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第十五話 月樹・改めて、新生活

ああ、また竹下沙月たけしたさつきとリズさんが喧嘩している。

喧嘩しているというか、竹下さんが一方的に文句をつけているだけだが…リズさんは大丈夫だろうか。


「あのさぁ、沙月」


れいれいが竹下さんをなだめるように言う。


「何?」


心持柔らかくなった声で竹下さんが問う。


「……が……みて…から、……が……う」


れいれいが小さな声で言った。

同時に、竹下さんがびくっとした。


そういえばさっき、竹下さんがれいれいの耳元で何かを言っていた。

何の話をしていたんだろう。


「…あ、えっと、その、ご、ごめんね、山脇さん!ちょっと言いすぎちゃったかも!玲香、山脇さんのところに行ってきなよ!」


慌てたように言う竹下さん。

とりあえずほっと胸をなでおろす。


でも――いつも自分の言い分を譲らない竹下さんが、こんなにあっさり謝るなんて。

れいれいは何か魔法でも使ったのか?


手元の本に目を落とす。

あの状況で、この本の主人公なら竹下さんに何て言うだろう。

うーん…


「ねぇねぇ、るき君もちょっと今いいかな」


後ろからリズさんが言った。

さっきれいれいを呼んでいた「話」についてだろう。

振り向くと予想通りれいれいとリズさんが僕を待っている。


「いいよ。何?」

「あのね…」


周りに内容がバレない様に、リズさんは言った。


「借りるアパートの候補が、2件まで絞れたって今朝山脇さんが教えてくれたの」

「そうなの?!やったーー!」


れいれいが顔をほころばせる。

きらきらと光る瞳。


「うん。だから今日の放課後に見に行って決めない?」

「そうだね。行こう」

「私も行く!」


アパートか。

ついに、僕ら3人の生活が始まるんだ。

想像するだけで心が喜びでいっぱいになる。


「じゃあ決まりだね。山脇さんも行くから、私の家に5時集合で」


リズさんはいつも通りの無表情で締めくくった。


「うん、わかった」

「山田さんのクッキー、お土産に持っていくね!」


ほんのりとリズさんの顔が染まる。

――なんだよ。可愛いじゃないか。


「あぁ、うん…ありがとう」


カーテンの隙間から差し込む光が、壁に綺麗な四角形を描く。


「玲香、もういいでしょ。こっち来なよ」


ふと前の方を見ると、竹下さんが不機嫌そうに立っていた。


「ごめん、沙月!今行くね」


れいれいが前を向くと同時に長い髪がふわりと広がった。

シャンプーのいい香りがする。


「じゃあ、また5時に」


そう言い残してれいれいは竹下さんのところに戻ってしまった――いや、戻りかけて、はっとしたように僕の机に帰ってきた。


「ねー沙月、そっちいくのめんどくさいからこっち来てよ。るきとも一緒に話したらいいでしょ」


れいれいが意味ありげに言う。

一回戻りかけたのに、どうしてわざわざここで話すんだろう。


「えぇぇ?!…わかった。ありがと」


竹下さんがゆっくりとやってきた。

竹下さんなら反論すると思ったのに。

やっぱり今日の竹下さんはいつもと違うように見える。


「山中君…あの、えっと、おはよう」

「おはよう」


気まずい沈黙。

いつも進んで何か言い出すれいれいが、なぜか全く喋らない。


「きょ、今日もいい天気だね」


当たり障りのない話題だ。

でも、窓の外はたしかに一面の青い空。

不意に入学したてのころのことが思い出された。


――れいれいと屋上で話した、あの日と同じだから。


僕たちが会えない間に、れいれいはあんな辛い思いをしてきたんだって知ったのは、あの日だった。

今のれいれいを見たって、絶対誰もれいれいの痛みなんてわからないだろう。


――隠してる。私も隠してるんだ。自分の弱さも、気質も、全部、明るくして隠してる。山中君と同じように。


あの時のれいれいの表情を思い出す。


――思い出しちゃうの。弱い私が。山脇さんも昔の私と同じだって思っちゃう。でも山脇さんは私みたいになってほしくない。


れいれいは、弱くなんてない。強い。


――僕は、強くなりたいのに。


「…そうだね」


なんやかんやしている間にチャイムが鳴った。

残念そうな表情で席へと戻るれいれいの背中を、僕は眺めた。

その背中にどれだけの苦痛を背負ってきたんだろう。


これからは、辛いときは3人で支え合える。


――これからは、正真正銘の『家族』なんだから。


自然と頬が緩んだ。

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