話をしよう
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『……優奈が今日、益村と会ってたよ。それで、その……二人でホ、ホテルに入って行った……』
電話の向こうで、滝川は信じられない言葉を吐いた。
は……? 優奈が、益村と、ホテル……?
「ど、どういうことだよ! なんで優奈が、益村とホテルなんかに……!」
『ウ、ウチだってどういうことか訳分かんないし!』
思わずスマホに向かって俺が怒鳴ると、滝川は困惑したような声でそう返した。
つか、俺も何してんだよ……滝川、別に関係ねーじゃん……。
「わ、悪い……つい、怒鳴っちまった……」
『あ、う、うん。仕方ないよ……大切な幼馴染のことだもん……』
スマホを握ったまま、お互い沈黙が続くが、先に声を出したのは滝川のほうだった。
『と、とにかく……明日、君島クンと一緒に学校で詳しく話すし……』
「う、うん……悪い……」
そう言って、俺はスマホの通話終了ボタンをタップした。
「優奈……お前、本当にどうしたんだよ……」
暗くなりかけた空を眺めながら、俺はポツリ、と呟いた。
◇
「おはよ! かっちゃん!」
次の日の朝、俺が教室に入ると優奈はいつものように笑顔で俺に挨拶した。
「ああ……おはよう……」
俺はそんな優奈の顔を見ることができず、そっけない態度で曖昧に返事すると、無視するように自分の席に着いた。
「あ、か、かっちゃん……」
優奈は俺のそんな様子に何か声を掛けるような素振りをしたが、思いとどまったようで自分の席へと戻って行った。
「あ、く、倉本クン、おはよ……」
「お、おお……おはよう……」
滝川は教室に入って来ると、俺の席の傍に来て複雑な表情で朝の挨拶をした。
「……今日の昼休み、校舎裏で」
「……ああ」
それだけ言い残し、滝川も自分の席へと向かった。
「今日の昼休みがどうしたんですの?」
「うおっ!?」
いつの間にか俺の傍にいた桐華が、訝しげな表情で尋ねてきた。
つか、ひょっとして今の話聞いてた!?
「あ、き、桐華、おはよう」
「ふふ、数馬くんおはようございます」
にこやかな笑顔を浮かべ挨拶をすると、桐華は自分の席に着いた。
「それで……今の話はなんですの?」
チクショウ! やっぱり聞くのかよ!?
「い、いや、何でもない……」
「ふふ……数馬くんは嘘が下手ですね。何か……あったんでしょう?」
「…………………………」
ついさっきまでのにこやかな表情から打って変わって真剣な表情になり、すみれ色の瞳で俺を見つめる桐華。
だけど……こんなこと、桐華に相談できねーし……って!?
「数馬くん」
「ふぃ、ふぃりふぁ!?」
桐華は俺の両頬をその綺麗な両手でギュ、と挟み込むと、その顔を俺に近づけてくる。
うう……桐華の甘い息が俺の顔にかかる……。
「私は……数馬くんのためならなんだってできますし、なんだってしたいんです……ですから、お願いですから自分だけで抱え込まないで、私にもあなたの荷物を半分、預けてくれませんか?」
「…………………………」
はあ……あのイジメられてた桐華が、今じゃこんなに強くなって……。
でも……。
すると桐華は、俺の頭を無理やり縦に振らせやがった!?
「ふふ、頼ってくれて嬉しいです」
「いやちょっと待て!? 今のはお前が無理やりしたんじゃねーか!?」
俺は桐華の手をほどき、思わずツッコミを入れた。
「ふふ。ですが首を縦に振ったのは事実です。なので、昼休みは私も一緒に行きますから」
そう言うと、桐華は人差し指を口元に当て、悪戯っぽく微笑んだ。
ああ、チクショウ……そんな表情されちまったら、もう何も言えねーじゃん……。
この“悪役令嬢”、最強すぎる……。
◇
「……やあ、待ってたよ」
「アレ? なんで桐華まで来てんの?」
昼休みになり、俺と桐華は一緒に校舎裏に行くと、既に君島と滝川が来ていた。
「ふふ……だって、数馬くんが悩んでいるみたいでしたから……」
そう言うと、桐華は俺の顔をチラリ、と見た。
表情こそにこやかだが、その瞳は心配の色を湛えていた。
「ふうん……そもそも名前呼びしてるところとか色々と聞きたいところだけど、今は置いといて」
滝川も、呆れた表情から一転、真剣な表情に変わる。
「桐華……多分、アンタにとって面白くない話も結構するよ? それでもいい?」
「ふふ……ええ、もちろんです。数馬くんが思い悩んでる時点で、少なからず私に関係することだとは分かっていましたし。それに……やっぱりアリサさんは優しいですね。あなたが私の友達で、本当によかった」
「にゃにゃ!?」
はは、桐華にそんなこと言われて滝川の奴、照れてやがる。
「も、もう! 調子狂うし! ……コホン、桐華がいいならいいけど……それじゃ、まず経緯を含めて説明するね」
そう言うと、滝川は桐華にも分かるように最初から説明してくれた。
桐華の机の落書きをした犯人である友坂が、落書きをするように優奈からRINEで指示されていたこと。
それを友坂本人から直接聞いた俺が、滝川と君島に頼んで優奈の行動を監視してもらっていたこと。
そして、昨日……優奈の自宅から尾行していた二人は、優奈が益村と合流して、その足でホテルへと入って行ったこと……。
「……私もそれを見た瞬間、自分の目を疑ったけど、それから二時間程して、二人がホテルから出てきた。優奈は……嬉しそうな表情で益村の腕に自分の腕を絡めていたし……」
そう言うと、滝川は複雑な表情を浮かべて俯いた。
俺もそれを聞いてどんな顔をしていいか分からなくなってしまう。
だけど。
「……ねえアリサ、聞いていいですか?」
そんな空気を破ったのは、意外にも桐華だった。
「……何?」
「私の勘違いでなければ、星崎さんは、その……数馬くんが好きだと思っていたんですが……」
「うん……ウチも優奈からそう聞いてた。態度だってあからさまだし、ね……」
「チョ、チョット待て!? 優奈が俺の事を好き!? 嘘だろ!?」
俺は思わず二人の会話に割って入った。
や、あんなのはただの幼馴染としてのやり取りでしかねーだろ!? どこに恋愛要素があるんだよ!?
「はあ……鈍感」
「ですね……まあ、そのお陰で私は……(ゴニョゴニョ)」
滝川は眉根を寄せながらこめかみを押さえ、桐華は最後のほうは聞き取れなかったけど呆れた表情を浮かべていた。
「それで……数馬くん」
「お、おう……」
桐華が少し睨みながら声を掛けたので、俺は思わずたじろいだ。
「数馬くんは、その……優奈さんのことをどう思っているんですか? ……いえ、鈍感な数馬くんだからハッキリ言います。数馬くんは、優奈さんを異性として好きですか?」
「っ!」
ズバリ問われ、俺は思わず息を飲んだ。
でも……俺の答えは最初から決まっている。
「……俺は、優奈は大切な幼馴染だと思っている。でもそれは、俺が……その、別の人に抱いている、“好き”って感情とは違うものだ……」
「……そうですか」
俺はそう言うと、桐華は悲しそうな、申し訳ないような……それでいて嬉しいような、そんな複雑な表情を浮かべた。
「でしたら……すべきことは一つ、です」
「桐華、それは何だし?」
「数馬くんが星崎さんと向き合って、そして、話し合うんです。お互いの想いをぶつけて」
「「「っ!?」」」
桐華の提案に、俺達三人は固まる。
「だ、だけど桐華!? そんなことしたら、倉本クンと優奈は余計拗れるんじゃないの!? 下手したら、それこそ修復不可能になっちゃうじゃん!?」
滝川が焦ったような表情で桐華に問い詰めると、桐華は静かにかぶりを振った。
「……では、数馬くんと星崎さんはお互い気まずいまま、仮面を被って今まで通り幼馴染のフリをして接していくんですか? ハッキリ言ってそんな関係、すぐに破綻しますよ。そして……その時は取り返しのつかないことになりかねないんです」
「…………………………」
桐華の言葉に、滝川が押し黙る。
だけど……確かに桐華の言う通り、このまま知らないフリをしてても、絶対に俺は考えちまう。
優奈は……益村と、って……。
「……分かった。桐華の言う通りにしてみる」
「同志……いいのか……?」
いつもの様子と違う君島が、心配そうに問いかけた。
「ああ……このままじゃ、俺もこれからどうしていいか分かんねえし、それに……もし優奈が益村に何か酷い目に遭ってたりしてるんだったら、助けてやらねえと……」
俺は滝川の話を聞いてもなお、こんなことを言ってしまった。
優奈と益村の関係は、そうじゃないって分かり切ってるのに……。
「数馬くん……数馬くんには、この私がいます。今度は……この私が、あなたを支える番です。だから……」
「桐華……」
優しく俺の手を握った桐華に、俺も握り返した。
そうだ、な……俺には、こんなに大好きな女性が傍にいてくれるんだ。
だから。
俺は……優奈と話をしよう。
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次回は明日の夜更新!
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