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第20話

 説教後、さすがにレッスンが終わるまでには時間があるということで、俺は一時帰宅となった。

 このまま家でジッとしているのは暇なので、せっかくだからと本屋に寄ってアイドルに関する書物を買うことにした。


 曲がりなりにもアイドル業界に携わるなら、少しくらい知識があった方が良いと思ったからだ。


「うーん……結構アイドル雑誌って多いんだなぁ」


 今どきのアイドルがどういうものか知らない俺は、キラキラとした表紙で飾られた雑誌を見ながら首を傾げている。


 ファッション雑誌とかも勉強した方が良いのか? いや、別にマネージャーでもないし、そこまではやらなくてもいい……よな。


 ただ横森さんのアイドル話に、何一つついていけなかったのも事実であり、せめて今どきのアイドルに関するものくらいには目を通しておこうと思うが……。


「何を買えばいいのか分からんな……」


 というか、アイドル雑誌を手に取るには若干の抵抗がある。簡単に言えば少し気恥ずかしいのだ。

 別にオタクを批判するわけではないが、激し過ぎる異世界生活により精神的に大分熟している俺にとって、キラキラした女の子たちが載っている書物を買うのは、少しばかりの勇気がいる行為なのである。


 ……この雑誌、分厚いし情報量多そうだな。


 俺が何気なく置かれている雑誌を手に取ろうとすると――。


「――おっと、そいつは止めときな」


 いきなり声をかけられ、「は?」と顔を向けると、そこには一人の男性が立っていた。


 歳は二十代前半ほど、眩しいくらいの金髪で若干目が吊り上がっているが、見ようによってはイケメンに見えなくもない三枚目っぽい奴だ。

 見た目にそぐわない気軽に他人に話しかけてくる陽キャのようなので、どちらかというとあまり俺とは相性は良くないように思える。


「おせっかいながら忠告しておくぜ。アイドルのことを真に理解したきゃ、その雑誌は止めといた方が身のためだ」

「……理由を聞いても?」

「おうよ。そいつには確かにアイドルについて書かれてはいるが、内容は薄っぺらな上、そのほとんどはフェイクデータばかりで有名なんだよ」

「フェイク……嘘ってことか?」

「そのとーり! 出版社も過去に何度もトラブルを起こしてるし、アイドルに訴えられたそうになったことだってある」

「なのに、まだフェイクデータを流してるのか?」

「まあ前と違って大分マシにはなったが、それでもグレイゾーンばかり。そもそもその雑誌には、アイドルに対する〝愛〟がまったく感じられねえっ! 見たところアイドル初心者ってところだろう? だったら最初の入口はぜってーに間違っちゃいけねえ! アイドルのことを知りたきゃ、愛がある出版社を選ばねえとな!」


 どうでもいいが、大声で力説するのは止めてもらいたい。ほら、他の人が見てるし。警察呼ばれたらどうすんだよ。


 ただ、怪しいながらもアイドルに詳しそうなので、せっかくだからオススメを聞いてみた。


「オススメか? フッフッフ、そこまで言うのならば、この俺――卍原(まんじばら)竜二が手取り足取りアイドルについて事細かに教えてやろう! それこそ三日三晩をかけてな!」

「いや、買うべき雑誌を教えてくれりゃそれでいいんだけど……」

「皆まで言うな友よ!」


 誰が友だ。ていうかこんなに暑苦しい奴だとは……今すぐ逃げ出したい気分だ。


「いいか、アイドル初心者にオススメな情報雑誌は――コレだっ!」


 彼が手に取った一冊の本は、他のものより薄い本だ。


「コレこそ、長年アイドルを追い続けている出版社が、その粋を注ぎ込んで続けている最高峰書籍――『マイ・アイドル!』だっ!」


 天高く掲げた本を見上げながら、彼は恍惚とした表情で続ける。


「俺もまた、この本から俺のドルオタ道が始まった……。この雑誌の編集長こそ、かつて、伝説として名を馳せたアイドルのマネージャーをしていた方で、その豊富な知識と経験を活かして、これまで数多くのアイドルたちの輝かしい軌跡を刻んでいる! また、アイドルたちの中には、この本に自分の名が載ることを目標にしている人たちもいるんだ! 故に! アイドルのことを知りたければ、この本こそ最適だと俺は声高に叫ぶぞぉぉっ!」


 怪しい人物でも見るような目つきだった客や店員たちも、彼の熱意に胸を打たれたかのように感心した表情をしている。ちらほらと拍手までしている人もいた。


 へぇ、そんな高尚な本だとは。そこまで言うなら、一読の価値はあるかもしれない。


「そ、そうか。ならお言葉に甘えて、その本を買わせてもらうよ」

「それには及ばねえよ!」

「……はい?」

「こうして袖を振り合ったのも何かの縁だしな。新しいドルオタの誕生を祝って、この本は俺からプレゼントしよう! ほれ、持ってけドロボー!」


 そう言いながら本を差し出してくるが……。


「いや、持ってけって言われてもな……」


 このまま素直に持って外へ出たら、間違いなくサイレンの音がこだまするだろう。せっかく仕事が決まったのに、窃盗で檻の中に入るのは勘弁だ。

 するとその時、金髪男――卍原の頭が弾け飛ぶ。


 あれ、何かデジャブな感じ?





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