落書きの犯人
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——ピピピ。
「んう……スマホ、スマホ……」
まどろみの中、俺は手探りでスマホを探す……お、これか。
スマホを手に取ると、アラームの停止ボタンをタップする。
「くあ……」
布団の中で伸びをして、俺はベッドからでる。
時刻は……朝の五時半。
「よし」
俺は顔をブンブンと左右に振って無理やり目を覚ますと、制服に着替えて洗面所へと向かう。
「ふう……サッパリした」
歯みがきと洗顔を済ませると部屋に戻り、カバンを持った。
「行ってきます」
俺は寝静まっている家の中に向かってささやくと、静かにドアを開けて家を出た。
「さて……うまく犯行現場を押さえられるといいんだけど……」
学校へと向かう中、俺はポツリ、と呟く。
昨日の君島の話では、放課後に四条の机を落書きした奴はいなかったってことだ。
なら、犯行は朝に行われる筈。
そのために、俺はわざわざこんな早起きしてるんだからな。
朝六時。学校に着くと、俺は真っ直ぐ教室へと向かう。
四条の机は……うん、まだ落書きされてない。
あとは、机を落書きする現場をスマホで写真を撮って、二度とこんな真似をさせないようにするだけだ。
……といっても、犯人はどうせ益村だろうけどな。
遊園地での益村の執拗な付きまとい、タイムリープ前の益村の行動を考えると、そうとしか思えない。
そしてその理由は、益村が四条が好きだから。
「……つか、本当に四条のことが好きなら、なんでこんな酷い真似ができるんだよ……好きだったら、傷つけるんじゃなくて護るモンだろうが……!」
俺は益村の席を睨みながら拳を強く握る。
でも……そんな真似はこれで終わりにしてやるよ。
そう決意すると、俺は教室を出て廊下の陰に隠れた。
さあ、いつでも来いよ。
◇
あれから一時間が過ぎ、今は朝の七時。
校庭のほうから元気な声が聞こえ始めたから、多分部活の朝練だろう。
……犯人も、さすがにそろそろ来ないと犯行現場が見つかるぞ? 俺以外の奴に。
俺は若干の焦りと安堵の両方が心の中でせめぎ合いながら、ジッと教室を見据える。
すると。
「あれは……?」
やって来たのは、益村じゃなくて同じクラスの“友坂”だった。
つか、なんで友坂が……?
俺は友坂が教室に入るのを見届けると、扉の傍に近づき、教室内を覗く。
「っ!?」
友坂の奴はキョロキョロと誰もいない教室で見回すと……ポケットから油性マジックを取り出し、そして……四条の机に落書きを始めた。
『死ね』『ブス』『ハゲ』『悪役令嬢乙w』……。
友坂は、憑りつかれたかのようにありとあらゆる罵詈雑言を机に書き殴る。
俺は……そんなアイツにスマホのカメラを向け、シャッターボタンを押す。
——ピコン。
「っ!? 誰だ!」
「俺だよ」
俺は教室の扉を開け、慌てふためく友坂に姿を見せた。
「よう、面白い真似してんじゃねーか」
「……んだよ」
「『んだよ』じゃねーだろ! 一体何の理由でこんなことしてんだよ!」
俺は怒鳴りならズンズンと友坂に近づき、アイツの胸倉を掴んだ。
「言えよ! なんでこんなことしたんだよ!」
「ウ、ウルセエ!」
俺は友坂に突き押され、思わずよろめく。
「つかさ、気づいてると思うけどオマエが今やったこと、バッチリスマホに入ってるんだ。オマエが言わなかったら、コレをばら撒くだけだ」
そう言うと、俺はスマホの画面を友坂にこれみよがしに見せた。
「っ! そ、それを寄越せ!」
「おっと、渡すわけねえだろ。欲しけりゃ、オマエがこんな真似をした理由を話すのが先だ」
慌てた様子で俺のスマホに手を伸ばすが、当然俺が渡す筈もない。
「で、どうする? こんなことしてる間にもクラスの連中はやって来るぞ? 別に俺としてはみんなの目の前で追及してもいいんだけど?」
「……っ!」
はは、悔しそうにしてやがる。
でもな……頭に来てんのはコッチなんだよ!
「……分かった、話すよ……」
観念したのか、友坂はポツリポツリ、と話し始めた。
友坂が言うには、四条の机に落書きをして嫌がらせをするよう、日曜日の夜にRINEがあったらしい。
なんでそんなことを頼まれたのか、友坂自身もよく分からなかったけど、相手の手前、それを断ることもできなかった。
で、月曜の朝早くに学校に来て、今みたいに油性マジックで机に落書きをした、ということらしい。
「……それで、オマエにRINEでそんな指示をした奴ってのは、誰なんだ?」
「それは……」
俺は問い質すが、友坂は顔を背けて言い淀んだ。
「早く言えよ、じゃないと……」
「わ、分かったよ……だから、そのスマホ……っ!」
「あ!? オ、オイ!?」
俺がスマホをちらつかせた隙に、友坂が俺に飛びついて無理やりスマホを奪った。
そして。
——ガン! ガン!
友坂は何度もスマホを床に叩きつけ、俺のスマホを壊しやがった。
「ハッ! これで証拠はなくなったな! で? 四条の机の落書きについてだっけ? 言いたきゃ言えよ! オマエの言うことなんて、クラスの誰が信じるかなあ?」
「……友坂!」
俺はキッ、と友坂を睨みつける。
つか、俺のスマホ壊しやがって!
「その前に、俺のスマホ弁償しやがれ!」
「あー、ハイハイ。気が向いたらな」
「オ、オイ! 待ちやがれ!」
俺が慌てて手を伸ばすより先に、友坂は教室から飛び出して逃げ去っていきやがった……。
「ハア……ま、いいや」
俺はガシガシと頭を掻きながら溜息を吐いた。
……これで、友坂に気を遣ってやる理由もなくなったしな。
「それより、四条が来る前に机の落書きを拭き取るかあ……」
こんなこともあろうかと、俺はあらかじめ用意しておいた消毒用アルコールと雑巾を取り出し、四条の机を拭き始める。
ニタア、と口の端を吊り上げながら。
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次回は明日の夜更新!
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