同志?
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「んでさ、佳代の奴が俺のパンツを汚物扱いしやがって、洗濯物を別々にしやがるんだよ! ヒドクナイ?」
昼メシも食べ終わり、俺達は昼休みの残り時間でだべっていた。
つか、俺が一方的に喋ってるだけではあるんだけど。
「……というか、いい加減机を元に戻したらどうですの?」
四条が俺をジト目で睨む。
「えー、どうせすぐ元に戻せるんだしいいじゃん」
「はあ……もう、あなたって人は……」
彼女が額を押さえながら溜息を吐く。
その時。
「同志!」
突然、一人の男子生徒が、そう叫びながらうちの教室に入ってきた。
あー……面倒な奴がやってきた……。
俺は頭を抱えながら、チラリ、とその男子生徒を見やる。
つか、俺以外にも大半の女子はソイツを見てるけどな。
「……同志って、誰だろうなー。そんな名前の奴、うちのクラスにいたっけ? それより……」
などと惚けながら、ソイツの声を無視して四条と会話を続けようとするが。
「ふう……やっと逢えたね、同志」
……やっぱり俺かー……。
「はあ……何だよ“君島”」
「クク……つれないなあ。君と僕は、彼女達についてあんなに語り合った仲じゃないか」
「や、そうだけども」
うーん……今、俺は四条と残り少ない昼休みを満喫したいんだけれども。
「ね、ねえ、倉本さん……その……」
四条が遠慮がちに声を掛ける。
おっと、すっかり彼女を置き去りにしたままだった。
「ああ、コイツは一年の時に同じクラスだった“君島海斗”って奴で……まあ、変人だ」
「ちょっと!? 僕の紹介雑じゃない!? しかも変人って!?」
俺がわざわざ紹介してやってるのに何が不満なのか、君島の奴が抗議する。
大体、変人に変人と言って何が悪い。
「大体お前、そんなにルックスいいんだし、黙ってればそれなりにモテるのになあ……」
「余計なお世話だよ! それに、僕の妻は“ジルコンエンジェル”たん一択なんだから!」
ちなみに、コイツの言う“ジルコンエンジェル”というのは、『もっと! 魔法少女スイートエンジェル?』に登場するヒロインの一人で、少しギャルが入っているキャラだ。
もうお分かりだと思うが、コイツは自他ともに認める、十年以上続くニチアサ魔法少女アニメ、スイートエンジェルシリーズの熱狂的なファンって訳だ。
だから、スイートエンジェル……通称『甘エン』を見続けてきた俺を同志と呼ぶのだ。
「だけど、悲しいよ……これからは、月曜の朝に同志と『甘エン』への熱い想いについて語れないだなんて……」
「いーよ別に。その想いは心に秘めとけ」
俺はシッシッ、と追い払う仕草をする。
「へ、へえ……『甘エン』のファン、ですの……」
アレ? 四条の奴、意外にも食いついてきたぞ?
そういえば……昨日のカラオケでもサファイアエンジェルの決めポーズしてたし、歌う曲も『甘エン』のものばかりだったな。
「ひょっとして……四条も『甘エン』好きなの?」
「っ!?」
俺の問い掛けに、四条が息を飲んだ。
「フ、フン! ど、どうしてこの私が、いまだにそんなお子様番組を観たりするんですの!」
「む……それは聞き捨てならないなあ」
四条の言葉にカチン、ときたのか、ムッとした表情で君島が抗議する。
「君には分からないかなあ。『甘エン』に隠された僕達へのメッセージが」
「フン! どうせ『魔法と歌とダンスで心を通わせ、友情の大切さだけでなく政治経済、果ては地球の環境問題までも提起する、まさに子ども番組というジャンルを超えた叙事詩』とでも言いたいんでしょうけど、お生憎ですわ!」
四条はまるで小馬鹿にするように君島に言い放つけど……お前、本当はメッチャ好きだろ。
「ふ、ふうん……同志が一緒に昼食を共にする資格はあるってことか」
「何だよ俺と昼メシ食う資格って」
や、むしろ俺も初耳だよ。
「ふう……分かった、悔しいが認めよう。たとえ君があの“悪役令嬢”だとしても」
「っ! テメエ!」
最後に不意に放った言葉にキレた俺は、思わず君島の胸倉をつかんだ。
「へえ……あの同志がここまで怒るなんて珍しいね」
「うるせえ! 用がないならとっとと消えろ!」
俺はドン、と君島を押すと、席に座って顔を背けた。
「クク……ゴメンゴメン、悪かったよ。四条さんも申し訳なかった」
「……別に、慣れてますわよ」
頭を下げて謝罪する君島にそう告げると、四条は寂しそうな表情で俯いてしまった。
クソ……こんな奴、もう絶交だ。
「……また改めて謝罪させてもらうよ」
そう言い残し、君島は教室を出て行った。
「……チッ」
せっかく四条と楽しく昼休みを過ごしてたのに……って、そ、それよりも。
「その……四条、悪い……」
「ふふ……なんであなたが謝るんですの」
俺は申し訳なくなって四条に謝ると、彼女は少し困った表情を浮かべた。
——キーンコーン。
……ちょうど、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
俺は机を元に戻すと、モヤモヤが残ったまま午後の授業を受けた。
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