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【完全版】世界を支配する悪い魔女は こっそり気紛れの人生を過ごすことにした ~可愛い勇者に倒して貰うまで~   作者: 白山 いづみ
気まぐれの人生

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情報の溜まり場

 いつもは閑散とした酒場を賑わせているのは、ほとんど剣を帯びた魔女探しの男達だ。


 どんな大所帯でも、飲食に集まればある程度の少人数での会話になる。

 全体的な様子からみると、集結はしているが、盗賊のように陰険な気配はなくて話題にもばらつきがあり、来ている旅装も統一感がない。

 もしかしたら本当に指揮系統がなくて、街に着くやバラバラに散ったのかも知れない。

 さりげなく一人一人の様子を観たが、縦の繋がりを感じ取る事はなかった。


 シェナは少しほっとして回収した食器を抱えてカウンターに戻る。途中で声をかけられた。

 手の中に積み上げた食器をぐらつかせながら、声の主に目をむける。


「ボクは注文取りじゃないんで。あの子に言ってくれます?」

「水が欲しいだけなんだが」


 細身の青年と目が合って、一瞬、背筋が寒くなった。

 全身黒色の旅装で。人数の少ない集団の端にいたので気付かなかったが、切れのある片目の視線は、まるで、シェナの行動目的を看破しているようだ。


「水だけ? お客さん、あんま飲んでなくないですかぁ?」

 わざとふざけた声をあげる。彼の手元には大して食べる気の無さそうなスープがひとつ殆ど残した状態であるだけだ。


「なら、君に一杯。皿を置いて来るといい」

「マジッすか! いただきます! 店長! ちょっと売り上げに貢献してくるよ!」


 タダ酒に迷わず乗って、山と積まれた食器をカウンターの中に放置する。

 店主のゆるやかな笑顔を尻目に、自分でワインの瓶とグラスを掴んで客席にすとんと座った。

 誘った彼の周囲の驚きを無視して、グラスになみなみと2人分のワインを注いで黒い青年に片方を持たせる。自分も片方を持ち強引に乾杯させた。


「旨い一杯、ありがたくいただきま~す!」


 一口飲むと、仕方無さそうに小さく笑った彼より周囲の人間のほうが、わっと笑う。


「リース、お前こういう子が好みだったのか?!」

「道理で浮いた話題のひとつもしない奴だと思った。まぁ、アリだよな。可愛いじゃん!」

「ちがう。頼むから静かにしてろ」


 物静かそうな青年が周囲を睨みつける。

 周囲もはいはいと冷やかしつつ話題の中心から外してくれた。最初から端にいたから、うまくふたりだけになる。


「ふーん、皆アンタの言う事素直に聞くんだね。てか剣持って無くない? 強いの?」

「お前もだ。仕込み武器を装備したまま客席をうろつく店員があるか。何が狙いだ」


 まわりの魔女探しと違う、熱っぽさを感じさせない静かな問いは、逆に、凄みがある。


「そりゃ遺跡発掘家だからね。馴染みの店だから手伝ってんのさ。それより、これ皆魔女探しの連中だよね。ここ田舎町だからさ、いきなり町に押し寄せてきたみたいだけど、なんなの? どうやって纏まってるわけ?」


 喋りつつ相手をじっと見る。

 長く伸ばした前髪で右目を隠しているのは戦闘にも何をするにしても邪魔じゃないだろうかと思う。

 そのかわり左目の鋭利な輝きは、油断できない。


「見ての通り纏まりの無い集団だ。子供が一番を狙って宝探しをしているようなものだな。互いが得た情報共有すら、駆け引き状態だ。あきれたものだろう」

「でも皆、アンタには少し遠慮してるよね。普通、リュディア人なら、さっきみたいに大人しく引き下がらないよ。リースっていったっけ。アンタが何となく纏めてんじゃない?」

「買いかぶりだな。さっき偶然でかい蛇の魔物を倒した所を見られたから、多少持ち上げられてるだけだ。こんな奴ら、纏めようったって纏まるか」


 小さく息をついて渡したグラスを口に運ぶ彼は、どこかジノヴィと似た真面目さをにおわせる。

 彼の黒い髪と瞳は南の国に多い色だが、育ちはもしかするとリーオレイス帝国なのかもしれないなと思った。


 それにしても、指揮系統の整った集団ではなくてよかった。

 そう思って改めてグラスを空ける。新しく机に積み上がった空き皿を持って席を立った。


「ごちそーさま。店長が死んじゃうから手伝いに戻るよっ」


 背を向けた途端、上着の端を捕まえたリースの言葉に、ひやりとした。


「情報は、交換するものだぞ。何を隠している? ……酒一杯では足りないか」


 ……皆が必死で探している人間を隠しているなんて言える訳が無い。大金を貰っても自分の拠点においてきたセトを売り渡す気にはなれなかった。

 拠点が荒らされるのも嫌だし、あの無害の塊みたいなヤツが殺されるのも、見たくない。

 しかし、一瞬思考を巡らせたのを、リースは見逃してはいない。情報屋業も見抜かれているところをみると、下手な嘘は命取りだ。


「ボク、耳が良いからさ。君達が村ひとつ焼いたって聞いてたから心配で様子を見に来たんだ。拠点がちゃんと無いと、発掘って結構大変なんだよね。荷物が沢山出るから。ボクにとっては君達が町を壊さなけりゃ良いさ」


 さっとリースの手をすり抜けて、調理場の中へ退避する。背に冷や汗を感じたのは、ちょっと久しぶりだ。


「何だい、もう飲まなくていいのかい」

「うん。このゴミまとめて外に出しとくよ」


 大袋にあふれた生ゴミを足で押し潰して袋の口を閉じて裏口から持ち出す。

 シェナはそのまま店の活気と扉一枚でお別れし、ゴミを放置して、暗闇となった路地を静かに走り出した。

 街に溢れていた魔女探し達も、どこか宿をみつけるか教会に身を寄せるかしたのだろう、外は夜の冷たい空気に包まれ、想定していたよりは静かだ。

 ふと教会にも様子を探りに行こうかと思ったが、リースに目を付けられた以上、あちこち下手に顔を出すのは危険だ。


 特に誰かが後をつけてくる様子がないのを何度も確認して、やっと帰路についた。


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