お互い名前で
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「だ、だけど、四条が“木戸”だったなんて思わなかったよ……」
俺は四条を部屋に案内してベッドに座らせると、そう呟いた。
「あ、え、ええ……わ、私も倉本さんに言ってませんし……」
「そ、そうだな……」
うう、気まずい……。
でも、四条があの木戸だって分かったことで、色々と理解できたこともある。
四条が『甘エン』を好きな理由。
四条の口調が悪役の“リージュ”と同じ口調であること。
ところどころでにじみ出た言動。
そして……四条が俺を好きな理由……って。
あああああ!? なんつーかメッチャ恥ずかしい! 照れる!
「ちょ!? く、倉本さん!?」
恥ずかしさのあまり頭を抱えて身もだえる俺に、四条が心配そうに声を掛けてくれた。
「ああ、そ、その……き、気にしないでくれ……」
「で、ですが……」
すると。
――コンコン。
「兄貴―、ちょっと入るよー……って、ひょっとして……」
「あ……そ、その……初めま「お、お姉ちゃん!?」……え?」
妹の佳代が部屋に入るなり、四条を見て驚きの声を上げながら指差した。
つか。
「佳代、わ、分かるのか?」
「あったり前じゃん! だって、小学生の時に家に来たじゃん! それにそのすみれ色の綺麗な瞳……すっごく覚えてるし!」
「あ、あうう……」
瞳、かあ……そういえば、すみれ色の瞳なんてそうそうないもんな……つか、なんで俺、そんなことも忘れてんだよ。
俺は照れている四条の瞳をジッとみる。
それは、タイムリープ前に見たあのくすんだ色じゃなくて、どこまでも透き通るようで、吸い込まれるようで……。
「あ、あの……」
「兄貴?」
気づけば、四条と佳代が不思議そうに俺を見ていた。
おっと、イカンイカン。
「悪い、ちょっとボーっとしてた。それより俺、何か飲み物取って来るよ」
「あ、私も本を借りに来たんだった」
佳代は部屋の本棚からゴッソリとマンガを取ると、俺と一緒に部屋を出た。
「で……お姉ちゃん、兄貴の彼女?」
「な……!? バ、バカ!」
ドアを閉めた途端、佳代がニヤニヤしながらそんなこと言ってきやがった。
つか、まだ彼女じゃねーっての。
「ふうん……ま、でも、時間の問題っぽいけどね」
「うるせー」
手をヒラヒラさせながら自分の部屋に入っていった佳代をジト目で睨みつつ、リビングに降りて、今日のために用意しておいたアイスティーをグラスに注いだ。
「あ、そうそう、彼女来ると思ってケーキ買っておいたから」
「お、サンキュー母さん」
むむ、母さんのくせに気が利くじゃねーか……なんて言ったら、ブチキレるから言わないけど。
トレイにグラス二つとケーキを乗せ、部屋へと戻ると。
「……えーと、四条?」
「あう!?」
……四条は、俺のベッドで口元を思いっきり緩めながらごろごろしていた。
ま、まあいいや。四条の俺への気持ち知ってるから、何も言えねえ……つか、俺も四条の部屋に行ったら同じことをする可能性は否定できねー。
「と、とりあえず飲み物とケーキ」
「あ、ありがとうございます……」
居住まいを正し、四条は床に座る。
でも、顔は真っ赤で今にも煙が吹き出しそうだった。
「「あ、あの!」」
ヤベ、声を掛けようとして被った。
「し、四条からどうぞ」
「い、いえ、倉本さんから……」
と、これもお決まりのように譲り合いが始まる。
これは美徳ではあるが、今ここですべきことじゃないな。うん。
「じゃ、じゃあ俺から。四条は、どうして俺に“木戸”だってことを言わなかったんだ?」
俺は四条を見つめ、そう尋ねる。
もちろん、四条が“木戸”だったからって、何か変わるわけじゃないけど、それでも……俺、小学生の時に約束してたのに、タイムリープ前はそれを裏切っちまったんだ。
俺が同じ学校だったら、護るって言ったのに。
「あ……ふふ、一つは倉本さんに気づいて欲しかった、というのもあるんですが、倉本さんのことをもっとよく知りたかったから、っていうのが大きいですわね」
「? どういうこと?」
俺は少し意味が分からず、四条に問いかける。
「小学生のあの時から、倉本さんが優しいということは知っています。それが、全く知らない人だったとしてもそうなのかな、って」
「そ、そう……?」
ウーン……などと説明してもらっても、いまいちピンとこない。
「なのに倉本さんときたら、始業式の日にいきなり涙を零して、抱き着いてきて……驚きましたわよ?」
「あ、あははー……」
俺は気まずくなり、思わず頭を掻いた。
「でも」
四条がそのすみれ色の綺麗な瞳で俺を見つめると。
「倉本さんは……私が知っている以上に優しくて、素敵な人でした……」
「よ、よせよ……」
照れくさくなったのと、前の世界での罪悪感で、俺は四条の瞳から目を逸らした。
俺は……そんな立派な人間じゃない。
「ふふ……いえ、誰が何と言おうと、倉本さんは私のとって一番の……」
四条は瞳を潤ませながら、両手を胸の前でキュ、と結んだ。
「じゃ、じゃあ次! 四条の番!」
俺はいたたまれなくなり、話を逸らすためにそう言い放った。
でも、四条の透き通るような白い顔は、ますます赤く染まっていく。
「あ、あの……」
「う、うん……」
俺と四条の間に沈黙が流れる。
そして。
「ま、また、小学生の時のように……その、“数馬くん”、って、呼んでもいいですか……?」
「っ! お、おう……」
「! あ、ありがとうございます!」
俺が照れながら返事をすると、四条は咲き誇るような笑顔で嬉しそうに礼を言った。
チクショウ……最高に可愛い。
認めるよ、俺は四条が誰よりも大好きだ。
だから。
「た、ただし!」
「ただし……?」
「お、俺も、その……四条のこと、“桐華”って、呼んでもいいか……?」
って、俺、何言ってんだよ!?
何で俺が名前呼び強要してんだよ! 関係ねーじゃん!
でも。
「嬉しい……!」
そんな俺の条件を聞いた四条は、瞳に涙を溜めて嬉しそうに頷いた。
◇
「お、おじゃましました!」
「アハハ、またいつでも来てね! 桐華ちゃんだったら大歓迎!」
「ホント! 兄貴にはもったいないんじゃない?」
「うるせー!」
夕方になり、四条……桐華が家に帰ろうと玄関に出ると、来なくていいのに母さんと佳代が見送りに来た。
「んじゃ、俺は桐華を駅まで送ってくるから」
「気をつけてね。桐華ちゃんが」
「どういう意味だよ!」
駄目だ……これ以上ここにいたら面倒なことこの上ない……。
ということで、俺は桐華の手を取って玄関を出た。
「また! 来ます!」
「あはは! バイバーイ!」
母さんと佳代に手を振る桐華の表情は、最高に綺麗だった。
「ふふ……相変わらず素敵なお母様と佳代ちゃんでしたね」
「そうか? うるさいだけだよ」
「ふふ……」
隣に並んで歩く四条が、そっと俺に肩を寄せてきた。
「私……数馬くんと同じ街に来て、本当に良かった……」
「そ、そうか……」
俺は桐華のその笑顔に、鼻をくすぐる桐華のその香りに、駅に着くまでずっと緊張しっぱなしだった。
「では、ここで失礼しますね」
「ああ……明日、学校で」
「はい!」
駅の改札をくぐる桐華は、何度もこちらを振り返っては、笑顔で手を振っていた。
「……さて、んじゃ俺も帰るか」
桐華の姿が見えなくなっても、しばらく改札の向こうを眺め続けていた俺だったが、ようやく踵を返そうとして……。
――ピリリリリ。
ん? 電話……。
ポケットからスマホを取り出してみると、掛けてきたのは滝川だった。
「もしもし?」
『あー、倉本クン……今、ちょっとだけいいかな……』
何だろう……滝川の声が異様に暗い。
「も、もちろんだ。それで……何かあったのか?」
嫌な予感がした俺は、滝川に話を促した。
すると。
『……優奈が今日、益村と会ってたよ。それで、その……二人でホ、ホテルに入って行った……』
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次回は明日の夜更新!
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