指示をした者
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「ただいまー……って」
「あ……こ、この度は……」
家に帰ると、玄関には母さんと話す女性と、友坂が来ていた。
「あ、数馬。ちょうどいいところに帰って来たわ。こちら、友坂くんのお母さん。ホラ、スマホを壊したことについて謝りに来てくださったの」
「こ、今回はうちの息子が本当に申し訳ありません!」
母さんが紹介するやいなや、友坂のお母さんは俺に向かって深々と頭を下げた。
「あ、あああ、い、いえ! 顔を上げてください!」
「だ、だけどあなたのスマホを勝手に壊して……しかも、うちの馬鹿息子がバカなことしたのを止めようとしてくれたのに……」
うむう……何というか、四条へのイジメの話まで友坂のお母さんに伝わってるの?
俺は友坂の奴をチラリ、と見ると……うん、大分憔悴した様子だなあ。
「え、ええと……俺としてはこの件はもう終わりで構いませんので、その代わりですけど、ちょっと友坂くんをお借りしていいですか?」
「え? え、ええ……」
俺がそう尋ねると、友坂のお母さんはキョトンとした顔で曖昧に頷いた。
「よし、てことでちょっと俺の部屋に来なよ」
「! ……あ、ああ」
俺が家に上がるように友坂を手招きすると、一瞬躊躇しながらも友坂は靴を脱いで家に上がった。
で、俺は友坂を連れて部屋に入れると。
「とりあえず、友坂のお母さんを待たせてるから、手短に言うぞ。友坂……お前、誰に指示されてあんなことしたんだ?」
「っ!? …………………………」
俺が尋ねると、友坂は口をつぐむ。
まあ、俺にこうやって聞かれることも想定はしていたんだろうけど……それでも、何でコイツはこんなに頑なに話そうとしないんだ?
「なあ……ひょっとして、お前に指示した奴から何か脅されてたりするのか?」
「い、いや! そんなことはない!」
「はい、指示した奴がいるの確定」
「うぐ……!」
何が『うぐ……!』だよ。
つか、この前落書きしてる現場を押さえた時もお前、そう言ってたじゃんよ。
「じゃあ質問を変えるけど、お前に指示した奴って、ひょっとして益村か?」
「ち、違う」
アレ? 俺はてっきり益村が指示したんだと思ったんだけどな……。
友坂の様子も嘘を吐いているようには見えないし……じゃあ、一体誰がコイツに指示したんだ?
「なあ、頼む! 俺にお前に指示した奴が誰なのか教えてくれ! この通りだ!」
俺は床に額をこすりつけ、友坂に向かって勢いよく土下座した。
「……倉本、お前なんでそこまでするんだ?」
俺を見て友坂がそう呟く。
だけど、なんでここまでするかって? そんなの決まってる。
「俺は……四条の笑顔が好きだ」
「…………………………」
「四条の怒った顔が好きだ、四条の拗ねた顔が好きだ。真剣な表情の四条が好きだ。でも……四条の悲しむ顔は絶対に見たくないんだ」
「……そっか」
「おう……」
俺は顔を上げると、友坂はどこか気が抜けたというか、憑き物が落ちたというか、そんな表情をしていた。
「要はアレだな。倉本は四条のことが好きなんだろ?」
「はは、これっぽっちも否定できねー」
そうだ、俺は四条が大好きだ。
だからこそ、俺はここまでしてきたし、これからだって四条のためなら何だってしてみせる。
「……実は、さ。俺も好きな人いるんだよね」
すると、友坂が訥々と話し始めた。
◇
実は俺、高校入学してすぐ、一目惚れしたんだよ。
一年の時は別のクラスだったんだけど、用事もないのにその女の子のクラスに行って知り合い見つけては絡んでるフリして、その女の子のことばっかり見てたんだよ。
でも、その女の子には好きな奴がいて、いっつもその女の子は好きな男の傍にいては嬉しそうに話をしてた。
でも、その男のほうは女の子の気持ちに全く気づいてなくて、ただ仲の良い友達程度にしか見てなくて、全然女の子として意識してないんだよ。
まあ、見てるコッチからしたら、腹が立って仕方なかったよ。
俺だったらそんな真似はしない。俺なら絶対気づいてあげるのに、って。
そんな感じで一年の間は悶々と過ごしていて……そして、二年に進級した時、俺はその好きな女の子と同じクラスになれたんだ。
でも、また一年の時みたいにそんな女の子とソイツとの関係を見続けるのか、そう思ってたんだけど、いきなり事情が変わった。
ソイツ、その女の子放っておいて別の女の子にばっかりチョッカイかけるようになったんだ。
しかもソイツ、その女の子の時とは打って変わって、別の女の子のことばっかり意識してて。
だから、さ。
俺は意を決して女の子に言ってやったんだ。
あんな男やめたらどうだって。俺なら、あんな思いさせないからって。
その時は、女の子は寂しそうに笑って何も言わなかった。
それからしばらくすると……女の子からRINEで俺に頼んできたんだ。
あの男に色目を遣う女……四条を学校から追い出すのを手伝ってくれって。
「……だから、俺は四条の机に落書きして、嫌がらせを始めたんだ……」
そう言うと、友坂は拳を握りしめ、俯いた。
友坂の話をここまで聞いて……さすがの俺でも分かる。
でも、俺は改めて確認しないといけない。
それが、たとえ残酷な結果だとしても。
「友坂」
「…………………………」
「……お前に四条をイジメるように指示したのは……優奈、だな?」
俺の問い掛けに、友坂は静かに頷いた。
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次回は明日の夜更新!
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