落書き
ご覧いただき、ありがとうございます!
「これ、どういうことだよ……」
俺は四条の机の前で思わず立ち尽くす。
何でだよ……四条へのイジメは、中間テストの後じゃなかったのかよ!
「倉本クンおはよ……って、何コレ!?」
ニコニコしながら教室へ入ってきた滝川が、俺に挨拶をすると同時に机の落書きに気がつき、打って変わって驚きの表情を見せた。
「……俺もたった今来たばっかで、誰がやったか分からねえ……」
「サイテー……」
ああ、俺もサイテーだと思う。
それよりも、だ。
「悪い滝川さん……四条が来る前に机を綺麗にしたいから、できれば職員室か用務員室に行って消毒用のアルコール貰って来てくれないか?」
「わ、分かった!」
滝川さんは心配そうな表情で慌てて教室を飛び出した。
さて……水拭きでどこまで落ちるか分かんねーけど、やるだけやってみるか。
俺は掃除用具入れから雑巾とバケツを取り出し、バケツに水を汲んでくると、雑巾を絞って机を拭く。
チクショウ……油性マジックで書かれてるから、全然落ちねえ……!
それでも、俺は力を入れて必死に雑巾をこすると、少しだけど字が消えた。
よし! もっと強く……っ!?
「あ……」
「…………………………」
見上げると、四条が唇を噛みながら無言で立っていた。
クソッ……! 何とか来るまでに終わらせたかったのに!
「し、四条、その……」
「ふふ、別に学校で過ごす分には問題ありませんから、そんな必死に落としてくれなくてもいいんですのよ……?」
四条はそう言うと、ニコリ、と微笑んだ。
だけどその瞳には、うっすらと涙を湛えていて……!
だから。
「嫌だ。これは俺が絶対に落とす」
「ですが、油性マジックなんですから、いくら雑巾で水拭きしたところで……「それでも! ……それでも、俺は落とす。つか、そうじゃないと俺が嫌なんだよ!」」
四条の言葉を遮り、俺は必死で机をこする。
彼女も、それ以上は何も言わなかった。
「倉本クン! もらって来たよ!」
「悪い! サンキュー!」
滝川から消毒用アルコールを受け取り、俺はそれを机に振りかけて雑巾でこすると……よし! 綺麗に落ちる!
俺はそれを何度も繰り返すと、四条の机はむしろ落書きされる前よりも綺麗になった。
ハハ、皮肉もいいとこだ。
「ふう……」
俺は額の汗をグイ、と腕で拭う。
「本当に……あなたって人は……!」
「はは、綺麗になったな」
「はい……!」
瞳の涙を指で掬いながら、四条は今度こそ心から微笑んでくれた。
よかった……どうやら俺は、四条の笑顔を失わずに済んだみたいだ。
「はは、滝川さんもサンキューな!」
「そ、そんなのお安い御用だし! だって、桐華はウチの大切な友達だもん!」
「アリサさん……ありがとう、ございます……!」
タイムリープ前の滝川は、あれだけ四条をイジメていたけど、この世界では四条の友達で、強力な味方になってくれた。
それだけでも、俺は未来を変えて良かったと心から思えた。
――キーンコーン。
すると、ちょうど良いタイミングで朝のチャイムが鳴った。
「はは、んじゃ、席に座ろうぜ!」
「はい!」
「うん!」
俺達はスッキリした気分で席に着いた。
……まあ、こんな真似した奴にはキッチリ落とし前をつけさせるけどな。
◇
放課後になり、クラスのみんなが帰り支度を始める。
もちろん、この俺も。
結局、落書きをした犯人は見つからなかった。
俺と滝川でクラスの奴全員に聞き取りをしたが、全員『知らない』の一点張りだ。
まあ、バカ正直に話す奴がいるとも思ってないけど。
ただ、共通していることは、みんなが今日の朝になってあの落書きに気づいたってことだ。
「まあ、昨日は日曜日だったから、いつのタイミングで書いたのか分からねーんだよなあ……」
俺はポツリ、と呟く。
でも……落書きした奴は、今後も同じことを繰り返すだろう。
だから、捕まえるチャンスはまだある。
「見てろよ……こんな真似したこと、絶対に後悔させてやる……!」
拳を握りしめ、そう意気込んでいると。
「…………………………(ジー)」
おおっと、四条が何か言いたそうにこちらを見ていらっしゃる。
「お、どうした?」
「あ、い、いえ、その……倉本さんは今日はアルバイトに行きませんの?」
「俺? もちろん行くけど?」
つか、あそこはただでさえ従業員もバイトも少なくてカツカツなんだ。俺が抜けた瞬間、修羅場確定だからな。休めねえ……。
「そ、そうですの……」
「お、何だったら四条も来るか? アイスティーくらい奢るぞ?」
「あ……ふふ、なら行こうかな……」
「おう、来い来い」
ということで、俺は四条と一緒にバイト先のワックに向かうことになった。
「ほい、四条」
「ふふ、ありがとうございます」
テーブルの上に参考書とノートを広げる四条に、俺はアイスティーの入ったカップを手渡した。
つか、四条って真面目だよなあ。
俺なら絶対勉強なんか……って。
「そういえば四条は大学とか考えてる?」
「私ですか? もちろん考えてますわよ?」
「だよなあ……」
しかも、四条だったらものすごく偏差値の高い有名大学とか狙ってそう。
こ、これは俺も今から本腰入れたほうが……。
「ふふ、もしよろしければ、私が勉強を教えてあげましょうか? このアイスティーのお礼として」
どうやら俺の考えを読まれたみたいで、四条はクスクスと笑いながらそんなことを提案してくれた。
「おお! んじゃ、頼む!」
もちろん俺としても願ったりかなったりで、即座にお願いした。
「ええ、任せてください! ……ただし、私は厳しいですわよ?」
「ヒイイ」
……お、お手柔らかにお願いします。
◇
――ピリリリリリ。
夜の十時をちょうど回ったタイミングで、俺のスマホが鳴る。
まあ、アイツからだろうけど。
俺はスマホを手に取ると、通話ボタンをタップする。
「もしもし」
『やあ同志!』
電話の相手は、君島だった。
「おう。それで、どうだった?」
『うん……滝川さんと十八時頃まで見張ってたけど、誰も来なかったよ』
「そっか……」
実は君島と滝川には、俺の代わりに教室を見張ってもらうよう頼んでおいた。
まあ、滝川も君島と一緒にいられるんで喜んでもいたし、ウィンウィンだ。
だけど、放課後じゃないとなると……。
「助かったよ、君島」
『なあに、四条同志のピンチなんだ。これくらい任せてよ』
「おう。んじゃ、滝川にもお前からお礼を伝えておいてくれ。今すぐ」
『な、なんで僕が!?』
「や、そのほうが俺の感謝の気持ちが伝わるから」
俺はそう言ってからかうと、通話を切った。
「さて……それじゃ、明日は早起き確定だな」
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




