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第4話

 翌日の十二時、俺は少し早いが、さっそく叔母さんが紹介してくれた面接場所へと向かっていた。


 目的地は都心に近く、俺の行き着けの定食屋がある場所の近くだったことで、迷わずに向かうこともできる。


 バスや電車を使った方が楽だが、節約する意味も込めて、移動は専ら徒歩にしている。時間に追われていなければ、たとえ十キロメートル離れていても歩く。別に疲れはしない。

 何せ、こちとら元勇者で、ユミリティアのプレゼントのお蔭で、身体能力も強化されたままなのだ。故に、やろうと思えば三日三晩走り続けることもできるし。


 それに全力で走れば新幹線よりも圧倒的に速いしな、俺。


「にしても、運送業かぁ。まあ免許はちゃんとあるからいいけど」


 仕事に関しては詳しい説明は書いてなかった。叔母さんに聞いてみたが、『行ってみてのお楽しみよ!』などと口にして煙に巻いた。


「あの人のことだから、まさか違法なもんじゃないとは思うけど……」


 麻薬とか密売品じゃない……よね?


 剛毅豪胆がモットーの叔母さんを知っているからか、ちょっとだけ不安になってくる。

 いやまあ、さすがに犯罪関係に甥っ子を放り込むことはしないと思うが。


「宅配業者ってことかな。まあ、運送業って絶対なくならないし、今のご時世で増えてもきてるから、マジで雇ってもらえると安泰だわ」


 激しい就職難から治安も少しずつ悪くなっていて、外出する人も減ってきた。俗にいうお家時間というのが増えて、宅配などを頼むケースが年々増加しているのである。

 だから宅配業界は結構忙しくて、人手を多く募集していたりするのだ。


「盲点だったわ。そうだよなぁ、宅配なら俺だって雇ってもらえたかも」


 実はこれまで、そちら関係の面接は受けてこなかったのである。完全に頭の中から抜けていた。


「よくよく考えりゃ、俺に合ってる仕事だしな」


 それに俺なら、たとえ車がなかったとしても、どんな荷物だろうと、日本国内なら同日に運送することだってできる。


 何せ、新幹線よりも速く走れることができるし。あれ、これ二回目だっけ?


 俺は、叔母さんから受け取った地図を、歩きながらニヤニヤして見ていると……。


「――ちょっと、アンタたちいい加減にしなさいよねっ!」


 ……はい?


 突然、どこかから甲高い女性の声が響いてきた。

 見ると、道路の脇で何やら揉めている人たちを発見する。

 黒いバンの傍には、二十代の男が三人ほどいて、二人の少女を囲っていた。


「お嬢ちゃん、高そうな腕時計なんかして。もしかしてお金持ちですかぁ?」


 典型的な悪っぽい風体の男が、気の強そうな亜麻色の髪を、ツインテールに結った少女に向かってにじり寄っていく。


「別に関係ないでしょ! それにこっちは忙しいって言ってるじゃない! さっさとどきなさいよねっ!」


 怯えずに、男の目を見返しながら啖呵を切る少女。その少女の後ろには、同じような年頃の黒髪ボブショートの少女がいるが、こちらは完全に怯え切っている様子だ。

 二人とも小学生くらい、だろうか。


「うんうん、分かってる分かってる。お兄さんたちもヒマじゃないんだよなぁ。だからちょこっとだけお小遣い頂けたりしたら嬉しいんだよねぇ」


 おいおい、大の大人が小学生の子供にカツアゲかよ……。


 どうも最近、本当にこういう事件が多い。金に困っている俺にも気持ちは分かるが、それでも子供を襲うってどうなのよ。プライドとかないの?


「ア、アンタたちに渡すもんなんて一ミクロンもないっての! いい加減にしないと警察呼ぶわよっ!」

「おお、おお、こわ~い! ……ま、じゃあ呼んでみろよ」


 柔らかい感じで喋っていた男が、急に敵意を剥き、低い声を出したことに、ツインテールの少女も「え?」と、表情を強張らせた。


「呼んでもいいけどよ、ここに来るまでにどんだけかかんだろうなぁ」

「……っ!?」

「俺らがその間、ちんたらお話でもしてると思うのか、ああ?」


 その通りだ。幾ら警察だからって、呼んで瞬時に駆けつけてくれるわけじゃない。数分はかかる。それだけあれば、少女たちから金目のものを奪って逃げることくらいできる。いや、最悪拉致だってできるのだ。


「いいか? こっちはまだ譲歩してんだぜ? 考えてみろ。このままてめえらを車に連れ込んだっていい。なあ、てめえら?」


 そう言いながら、男は他の二人の男たちに笑みを向けると、男たちがいやらしそうに口角を上げている。

 少女たちも、最悪自分たちがどんなことになるのか想像できたのか、真っ青になっていた。


「ほれ、さっさとそいつを寄こせ」


 男が、ツインテール少女の腕を掴んで捻り上げる。


「い、痛い! このっ!」 


 反射的だろう。少女が男の脛を蹴ったことで、男もまた苦痛に顔を歪めた。


「っ……いい度胸だ、てめえ! おい、こいつら引っ張んぞ!」


 少女の抵抗に激昂し、最悪のシナリオを実行することにしたようだ。男の一人が車のドアを開けると、二人の男が、それぞれ少女を拘束して、車内に連れ込もうとした。





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