駅前には
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――キーンコーン。
今日一日の終了を告げるチャイムが鳴り、クラスメイト達は思い思いに帰り支度を始める。
そんな中。
「よう、優奈」
「あ……かっちゃん……」
声を掛けると、朝の俺の様子からか、優奈は少し不安そうな表情で俺を見つめた。
「今日さ、その……この後用事あるか?」
「この後……う、うん、ゴメン。ちょっと行かなきゃいけないところがあるから」
「そ、そうか……」
優奈が申し訳なさそうな表情でそう言った。
そして、優奈と話さなくて済んだことで、ホッとしている自分がいた。
「そ、それじゃね! バイバイ!」
「お、おう、また明日な……」
そそくさと教室を出て行く優奈を、俺はただ見つめていると。
「数馬くん」
「あ……桐華」
いつの間にか、桐華が俺の傍にいた。
「また、機会はありますから……」
「ん……そうだな……」
俺と桐華は自分の席に戻り、カバンを持った。
「ところで桐華、今日はいつもみたいにワック来る?」
「ええ、もちろん」
「そっか。んじゃ、行こうか」
「はい!」
俺達は、教室を出てバイト先である駅前のワックへと向かった。
◇
「はあ……数馬くんも、最早見境なしだね……」
今日もカウンターで、ネチネチと俺に不満をぶつける久遠さん。
いい加減、聞かされるコッチの身にもなってほしい。
「……だから何度も言ってるじゃないっすか。彼氏作れって」
「はい! 今ので数馬くんに死亡フラグが立ちましたー! これで数馬くんは桐華ちゃんに嫌われて路頭に迷いますー!」
「な、なんすかソレ!?」
あーもう、自分に彼氏ができないからって、嫌がらせのように……!
「あ、あいにくっすけど、そんな久遠さんが言うみたいなことないですから! そ、それに、俺と桐華はまだ付き合ってないんですからね!」
「……ちょっと待って。数馬くん、いつから桐華ちゃんのこと名前呼びするようになったの?」
チクショウ、この先輩、無駄に鋭い。
「……べ、別にいいじゃないっすか。それより俺は、フロアの清掃に行ってきます!」
「あ! 逃げた!」
俺を指差しながらギャーギャー言ってる久遠さんを置き去りにし、俺は清掃グッズを一式持ってフロアに……っとと、アレを忘れた。
いつものように紙コップを手に取り、氷とアイスティーを注ぐと、蓋をして、と。
「ホイ、桐華」
「あ……ふふ、ありがとうございます」
参考書とにらめっこしていた桐華は、俺が声を掛けた瞬間ぱあ、と笑顔を浮かべ、アイスティーを受け取った。
「どうだ? 勉強ははかどってる?」
「ええ、もちろん。それより……数馬くんはちゃんと勉強しているんですか?」
「へ? 俺?」
桐華の思わぬ返しに、俺はキョトンとしてしまった。
つか、勉強してるかといえば、学校で出される課題くらいしかしてねえ。
「あ……今の態度で分かりました。これは一度、数馬くんにシッカリと勉強をさせないといけませんね」
「ええー……」
や、俺、勉強キライ。
「ダメですよ、そんな顔をしても。今度、一緒に勉強しましょうね」
「ウ、ウス……」
勉強は嫌だけど……桐華のメッ、とした表情と仕草、それに一緒に勉強する約束ができたので、内心ではホクホクである。
ウーン……なら早速、今週末にでも……。
「そ、それで……もしよければ、今度の日曜日にでも……」
おっと、俺が提案する前に、桐華に先に言われてしまった。
ま、まあ、結果は同じではあるんだけど。
「う、うん……じゃあ日曜日、俺の家で……」
「あ、い、いえ、せっかくですので、今度は私の部屋で、その……どうです、か……?」
桐華は顔を真っ赤にしながら、上目遣いでおずおずと提案した。
つか、桐華の家!? マジで!?
「おおお、俺は全然オッケーだけど、その……いいの?」
「は、はい……」
うおおおお! 何だよコレ! どんなご褒美だよ!
こんなの行くしかないだろ!
「じゃ、じゃあ日曜日、桐華の家で、な……」
「はい……ふふ、お待ちしています」
それから俺は、嬉しさのあまりいつもの三倍は仕事をこなした気がする。
久遠先輩の愚痴も嫌がらせも、全て赦そう。
◇
「よ、お待たせ」
「! 数馬くん!」
バイトも終わり従業員口から出ると、待っていた桐華が嬉しそうに駆け寄って来た。
「それじゃ、帰ろうか」
「ふふ……はい!」
俺と桐華は駅に向かって歩く。
これも、最近では当たり前になってるな。
「それで……優奈さんのこと、ですが……」
「あ、ああ……」
桐華に切り出され、俺は少しトーンダウンする。
優奈……騙されたりしてなけりゃいいんだが……。
「もし……数馬くんが許してくれるなら、その……優奈さんと話をする際は、私も一緒にいていいですか?」
「ええ!?」
俺は桐華の思わぬ申し出に、思わず身体が仰け反ってしまった。
「そ、その、どうして!?」
「それは……私も、一度しっかりと話をしないといけないと思ったからです。優奈さんと」
桐華は、どこか決意めいた表情を見せ、すみれ色の瞳で俺を見つめた。
でも……正直言うと、俺は桐華に立ち会わせたくない。
だって、優奈は友坂を裏で操り、桐華の机に落書きをさせた張本人だ。
なのに、そんな二人が面と向かってなんて……。
俺はそう悩み、答えに窮していると。
「……もう、どうするかなんて考えている余裕もない、ですね……」
どこか緊張した面持ちの桐華が、駅前を鋭い視線で見据えていた。
その先には。
「あ……」
――益村とにこやかに話す、優奈の姿があった。
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