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第53話

「その本は、【スターキャッスル】について特集が組まれててよ。結構詳しく書かれてるし分かりやすいぜ」


 渡された本を開いて読んでみると、確かに【スターキャッスル】一色と言わんばかりの情報がてんこもりだった。

 読み進めていると同時に、卍原の語りが入ってくる。


「その本によるとだ。【スターキャッスル】の前身は、劇団だったみてえだな」


 卍原の言う通り、【スターキャッスル】のプロフィールにも、そう書かれていた。

 元々は小さな劇団で、所属している俳優も無名の者たちばかり。現在も活躍している俳優だって一人もいないらしい。


「人気がなかったからか、今の社長が劇団を解散して、アイドル事務所に転換した。まあでも、最初は日の目を見ることはなかったみてえだけどな」


 だが社長――大城星一郎の辣腕がメキメキ発揮されていき、徐々にだが成果を出し始めてきた。


「そんで、今では三大アイドル事務所の一つを名乗ってんだからすげえもんだよなぁ」


 まさに逆境からの這い上がり。しかもトップクラスに至るのだから大したものだ。


「社長本人に、俳優としての才はなかったけど、アイドル育成の才はあったってことなんだろうな」

「俳優を育てるのもアイドルを育てるのも、同じ育成だろ? それで前者は失敗して、後者は成功したっていうのか?」


 同じ育成なのだから、そうやり方が極端に変わるわけがないと思うが……。


「まあ、育成はともかく、劇団運営が難しかったんじゃね? それにちょうど大城社長がアイドル事務所を立ち上げた頃からアイドルブームが来たしな」


 なるほど。つまり追い風に乗ることができたからこその成功だったのか。ただそれでも大成功を収めることができたのは、やはり星一郎の手腕が備わっていたからだろう。


「知ってっか? その頃はアイドルの第一ブーム。そんで、今は第三ブームって言われてる」


 確か前に購入した雑誌にもそう書かれていた気がする。

 テレビでも各事務所がこぞってアイドルを輩出し、まさにアイドル戦国時代と言われている大規模ブームが来ているとのこと。


 ただやはり、その中で大手よりも活躍できる事務所は少なく、日の目を見られないアイドルや、テレビに出ても一発屋になるなど、残酷な結末に苦しむアイドルも多い。


「その中で、【スターキャッスル】ってのは、次々と新しいアイドルユニットをデビューさせてる事務所でな。まあ……俺的にはあんま好きじゃねえ事務所なんだけどよぉ」


 難しそうな表情を浮かべる卍原に、「何でだ?」と問う。


「大手の事務所にありがちなんだけどな。なんつーか……数打ちゃ当たるみたいな感じっていうのかよぉ」


 彼が言うには、【スターキャッスル】は、所属アイドルたちを次々とデビューさせているらしい。ただし、出せば出すだけ全員が売れているわけではない。

 一定数のファンを獲得できなかったアイドルは、そのまますぐにメディアから姿を消しているようだ。


「つまり、売れる人材が出るまで、次々とアイドルをデビューさせてるってわけか」

「そうそう。中には絶対まだレッスン足りねえだろっていう子もいたりな」


 それは無茶だろう。レッスンも中途半端なアイドルなんて、歌も踊りも素人に近いということだ。それで満足できるファンはいないはず。


「けど、歌とか踊りとかできなくても、見た目が良ければ売れることもあるのが芸能界なんだよなぁ」


 近頃は、昔と違ってアイドルもバラエティ番組に出る機会も多い。そこで求められるのは、トーク力やリアクションなどのタレント力であり、そこで力を発揮し人気を獲得する者もいる。


 だから星一郎は、とりあえずメディアにアイドルを出し、それぞれの個性に任せて、半ばギャンブルのような形で送り出しているとのこと。


「まあさ……そういうのも戦略の一つっていやそうなんだろうけどよぉ。俺はやっぱり、アイドルはステージに立ってなんぼだって思ってんだよ。歌って踊って輝いて。それがアイドルなんだって」


 遠い目をする卍原。

 俺は芸能界に詳しくないし、彼のように星一郎の売り方が百パーセント間違っているとは言えない。


 ただ卍原の気持ちも分かる。昔のアイドルはもっと神聖というか、尊いものだったらしく、バラエティに出ることなんてそうそうなかったと聞く。

 歌と踊りでファンを魅了する、幻想的な存在。それが偶像アイドルだと。


「今のアイドルの在り方が悪いってわけじゃねえよ。より親しみやすくなってるから、ファンの中には喜ぶ連中だって多いしな。けど、大城社長のアイドルの扱いがなんつーか、雑な感じがしてよぉ。この子、もっと磨けば光るって思っても、失敗していつの間にか消えてくし……」


 だからもっとちゃんと育ててやれよと彼は言いたいのだろう。そうすれば、その娘の持つポテンシャルが開花されて、もっと光り輝いたかもしれない。


「それじゃ、この【ブルーアステル】って子らも、数打てばの部類なのか?」


 雑誌に掲載されている三人の少女たちの写真を卍原に見せつける。すると、彼は「いーや」と頭を左右に大きく振った。


「この子らは最近デビューしたアイドルの中でも期待の新人って言われてる子らで、【スターキャッスル】も全面的に推してるみてえだな」


 卍原が雑誌やネット記事などを見せてくれたが、なるほど、確かに露出がかなり多い。

 それに卍原曰く、パフォーマンス力にも力を入れているアイドルらしく、特にダンスにおいて他の新人アイドルたちよりもキレがあるとのこと。


 公式【ジョブチューバー】にも動画配信しているらしく、それを見せてもらったが、思わず息を呑んだ。

 三人がまるでシンクロしているかのような動き。一つ一つの所作が美しく、頭から指先まで意識を集中していることが伝わってくる。


 それでいてここまで激しいダンスを繰り広げているにもかかわらず、その表情は笑みを崩さずにファンを魅了するクオリティ。

 これだけでも膨大な練習量を想像させるが、それ以上に心が惹かれたのは、彼女たちの歌声である。


 特にセンターで輝く一人の少女。


「この子が……銀堂雪華」




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