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基本方針

ご覧いただき、ありがとうございます!

「うえー……もう喉がカラカラだ……」


 あれから二時間歌い切って店を出ると、俺はかすれた声でそう呟いた。


「もう……あんなに大きな声張り上げるからですのよ?」


 四条は呆れた様子で俺を見ながら苦笑する。


「……そういうお前はどうなんだよ」


 そんな彼女に、俺はジト目で睨んだ。

 だって四条の奴、俺より確実に多く歌ってるはずだからな。


「私はちゃんと考えて歌ってますからいいんですの」


 胸に手を当てながら、澄ました表情で言い放つ四条。

 そんな彼女を見て、俺は思わず微笑む。


 元々容姿が綺麗ってこともあるけど……ちょっと彼女の内面も知って、可愛いって思ってしまった。


「? 倉本さん?」

「へ? あ、いや……何でもない」


 どうやらつい見惚れてしまってたみたいで、彼女が不思議そうに見つめる。

 俺は思わず恥ずかしくなってしまい、思わずプイ、と顔を背けた。


 だけど、彼女にはお見通しだったようで。


「ふふ、照れなくてもよろしいですのに」


 クスクスと笑う四条。

 そんな彼女に、俺はまたもや魅入ってしまった。


「ん、んじゃ、そろそろ解散するかー!」


 俺は誤魔化すように、わざと大きな声で彼女にそう告げる。


「そうですわね。私も帰ってすることがありますし……」

「え? そうなの?」


 あー……だったら俺、カラオケなんか誘って、余計なことしちまったかなあ……。


「ふふ、倉本さんがお気になさる必要はありませんわよ」

「あー……」


 チクショウ。何でか分からねーけど、四条には俺の考えてることが全部お見通しみたいだ。


「そ、それに……私も楽しかったですし……(ボソッ)」

「? 何か言った?」

「いーえ、なにも?」

「あ、そう……」


 なんて返事したけど、本当は俺の耳はバッチリ拾ってるんだけど。


「じゃな」

「ええ、ごきげんよう」


 そう言うと、四条はクルリ、と(きびす)を返して店の前から遠ざかっていく。


 俺はそんな彼女の背中を見つめながら、急に不安が押し寄せてくる。

 もし、あの未来みたいに彼女が死んでしまったら……って。


 だから。


「四条ーっ!」


 俺は大声で彼女の名前を呼ぶと、四条はこちらへと振り返った。


また(・・)! 明日な(・・・)!」

「ええ!」


 手を振りながらそう叫んだ俺に、四条も笑顔で手を振り返してくれた。


 ◇


「ただいまー」

「あ、兄貴おかえりー」


 家に帰ると、晩メシの支度をしていた妹が返事をしてくれた。


「お、今日はカレーか」

「まーね。ところで、兄貴は今日バイトだったの?」

「や、バイトは休み。同じクラスの奴とカラボ行ってた」


 カレーの匂いを嗅いでいると、何気なく妹が尋ねたのでそう答えた。

 ここで女の子と行ったと言わないのがポイントだ。


「ふーん」


 ホラ見ろ、佳代はまるで興味がないとばかりにそっぽを向きやがった。

 面倒くさくなくてラクチンなんだが、もうちょっと突っ込んで質問してくれてもいいんだぞ?


「んじゃ、俺は洗濯物たたんで部屋に行くから、メシできたら呼んでくれ」

「へーい」


 俺はベランダに干してある洗濯物を取り込むと、全部綺麗にたたんで両親、妹、俺でそれぞれ仕分ける。

 なお、下着に関しては佳代が母さんの分とセットで別に洗っているので、俺がそれを目にすることはない。


 で、自分の分だけ洗濯物を持って部屋に入ると、カバンを放り投げてベッドに寝転がる。


「さて……少し状況を整理するか」


 まず、四条が死んだと知った日、一年前の今日に俺がタイムリープしたのは間違いない。


 だって、始業式の校長の挨拶も、学校が終わってから木下が親睦を深めるためのカラオケ参加者を募ったのも、そして、四条がそれを無視してとっとと教室から出て行ったのも、前回と全て同じだったしな。


 となると、俺のすべきことは唯一つ。

 この奇跡を利用して、あの日救うことができなかった四条を、今度こそ救うんだ。


 それに……。


『……私は、ずっと倉本さんが……好き、でした……』


 俺はまだ、あの告白に返事をしていない。


 だから……一年後のあの日に、今度は笑顔の彼女に告白をしてもらい、俺はその想いに応えるんだ。


「そのためには、彼女が死ぬっていうフラグを片っ端から叩き折るしかねえ」


 ……あの時、先生は答えてくれなかったが、俺は四条の死因は自殺だったと考えている。

 だから彼女は学校に『行けない』って言ったんだ。


 だったら、その自殺の原因を考える訳だけど……そんなの。


「……普通に、クラスの連中からイジメを受けてたからに決まってんだろ……」


 前の時は、それこそクラス全員(・・・・・)から面倒がられ、無視され、嘲笑され、罵倒され……。


「ああ! 考えれば考える程イライラする!」


 アイツは確かに口煩いし態度もデカイけど、それでも、人を馬鹿にしたり嫌がらせをしたり、そんな姑息なことをする奴じゃなかった。


 なのに……!


「クソッ! 最低だ!」


 俺はドン! と壁を拳で殴る。


 そんな彼女を、あそこまで追い込んだアイツ等が許せなくて。

 そんな彼女に、同じように相手にしないで何一つ寄り添わなかった自分自身が許せなくて。


 だから……!


「俺は……今度こそ間違えない! 俺は、彼女を救う! 絶対にだ!」


 そのためには。


「あの時、四条を一番イジメていた連中……特に、“滝川(たきがわ)アリサ”と“益村(ますむら)憲治(けんじ)。コイツ等から四条を引き離さないと」


 とりあえず、俺がやるべきことは決まった。


 四条を敵視する連中から引き離しつつ、日和見してる連中には四条が本当は悪い奴じゃないってことを積極的に布教して意識を変える。


 そして、四条が自殺しちまうきっかけとなりそうなものは、俺が事前に見つけて潰していく。

 そうすれば、あの日のような最悪な事態は防げる……はずだ。


「よっし! 明日から……「兄貴ー! ご飯できたよー!」」


 おっと、その前に腹ごしらえ、だな。


 俺はカレーの匂いに誘われながら、部屋を出てダイニングに向かった。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回はこの後更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] クラス全員という事はお前もか?
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