カラボでの決意
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「チョ、チョット!? どこに連れて行くつもり!?」
困惑した表情を浮かべながら、四条は俺を問い質す。
「ん? カラボだけど?」
そう告げると、四条が俺の手を引き剥がそうともがいた。
「い、言ったはずです! 私はそんなものに興味はないと!」
「そ? 俺は急に興味が湧いたんだよ、だから付き合え」
「ム、ムチャクチャです!」
色々と喚き散らしてるけど、無視だ無視。
それに……俺は彼女に聞きたいことがあるしな。
嫌がる彼女を強引に引っ張りながらしばらくすると、彼女は大人しくなった。
お、諦めたのかな?
「……はあ、分かりましたわよ……一緒にカラオケに行きますから、いい加減その手を離してくださいまし」
「はは、そりゃよかった」
「もう……」
溜息を吐く彼女の腕から手を離して微笑むと、意外にも怒っていないのか、四条は苦笑した。
「それで? この私をカラオケに誘ったんですから、当然あなたがエスコートしてくださるんですわよね?」
「当然!」
俺はドン、と胸を叩く。
何気にバイトばっかりしてる訳じゃねえからな。奢るくらい訳ないっての。
「ふふ……期待してますね」
「おう!」
ということで、俺は四条と駅前のカラボに入ったんだけど……。
「なあなあ、四条は何飲む?」
「え? 私は……って、な、なんですのこの値段は!」
俺はついでに四条の分もドリンクバーで飲み物を取りに行ってやろうと声を掛けると、何故か四条はメニューを見て驚いてやがる……。
「こ、こんな高いだなんて聞いてません!」
「へ?」
や、ドリンクバーはセットだから追加で金掛からないんだけど……。
「ほ、ほら見てください! このコーヒーだって、コンビニ……いえ、スーパーとかでしたらもっと安いですのに!」
「お、おう……」
すごい剣幕で俺にメニューを見せる四条。
つか、メニューに載ってるやつだってファミレスくらいの値段だし別に高くないんだけど。
「と、とりあえず、飲み物はドリンクバーだから! タダだから!」
「え……? ドリンクバーって、ファミレスだけにしかないんじゃ……」
俺の言葉に驚愕の表情を浮かべる四条。
「んな訳ねーよ! とにかく、俺が入れてきてやるから何飲みてーか、はよ」
「え、えっと……で、でしたら私も一緒に行きますわ!」
お? 意外にも人任せにしないのな……って、そういや四条はそんな奴だったな。
いつも悪役令嬢然として偉そうではあるけど、自分のことで誰かに指図したりすることはなかったっけ。
「そっか……んじゃ、行くか」
「ええ」
俺と四条は部屋を出ると、入口に設置されているドリンクバーへと向かう。
そして。
「うわあああ……!」
……うん、四条がドリンクバーを見て瞳をキラキラと輝かせてる。
「四条はドリンクバーは初めてなのか?」
「へ?」
俺が尋ねると、四条はキョトンとした表情を浮かべたかと思うと。
「そそ、そんなことある訳ないですわ! え、ええ! そうですとも! た、たまたま久しぶりだっただけですから!」
「お、おう、そうか……」
な、なんかムキになって怒ってるから、これ以上詮索するのはやめとくか。
俺は四条から視線を逸らすと自分のグラスに氷を入れ、そこにコーラを注ぐ。
えーと、とりあえず四条が初めてだった場合を考慮して、先に俺から入れてみたんだけど……って。
「~~♪」
四条は鼻歌交じりにマグカップに紅茶パックを入れ、お湯を注いでいた。
ま、まあ、機嫌も良さそうだしいいか……。
「じゃ、じゃあ戻るぞ」
「ええ」
それぞれドリンクを持ち、俺達は部屋へと戻る。
「さてさて……んじゃ、何歌うかなっと」
俺はタッチパネルを操作し、曲を物色する。
うーん……やっぱりコレにしよう。
曲を選び、予約キーを押して、と。
「ほい」
「あ、ありがとうございます……」
四条はおずおずとタッチパネルを受け取ると、まるで玩具を与えられた子どものような表情で嬉しそうにタッチパネルを操作する。
——チャラララー……ジャジャン♬
「お、始まったな」
結局、俺が選んだ曲はニチアサの定番魔法少女アニメのオープニング曲だった。
つか、最近の流行りの歌なんざ知らねーし。
さあ……ここからは俺のターンだ!
「……ハア……ハア……ッ!」
一曲歌い終えた俺は、荒くなった息を整える。
今日も……熱い戦いだった……っ!
「さて……点数は……っ!? バ、バカな……!?」
俺の点数は、七十二点……いつもより、三点も低かった……って、ハッ!
視線に気づき、そちらを慌てて見やると……四条が憐憫を湛えた瞳で俺を見ていた。
「……倉本さん、音痴だったんですね……」
「ち、違う! 今日はたまたま調子が悪かっただけだっ!」
何故か俺は、四条に必死で言い訳をしていた。
いや、だけど本当にいつもはもっと点数が高い(三点だけ)んだよ!
「しかも、まさか『魔法少女スイートエンジェル』の初代だなんて……」
「べ、別にいいだろ! これは俺と妹の思い出の曲なんだよ!」
つーか、妹の世話しながら一緒に観てたら気に入っちまったんだからしょうがねーんだよ!
「ふふ……知ってます(ボソッ)」
「へ?」
? 四条の奴、今なんて言った?
「さて……せっかくだから、この私がお手本を見せてあげますわよ!」
四条はマイクを手に取ると、ポーズを……って、こ、これは……!
「サ……サファイアエンジェルの決めポーズ……だと……!?」
ま、まさか、四条がここまで完璧なポーズを見せるだなんて聞いてないぞ!?
「ふふ……見せてあげますわよ! この私の歌唱力を!」
「おおおおお……!」
そして、四条は俺と全く同じ曲を熱唱した。
「ど、どうですか……?」
緊張の中、四条が画面を見つめる。
だが、表示された点数は。
「な、七十四点……ですって……!?」
四条はわなわなと震えながらマイクを握り締める。
つーか、コイツ……。
「ププ……いつもの俺より低いでやんの」
「う、うるさい! 私よりも点数低いくせに!」
「何だと!」
それからしばらく、俺達はお互い罵りあう。
そして。
「ハア……ハア……きょ、今日のところは見逃してあげますわよ……」
「な、なんで偉そうなんだよ……」
四条のほうが先に折れた体を取っているが、上からなのは変わらない。
ホント、まだ学校来てた時のまんまだ。
それより。
「つーかさ、そんなにカラオケ好きなら、“木下”の奴が参加募集してた時に手を挙げたら良かったじゃん」
俺は悪いとは思いながらも、それとなく彼女にそう告げる。
すると彼女は、一転して悲しそうな表情を浮かべた。
「……別に、あんな低俗な連中と仲良くするつもりはありませんから」
そう言って、四条は目を伏せてしまった。
……やっぱり四条があんなことになっちまったのは、その辺が関係してるのかも、な……。
「そっか。ま、俺としては今日のリベンジしたいから、またお前を誘うけどな。つか、勝ち逃げを許す気はねーよ」
「なっ!? フ、フン! また返り討ちにして差し上げますわ!」
俺がおどけながらそう言うと、彼女は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
だけど四条よ……口元が緩んでるぞ?
はは……コイツ、こんな表情もするんだな……。
そして、お前はその表情を奪われて、絶望して……死んじまったんだな……。
そんな四条を見つめながら、俺は心の中で誓う。
四条……今度は絶対に、俺はお前を救ってみせるから……!
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次回は明日の夜更新!
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