悪役令嬢の昼休み
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——キーンコーン。
一時間目の授業が終わり、俺は机に突っ伏す。
はあ……久しぶりの授業は堪える……。
「かっちゃん、チョットいい?」
俺の席に来た優奈が腕組みして仁王立ちしたまま、俺を見下ろした。
その瞳は、どこか怒っているようだった……って。
あー……俺がコイツの誘いを蹴って四条とカラオケ行ったからかあ……。
「メンドクセエ……」
「っ! いいから来い!」
「グエ!?」
俺は優奈に襟首をつかまれ、引きずられるように廊下に連れていかれた。
「な、なんだよ」
「なんだよ、じゃないよ! なんでアタシが誘ったのにアイツと一緒にカラオケに行ってるのさ!」
プクー、と頬を膨らませ、優奈が詰め寄る。
で、やっぱり怒ってる理由は昨日の件だった。
「別に、俺が誰とカラオケに行こうが自由だろ? それに、俺が大勢とつるむのがあんまり好きじゃないの、優奈も知ってるだろ」
「そ、それはそうだけど……だけど! だからってあんな“悪役令嬢”なんかと一緒に……っ!?」
優奈が“悪役令嬢”と罵った瞬間、急に息を飲んだ。
「……優奈。四条のことあんまり知らないくせに、勝手に悪く言ったりするんじゃねーよ」
「う……」
「つか、そんな話ならこれ以上するつもりねーから」
「あ……」
俺は困惑する優奈を置き去りにしてまた教室へと戻った。
すると。
「…………………………」
四条が俺を心配そうな表情で見た後、すぐにそっぽを向いた。
で、俺が席に着くと。
「……フン。この私に関わったりするから、面倒なことになるんですよ」
鼻を鳴らしながらポツリ、と悪態を吐く四条。
だけどそんな言葉とは正反対に、彼女は眉根を寄せながら唇を噛み、俯いた。
はは……しょうがねえなあ……。
「別に、あんなの面倒でも何でもねえよ。大体、優奈の奴はあれがテンプレなんだよ」
俺は肩を竦め、ヤレヤレとばかりに大袈裟にかぶりを振った。
それこそ、俺は大丈夫だとアピールするように。
「んなことより! 俺は次の授業の教科書を忘れちまったんだけど」
「……は?」
俺の言っている意味が分からないのか、四条はキョトンとした。
「つーまーりー! 教科書忘れたから次の授業では見せてくれ! 頼む!」
俺は拝むように四条に手を合わせて頼み込む。
そんな俺の姿を見て、彼女は溜息を吐くと。
「はあ……本当に仕方ない人ですわね……」
お返しとばかりに苦笑しながら肩を竦めた。
「お! 助かる!」
「ただし!」
「っ!? た、ただし!?」
ビシッ! と人差し指を突きつける四条に、俺は思わず仰け反る。
「私は、厳しいですわよ?」
「ヒイイ」
そんな四条の言葉に、俺は思わず呻き声を上げた。
そ、そうだった……コイツ、前の世界でもやたらと授業態度にうるさかったんだった……。
……ちょっと失敗した、かも。
◇
「よっし! 昼休みだ!」
そう大き目の声で呟きながら、俺は教室の中をキョロキョロと見回す。
どうやら昨日の親睦カラオケで仲良くなった連中が、早速つるんでメシ食ったりするみたいだ。
で、優奈の奴はというと……うん、こちらをチラチラと見ながらも、朝のことがあったからコッチに来れずにいやがる。
お……滝川が優奈を昼メシに誘ってる。
優奈も優奈で、迷いながらも結局は滝川と一緒にメシ食うことにしたみたいだな。
さーて、んじゃ俺もメシにするか。
俺はカバンの中から妹特製の弁当が入った袋を取り出す。
「さてさて、中身は……むむ!」
今日の弁当のラインナップは、おにぎり二個に玉子焼き、ミートボールとサラダだった。
まあ、定番だな。
で……アイツはどうなのかな……?
俺はチラリ、と隣の席を見やると……ほほう? 四条の弁当はふりかけのかかったごはんに、プチトマトに……って、おお! あれは肉じゃがか!
「……なんですの? 私のお弁当をジロジロと見て……」
あ、やべ。気づかれた。
「や、四条の弁当美味そうだなって」
「そう? あなたのも美味しそうに見えるけど?」
四条が俺の弁当を覗くと、澄ました表情でそう言った。
「まあな。何つっても妹のお手製弁当だからな」
「へえ……妹さんがお弁当を作ってらっしゃるの?」
「おう。うちは母さんが看護師で、夜勤とかある時は妹がメシ担当なんだよ」
「そうなんですか……」
すると四条は、まるで懐かしむように柔らかい表情を浮かべた。
彼女が何故そんな表情をしたのかは分からないけど……ただ、俺はそんな四条の表情がすごく綺麗というか、癒されるというか……そんな印象を受けた。
「? どうしたんですの?」
「へ? あ、い、いや、なんでもねー」
俺を見た四条が、不思議そうに尋ねる。
やべ、思わず彼女に見惚れちまった。
「そ、それよりさ、もうこの際だし一緒に昼メシ食わねー?」
気恥ずかしくなっちまったついでに、俺は苦し紛れにそんな提案をしてみる。
や、もう今さらって感じではあるんだけどな。
「……倉本さん、私は一人で食べたいんです。ですので、私に構わないでください」
そう言うと、四条はプイ、と顔を背け、黙々と弁当を食べ始める。
四条……じゃあなんで、お前は唇を噛んでんだよ……。
どうせお前のことだ。お前に関わると、俺までクラスで除け者になるとでも考えてるんだろ?
だから。
「知るか! 俺はお前と一緒に昼メシが食いたいんだよ! つー訳で!」
「あっ! チョッ!?」
俺は彼女を無視し、無理やり机をくっつけてやった。
四条は何か言ってるが、無視だ無視。
「ホレ、早く食わねーと昼休み終わるぞ?」
「ムム……ご、強引ですわね……!」
観念したのか、四条はムスッとしながら箸でじゃがいもをつまんだ。
だけど。
「ふふ……」
彼女が、顔を伏せながら僅かに微笑む。
全く……素直じゃない奴。
俺はクスリ、と苦笑しながら、この素直じゃない“悪役令嬢”との昼メシを楽しんだ。
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