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回る口を一刀両断する日まで

作者: 一色 良薬

 母は愛に飢えた人間でしたよ。えぇそれは我が子へ宿す無性の愛より、不確定で嘘ばかり纏わす愛を求めた人でした。

 私の父はどうしようもない屑でね。ありもしない金をどこからか工面してきて、ありもしない運の賽の目を振って。あったはずの私たちの家族というものを壊した男でした。

 最初こそは母は泣いて喚いてどうにか父が心を入れ替えて、真っ当な人間に生まれ変わる事を祈っておりました。

 働き方など知らない温室育ちの人でしたから。あぁそうそう駆け落ちです。母と父は許されない恋の末に結ばれた仲でした。それがこの無様な末路というわけですから。

 ふふ。人生に浪漫なんか求めるから碌でもない人生を歩む羽目になるのですよ。

 本当に愉快。


「言い残した事はそれだけか」

「おやおや。まだまだ語りたりませんので喋らせていただけるのならいくらでも。涙必須の家族の物語を聞いていただけるのは光栄ですから」

「貴様の戯言を誰が信じるとでも。そのほら吹きの口に乗せて何人の命を奪ってきたんだ」

「なんて惨たらしいことを。私にはとてもとても」

「今すぐここで貴様の首を切り落としてもいいが?」

「ふふ、許されるんですか。そんな無断行為が」

「死刑囚の命など尊ばれるとでも?」

 不敵な笑みを浮かべた殺人鬼の女を冷ややかに睨む。腰に携えた刀の柄を浮かせれば「怖い怖い」と大袈裟に肩を上下させた。

「貴方も大概殺したがりなのでは?」

「同じにするな。俺は罪を裁くために貴様らの首を跳ね落とすだけだ」

「大儀が違うだけで同じですよ。私は快楽のため。貴方は正義のために。人を殺したいだけですよ」

 揺らめく赤い瞳が誘うように俺を見つめる。くだらない魂胆を踏みつぶすように背を向ければ「残念」と退屈そうな声が投げられた。

「殺された人間と同じと思うなよ」

「いつでも私の戯言に耳を傾けて下さっていいのですよ」

「貴様の首が宙に飛ばすのが楽しみだな」

 ではまた明日。女の声が嫌に鼓膜にこびりついた。

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