最悪の始まり
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その後も色んなアトラクションで遊び尽くしていると、もう西の空が赤く染まり始めていた。
「うーん、そろそろ引き上げ時かなあ」
俺は軽く伸びをしながらそう呟く。
「そうですわね。帰りの時間を考えますと、遊べてもあと一つくらいでしょうか?」
「そうだねー」
四条と滝川もおおむね同意みたいだな。
「クク……『甘エンオールスターズ』のショーも観れたし、僕は大満足だよ」
まあ、お前はそうだろうな。
そして安心しろ、俺も同じだ。
「んじゃ、最後はアレにしよーぜ」
俺は遊園地の中でジェットコースターと同じ位高くそびえ立つアトラクション……観覧車を指差した。
「あ、い、いいんじゃない?」
そんな俺の提案に、滝川はすかさず賛成した。
そりゃ滝川としたら、君島と最高のシチュエーションで今日を締めくくりたいだろうしな。ナイスアシスト、俺。
「みんなもそれでいいか?」
俺は三人に問い掛けると。
「クク……もちろんだとも」
「ふふ、まあいいですわよ?」
「アタシも!」
うむうむ、全員オッケー、と。
「それじゃ、行こうぜ」
俺達は観覧車の乗り場へと向かう。
――ピリリリリ。
「お、誰か電話鳴ってるぞ?」
「あ、アタシだ……」
優奈はカバンからスマホを取り出して画面を見る。
「あー……アタシ、ちょっと電話してくるから、悪いけどみんなだけで観覧車に乗ってくれるかな……」
「え、そうなの? つか、優奈が電話終わるまで待ってるけど?」
「あー、うん。ちょっと長くなりそうだし……」
「ふーん、そっか」
優奈は申し訳なさそうな表情で、俺達から離れて行った。
「んじゃ、しょうがねー。この四人で行くかー」
ということで、俺達は観覧車乗り場に着いた。
もう夕方ってこともあるのか、並んでいる客も少なく、ほんの数分で乗れそうだった。
「ふふ、じゃあこの四人で乗るんですわよね!」
「や、違うぞ?」
嬉しそうに意気込む四条に、俺は釘を刺す。
そんなことしたら、せっかくの滝川の計画が台無しになるだろ。
「あ、あー……そうですわね」
どうやら察した四条が頷いた。
「つー訳で、俺は四条とサファイアエンジェルについて語り合うから、悪いけど滝川は君島とペアな」
「え、そ、そう? それだったらしょうがないなー」
そう言って、滝川は頬を赤くしながらチラチラと君島の顔を窺う。
「僕もそれでいいよ。滝川同志、よろしくね」
「う、うん……」
君島に笑顔を向けられ、恥ずかしくなった滝川は俯いてしまった。
といっても、口元はゆるっゆるだけどな。
「じゃあ、君島と滝川が先に乗りなよ」
俺達の番になり、二人に先に乗るよう勧めると、滝川が嬉しそうに乗り込んで行く。
後に続く君島も、どこか嬉しそうだった。
お、これは案外……。
「さあ、次は私達の番ですわよ!」
「お、おお」
次のゴンドラもすぐにやって来て、俺達も中に乗り込んだ。
そして、ゴンドラがゆっくりと上がっていく。
「ふふ……今日は楽しかったですわね」
「おう、そうだな」
微笑む四条に、俺はサムズアップで返した。
「それにしても、あの二人も上手くいくといいですけど……」
「気づいてたのか?」
「もちろん! アリサさんのあの態度を見れば、すぐ分かりますわ!」
ま、だよなあ。
「でも、君島だってまんざらじゃなさそうだぞ?」
「え、そうなんですの?」
「おう。アイツもアイツで、そんな感じだった」
「ふふ、良かった」
四条は本当に嬉しそうに笑う。
こんなに友達想いで、世話焼きで、笑顔が可愛くて……ハッキリ言って、俺からすれば嫌われる要素なんか何一つ見当たらない。
なのにタイムリープ前、四条はあんな陰湿なイジメに遭って……。
「ねえ、倉本さん」
「はえ!? お、おお、どうした?」
四条のことを考えていた時に彼女に声を掛けられ、俺は変な声を出してしまった。
「……倉本さんは、どうしてこんな“悪役令嬢”なんて呼ばれているような私に、そんなに優しくしてくださるのですか……?」
居住まいを正した四条が、真剣な表情で俺を見つめ、問い掛ける。
「……一つは、俺がもう後悔したくないから」
俺はポツリ、とそう呟く。
そうだ。俺はもう、タイムリープ前みたいな無関心な傍観者はやめるって……そして、彼女をあんな目に遭わせないって誓ったからだ。
「一つ、ってことは、まだあるんですの……?」
俺はコクリ、と頷く。
でも。
「あと一つについては……うん、また今度、な」
今はまだ、四条に言えない。
四条がもうあんな目に遭わないって確信が持てた時、その時は彼女に伝えよう。
俺は……四条桐華が好きだ、って。
タイムリープ前も、本当はずっと彼女のことが気になっていた。
でも、あの時の俺はそれを言う勇気がなくて。
四条へのイジメに、関わる勇気がなくて……。
だから。
「四条……その時は、必ず伝えるよ。それまで……待っていて、欲しい」
これは、今の俺が言える精一杯の告白。
いつか、お前に胸を張れる、そんな自分になれるまでの、今の俺の精一杯。
「はい……はい……! 今は、その言葉だけで充分です……!」
見ると、四条は微笑みながら涙を零していた。
多分、俺の言葉の意味を少なからず理解してくれたんだと思う。
そして……この二度目の世界でも、四条はやっぱり俺のことが好きなんだって……そう確信した。
◇
「じゃあ、お疲れー!」
「おう、お疲れさん!」
「また明日! 学校で!」
「クク……また明日、同志」
「あはは、じゃあね」
「ふふ、お疲れ様でした」
みんな思い思いに別れの挨拶をすると、帰路についた。
意外だったのは、君島が滝川を送っていくって言い出したことだな。
これは、明日にでも君島に問い質さないと。
俺は口元を押さえながらほくそ笑む。
そして……四条。
あの観覧車で見せてくれた、笑顔と涙。
それが、俺の頭の中にしっかりと焼き付いている。
「ははっ!」
俺は嬉しくて、つい笑い声を漏らしてしまう。
明日が待ち遠しくて仕方がない俺は、家に帰るといつもより早く寝た。
早く寝たら、少しでも早く四条に逢えるって思ったから。
ま、そんなことはないんだけど。
案の定、俺は次の日にいつも通りの時間に起きて、いつも通り学校に向かう。
だけど……俺の浮ついた心は、教室に着いた途端、一瞬で凍り付いた。
だって。
――四条の机に、心無い落書きがびっしりと書かれていたんだから。
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次回は明日の夜更新!
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