ご招待
ご覧いただき、ありがとうございます!
「はよーす」
金曜日の朝、俺はいつものように教室に入る。
「あ、かっちゃんおはよ!」
「おう、おはよー」
これまたいつものように、優奈が元気に挨拶をしたので俺も挨拶を返すと、自分の席に向かった。
で、四条の席は、と……うん、落書きはないな。
つか、友坂があれだけ痛い目に遭ってるのを目の当たりにしたら、さすがにイジメしようとしてる奴等もおいそれと手が出せねーよな。
ま、それが狙いでもあったんだけど。
すると。
「ふふ、倉本さん、おはようございます」
「お、おはよー」
今日もにこやかな笑顔を浮かべながら、四条が挨拶をしてくれた。
始業式当初のコイツの態度とはえらい違いだ。
さて、そんな四条に俺はお願い事をしないといけない。
恐らく四条は、俺の願いに対して激怒するか、罵るか、もしくは文句を言いながらも嬉しそうにするかの三択だろう。
だが……これは俺が今後もスマホを持ち続けることができるかどうかの瀬戸際なんだ。
だから四条よ、お前は何も言わずに首を縦に振ってくれ。
ということで。
「あ、そうだ。実は四条に頼みがあるんだけど、さ……」
「? 何ですの?」
俺の言葉に、四条はキョトンとした表情を浮かべる。
「そのー……今度の日曜日、なんだけど……」
「日曜日、ですか……?」
何かを察したであろう四条は、少し頬を赤く染めながらおずおずと尋ねた。
「えーと……俺ん家、来る……?」
「へ……?」
四条が一瞬呆けた表情になる。
こんな表情、タイムリープ前も含めて初めて見た。
「だ、だから、俺ん家に来て欲しいんだけど……」
「はあああああああああああああ!?」
四条が耳まで真っ赤にしながら、教室中に響き渡る程の絶叫を上げた。
当然クラスの連中も、何事かとばかりに俺達に注目した。もちろん、優奈や滝川、それに益村の奴も。
「きゅきゅきゅ、急にどういうことですの!?」
「あ、ああいや、そのー……事情を説明したら、スマホを買う条件として、母さんから四条を連れてこい、って……」
そう言うと、俺も恥ずかしくなって俯きながら頭を掻く。
や、ホント、母さんも無茶な条件を突き付けたもんだ……。
「あうあうあう……!」
「そ、それで……どうだ?」
俺は四条を上目遣いで見ながら、おずおずと尋ねる。
つか、俺のスマホのためにも家に来てください!
「……し」
「し?」
「仕方ない、ですわね……スマホが壊れたのも、私にも責任がありますし……」
「ほ、本当か!」
俺は嬉しくなり、四条の手を取る。
よし! これでノルマはクリアだ! 後は土曜日にでも部屋の片づけを……。
「あうう……その、手……」
「ん? 手?」
「手、離してください……」
「あ!?」
しまった!? 嬉しさのあまり、つい四条の手を……!?
「わわ、悪い……」
「あ……」
俺は慌てて四条の手を離すと、四条は何故か名残惜しそうな表情を浮かべた。
でも、四条の手……すべすべして、柔らかかったなあ……。
◇
――キーンコーン。
放課後になり、俺は帰り支度をする。
「ふふ、倉本さんは今日もアルバイトですわよね?」
「おう。四条こそ、今日もワックに来るのか?」
「はい!」
うむ、今日も四条と同伴出勤だ。(違う)
「じゃ、行くか」
「ええ!」
俺は四条と学校を出ると、駅前のワックに向かった。
そして。
「ハア……数馬くん、もう見境なしだよね……」
「久遠さん、誤解を招くような言い方は止めてくださいよ……」
カウンターに入るなり、溜息を吐きながらジト目で見る久遠さん。
もはやこれもテンプレとなりつつある。
「つか、俺と四条はまだ付き合ってないですし、そんなこと言うなら久遠さんも彼氏作ればいいじゃないですか」
「あー! 言ってはならんことを二つも言った!」
俺はビシッと人差し指を突き付ける久遠さんの言葉に首を傾げた。
二つ? 二つって何だ?
「一つ! この私に彼氏作れって言ったこと!」
「うんうん」
「二つ! 『付き合ってない』って言葉の前に、『まだ』をつけたこと!」
「うんうん……って、あ……」
あー……やっちまった……。
俺は手で顔を押さえ、このカウンターからよく見える窓際の席に座る四条をチラリ、と見やる。
うん……何だかよく分からんが、四条は俺をジト目で睨んでやがった。
多分、俺と久遠さんのやり取りにヤキモチを焼いてるんだろうなー……。
ま、そういうところも可愛くて仕方ないんだけど。
「くそう! くそう! この無自覚天然テンプレ男め!」
久遠さんが唇を噛み締めながら思いっ切り地団駄を踏む。
「あああ……埃が舞うからヤメテ!?」
そんな久遠さんに、店長がオロオロしながら止めに入った。
まあ、飲食店で久遠さんのコレはないよな……。
「チクショウ! こうなったら二人の仲を引き裂いてやる!」
「ちょっ!?」
そう言うなりカウンターを飛び出した久遠さんが、四条の席に駆け寄って何かを耳打ちした!?
すると……あ、四条が顔を真っ赤にしてモジモジしだした……。
い、一体久遠さんは何を言ったんだ!?
で、こちらにドヤ顔で戻って来た久遠さん。
「んっふっふー、数馬くんの悪事、全部バラしてやったんだから!」
「お、俺の悪事っすか……?」
「そう! 仕事中もいつも彼女をチラチラ見てることとか、何かにつけて彼女の席の周りを掃除しに行ってることとか、この私に彼女との仲を見せびらかしてマウントを取って来る!」
そう言って、ドヤ顔でムフー! と鼻息を荒くする久遠さん。残念極まりない。
つか。
「……し、四条に合わせる顔がない……!」
俺は恥ずかしさのあまり、両手で顔を押さえた。
◇
「お疲れ様でしたー」
バイトを終え、挨拶をして店を出ると。
「ふふ、お疲れ様」
「おおお、おう……」
従業員口の前で待っててくれた四条の労いの言葉に、俺は思わずどもってしまった。
やべ、久遠さんのせいで四条の顔をまともに見れねー……。
「ふふ……明後日の日曜日、楽しみにしてますわよ?」
「うああああ……」
そうだよ……ソレもあったよ……。
つか、これ以上は恥ずかし過ぎて保たねー……。
俺はそんな恥ずかしさから必死で耐えながら四条の家の近くまで送り届けると、家に真っ直ぐ帰った。
「ただいまー……って」
「あ……こ、この度は……」
玄関には、母さんと話す女性と、そして……友坂がいた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




