席を誰も埋める事が出来ずにおり、迷走しがちな自由な気質の聖使達を、このサルディス教会で最強の腕を誇るスティアが纏めている状況になっていた筈だ。

 

「新しい聖者様を決定して貰うために王都へ問い合わせをしていたでしょう。先日から選定のために直接殿下がいらしているのよ」


 アルヴァは二人の立ち話を見上げてニッコリ笑った。

「聖女に姉さんを推してくれたんだから、見る目がありますよね!」


 ジノヴィは、スティアの険しい顔の意味を理解した。

 それは、大変だろう。







 開いた窓の外からそよぐ風が、頬を撫でる。


「……そういえば、リュディア王国には金髪が多いんですね」

 セトは何故か窓から現れた高貴な身なりの青年に、いつもの笑顔で切り出した。


「ああ、昔からこの地域に住んでいたディヘル族の名残だな。生粋の血族は残っていないと思うが、成長後に自分の意志で性別が分化する面白い一族だった。しかし、私にはお前の方がディヘル族のような中性さを持っているように見える」

 ジノヴィが部屋を出掛けた隙に、彼は3階の窓の外から当たり前のように入ってきた。

 スティアのような風魔法が使えれば可能なのだろうが、どうしてわざわざ窓から入ってくるのだろう。

「そうですね、多分占い師だからですよ。絵札を失くしてしまったので、どこかで仕入れないと占えませんが」

「ああ、聞いている」

 

 彼はあっさり頷いてから、高貴な外套の内側を広げてみせた。

 黒・赤・黄の縦模様の中央に、白い針状の曲線が拡散する図柄。――リュディア王国の王章だ。

「教会の聖者聖女を選びに王都から参じていて正解だった。私は、シルヴィス=シャルフィット=リュディア。この国の第2王子というとわかりやすいか」


 意外な自己紹介に少し驚いたが、セトはそっと両手を挙げる。

「――それで、貴方には僕が魔女に見えますか? 王子様」

「……そうだな」

 シルヴィスは少し考えるふうにして、すっと接近してきた。


「お前は、面白いな。占い師として傍に置いてみても面白そうだ。まぁいい。簡潔に言おう。仮に、お前が魔女なら、私はその存在を保護したい。リーオレイス帝国に行ってみて不遇であったり殺されそうであれば、私のもとに逃げてくると良い。リュディア王国は魔女の支配原則によってリーオレイスの侵攻を心配する必要もなく、潤っている。自らの不幸を全て魔女のせいにしてうろつく魔女探しは頭が悪い。が、その結束力と実力は馬鹿に出来ない。……これを持っていけ」


 手の中に押しつけられたのは、三角形の石。

 濃い青色が美しい首飾りだ。


「護身の魔法を増幅する聖別を施してある。魔女なら不要かもしれないが、私からの気持ちだ」


 第2王子は一方的に喋って、また窓から去ろうと踵を返した。自由な国民性は王子も同じか。

 セトは咄嗟に腕を掴んで引き止めた。

 優男に見えて、掴んだ腕は整った筋肉で相当に硬い。剣を持たせれば結構な腕前だろう。

 振り返った王子と目が合った。

 

「……シルヴィス=シャルフィット=リュディア第2王子。貴方は、王位に就きたいですか」


 石の礼を言おうとした口から別の言葉が出てきた。訊いてどうする、とセト自身が思う。

 今の状況には全く関係ない話だ。


「――王位より、何を為すかだ。必要がある地位に就く。……あらゆる可能性を踏まえて」


 彼の目が笑う。

 そう言い切れる自信と、実力があるのだろう。

「王都で待っている。気が向いたら、来るがいい」

 あっさりとそんな言葉を残して、風魔法と共に階上に消え去った。


 

 その魔法詠唱を口の中で擬えてみる。

 今現在セトに使える魔法は、ごく簡単に風を動かす程度のものでしかない。


 シルヴィス王子から貰った石を活用するには、改めて魔法をまともに使えるようにする必要がありそうだ。


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