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第51話

「お前はまだ余裕があるみたいだな」


 俺がタオルを手渡しながら言った相手は、夕羽である。


「ありがとうございます。……要領がいいだけです。常に全力ではなく、大切なのは体力の使い方ですから」


 要は見せるべきところに全力を注ぎ、それ以外は温存するということだろう。


「確かにずっと全力全開じゃ、すぐバテるだろうしな。……あんなふうに」


 俺の視線の先にいるのは、ぐったりと死んだようにうつ伏せに倒れている月丘だ。

 ちなみに、リナに「寝るなー、月丘―!」と注意されている。

 どうも月丘に関しては、体力配分が苦手のようだ。


 空宮も夕羽に続き体力配分はしっかりしているようで、元々の体力が少ないのか、小稲も月丘のようにぐったりとしている。


 ただ意外だったのは、一番幼いしるしだ。自分よりも一回りも二回りも大きい娘たちと同じ動きをしているにもかかわらず、空宮に次ぐくらいの余裕を感じる。学校の成績も良いらしいし、クールだから要領も良いのかもしれない。


 そうこうしているうちに、またダンスレッスンが再開された。俺はこれ以上邪魔にならないようにその場を離れて事務所に戻る。

 とはいっても仕事はないので、せっかくだからと横森さんに何かやれることはないかと聞くと、また買い出しを頼まれたので、購入品が書かれたメモを受け取って外へ出た。


 土日や祝日は、昼に事務所にあるキッチンで食事を作って、アイドルたちに振る舞ったりすることもあるので、米とか麺などの主食が必要になるのだ。

 主食は重いので、俺という男手には本当に助かっていると横森さんは言ってくれている。


 そうして近くのスーパーで買ったものを『次界の瞳』の中へ収納してから、商店街の方をウロウロしていると、不意に壁に貼られているポスターが目に入った。


「これは……?」


 そこには煌びやかな白と青を基調とした衣装を着た三人の少女たちが映っている。


「アイドルユニット――『ブルーアステル』か」


 アイドルのポスターなど珍しくはないが、俺は「ん?」と気になったことがあった。それは彼女たちが所属する事務所の記載を目にしたからだ。

 そこには【スターキャッスル】と書かれている。


 そしてよく見れば、このポスターはイベント用に撮られたもので、まさしくもうすぐ【クオンモール】で行われるアイドルイベントの宣伝であった。


「なるほど、この子たちが……」


 あの原賀や星一郎が推すだけあって、確かにずば抜けたルックスを持っている子たちだ。特にセンターでポーズを取るストレートヘアーの女の子だが、うちの夕羽にも負けず劣らずの美麗さを備えている。


 歌やダンスの実力は分からないが、この容姿だけでも男心を寄せ付けるには十分だろう。


「……銀堂雪華ぎんどうせっか。ずいぶん変わった名前だなぁ」


 でも確かに、名前の通りどこか雪に咲く幻想的な華をイメージするような娘だ。


 そういや俺、【スターキャッスル】のアイドルについてほとんど知らないなぁ。


 一応雑誌などでは目にしたことはあるが、詳しくは読み込んでいないこともあり知らないのだ。テレビでもアイドル番組を観たりしないことも原因となっている。

 一応幅広くネットなどで情報を取り込んではいるが、しょせん雑誌やネットなどはアイドルたちの上辺だけを書いたものだと思って、あまり鵜呑みにしてはいない。


「こういう時、アイドルに詳しい奴に聞くのが一番なんだが…………あ」


 そこで一つ思い出したことがあった。脳裏に浮かんだ人物がいるであろう場所は、ちょうどこの商店街の中だったと、足を延ばすことにしてみた。

 やってきたのは商店街唯一の本屋である。中に入って、目的の人物がいないかキョロキョロしていると……。


「――あれ? もしかして同志じゃねえか!?」


 その声に振り向くと、そこには満面の笑みで出迎えてくれた青年――卍原竜二がいた。


「よぉ! ひっさしぶりじゃねえか! どうだ、最近のドル活、楽しんでっか?」

「ドル……かつ? トンカツの親戚か何かか?」

「そうそう、油でカリッと揚げて美味しく頂いてってちゃうわいっ!」


 おお、まさかノリツッコミが飛んでくるとは思わなかった。


「ドル活っつったらアイドル応援活動に決まってんだろうが!」

「決まってたのか?」

「もちろんだぜ! それで、どうだ?」

「どうって?」

「だーかーら、ドル活だよドル活! あれからドップリ浸かっただろう? もう推しとかできたんじゃねえかって思ってな!」


 どうやら卍原は、前にここに来た時に俺が雑誌を購入したことを覚えているようだ。まあ、彼からも複数のアイドル雑誌を譲り受けたので、あれから俺がアイドルにハマって、推しができたと思っているのだろう。


「推し……推しねぇ。まあ、いるっちゃいるが」

「おお! マジか! さっすが俺が見込んだ同志! それで、一体どこのアイドルだ!?」


 相変わらず別の意味で押しの強い奴である。


「……【マジカルアワー】の子たちだ」

「ん? マジカル……アワー? ちょっと待ってくれよ、そんな子たちいたっけ? ああいや、確か前に……」


 そう思案しながら棚に置かれたアイドル雑誌を手に取り、ページをパラパラと捲っていく。


「お、あったあった!」


 俺もチラリと覗き込むと、そこには確かに【マジカルアワー】所属のアイドルたちの記事が書かれていた。本当に僅かな情報でしかないが。


 ていうかよく、こんな小さい記事にしか載っていないのに覚えていたなと感心してしまう。アイドルたちの顔写真もないし、書かれているのは事務所と、所属アイドルの簡単なプロフィールだけ。


「おいおい、ここに所属してアイドルたちってまだデビューもしてねえだろ? 露出だって雑誌取材がせいぜいで、いわゆる地下アイドルみたいなもんで……いや、確か一人だけモデル業で光ってる子がいたなぁ。名前は…………何だったっけ?」


 さすがに覚えていないのか、必死に思い出そうと顔を歪めているので助け船を出すことにした。





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