お化け屋敷
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「やあ、みんなも今昼ご飯なのか?」
俺達が買い食いしながら昼メシを楽しんでいたところに、招かれざる益村のヤロウが現れた。
つかコイツ、ひょっとして俺達の後でもつけてんじゃねーのか?
「ハハ、俺達も今から何か食べようって言ってたところなんだけど、良かったら……「や、だから一緒に行動しねーって、最初に言ったよな?」」
相変わらず合流したがる益村に、俺はハッキリと拒否の姿勢を示す。
コッチはコッチで楽しんでんだから、わざわざ輪を乱すような真似すんのはやめろよなー。
「……それはみんなの意見なのかい?」
ジト目で俺を睨みながら尋ねる益村。
や、だからみんなの総意だっただろーが。オマエも見てただろ。
つか。
「なあ益村。なんでそんなに俺達と合流したがるんだ?」
「……どういう意味だ?」
どういう意味だ、って……そのまんまだろ。
だけど。
「俺の推理を言ってもいいのか?」
「…………………………」
「ハア……無言は肯定と取るぞ。じゃあ……「わ、分かった。俺達はもう行くよ」」
俺が言ってやろうとすると、益村は慌てて俺の言葉を遮り、この場を離れて行った。
「同志よ」
「? どうした?」
「今言った、同志の推理というのは一体なんだい?」
意外なことに、君島が興味を持った。『甘エン』ネタじゃないのに。
「や、大したことじゃねーよ。要は、益村が俺達と合流したがるのは、四条か優奈か滝川か、この三人の誰かが好きなんじゃねーかなって思っただけだよ」
「「「っ!?」」」
俺の言葉に、三人が思わず息を飲んだ。
や、普通に考えればそれくらいしか理由ねーだろ。
「まあ、ストーキングするくらい好き過ぎるのもどうかと思うけど」
そう言ってみて、俺は気づく。
ひょっとして、益村の奴が四条をイジメていたのって……。
「……ハア、なんだよソレ。小学生かよ……」
その考えに思い至り、俺は溜息を吐いて思わず額を押さえた。
要は、四条のことが好きな益村が、彼女に構って欲しくてイジメてたってことかー……。
まあ、ひょっとしたら別の理由があるかもだけど、一連の行動を見るとその可能性が高そうだ。
「そ、それは困りましたわね……」
などと俺が考えていると、四条が困惑した表情を浮かべていた。
その様子は、嬉しいとか恥ずかしいとかいうより、迷惑って感じが見て取れる。
「ウ、ウチも……」
滝川はそうだろうよ。
お前の本命は、隣にいる君島なんだからな。
「…………………………」
で、優奈の奴は何故か唇を噛んで俯いている……って、ひょっとしてまさか!?
でも……そう考えると、コイツの行動にもそれなりにつじつまが合う。
とはいえ。
「まあ、益村がどう考えてようが、今の俺達の至上命題はこの遊園地で遊び尽くすことだ。アイツのことは放っておこうぜ」
「賛成ー!」
「そうですわね」
「クク……もちろん僕も同じ意見だよ」
「そ、そうだね……」
少し表情が暗い優奈以外は、俺と同意見のようだ。
「おっし! んじゃ、腹も膨れたし、またアトラクション回ろうぜ!」
「「「おー!」」」
◇
「クク……同志、やっと二人きりになれたね」
「や、俺は二人きりを希望してないんだけど」
お化け屋敷の暗闇の中、俺と君島はそんなことを言いながら進んでいる。
つか、グーパーで組み分けしたらこうなっちまったんだよなー。
お陰で滝川の奴、俺を恨みがましく俺を睨んでやがった。不可抗力だろ。
「クク……『甘エン』のキラキラシリーズにあった、夏祭りのお化け屋敷イベを思い出さないかい?」
「や、思い出さねーよ」
つか、何でもかんでも『甘エン』に結びつけるのやめろよな。
まあ、何にでも結びつくほど、『甘エン』が長く愛されてきた証拠ではあるけれど。
でも……四条の奴、大丈夫かなあ。
アイツ、お化け屋敷に入る前。
『だだだ、大丈夫ですわよよよ! オオ、オバケなんて所詮は遊園地のスタッフですのよ! ええ! 私は知ってますから!』
などと、メッチャ声を震わせながら訳の分からないこと言ってたからなあ。
まあ、優奈と滝川がいるから、大丈夫だとは……「イヤアアアアアアアアア!?」……って、今の四条の叫び声じゃね!?
「オ、オイ! ちょっと急ごうぜ!」
「う、うん」
俺は君島を急かし、俺達の前を行っている四条達に合流しようと駆け足で進む。
すると。
――ドン!
「グハッ!?」
突然、俺の鳩尾に衝撃が走る。
見ると。
「アアアアアアアアア……怖い……怖いいいいいい……!」
身体を思いっ切り震わせ、四条が腰が砕けながら俺にしがみ付いていた。
つか……下向いて走ってやがったモンだから、鳩尾に思いっ切り頭突きされた……。
「し、四条、大丈夫だから……」
俺は鳩尾の痛みを必死で堪え、震える四条の背中を優しくさすった。
「あうううううううう……あ、倉本さん……!」
おそるおそる顔を上げた四条が、俺の名前を呟いた。
四条は今にも泣きそうな表情で、俺の顔を見つめる。
「おう……今、俺がサッサとここから出してやるからな」
そんな四条の頭をポンポン、と撫でてやると。
「ホレ、四条」
俺は四条に背中を向けてしゃがんだ。
「え……倉本、さん……?」
「おう、俺の背中におぶされ」
そう言うと、四条はオロオロしながらも、俺の首に腕を回しておぶさった。
「よし」
俺は四条を背負って立ち上がると。
「君島、んじゃ先行くわ」
「あ、うん」
キョトン、とする君島を置き去りにし、俺はお化け屋敷の中を一気に走る。
「わ、わ!」
「目を瞑って、舌噛まないようにシッカリ口閉じてろよ!」
オバケのトラップを一気に走り抜けると。
「あ、か、かっちゃん!?」
「桐華!?」
俺達を見て驚く優奈と滝川。
でも、今はそれどころじゃない。
だって、四条が今にも泣いてしまいそうなんだから。
そして、そのまま駆け抜けた俺は、お化け屋敷を脱出した。
「ハアッ……ハアッ……!」
四条を降ろし、俺は地面に膝をついた。
や、おんぶしてダッシュはさすがにキツイな……。
すると。
「そ、その! あ、ありがとう、ございます……」
すっかり落ち着いた四条が、恥ずかしそうにしながらお礼を言った。
「はは、まあ苦手なモンもあるさ。俺のジェットコースターみたいに」
「あ……ふふ」
俺はおどけながらそう言うと、四条がはにかむ。
「でも……やっぱり数馬くん、だな(ボソッ)」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、なんにも!」
四条は、最高の笑顔を見せた。
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次回は明日の夜更新!
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