悪役令嬢の過去①
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■四条桐華視点
私が倉本さん……“数馬”くんと出逢ったのは、小学四年生の時。
その頃は両親が離婚し、私はお母さんに引き取られて別の街に引っ越したばかりだった。
そして、私は新しい学校に馴染めず、同級生からイジメを受けていた。
私も引っ込み思案の性格だったから、そのイジメにもただ黙って受け入れ続けていた。
家に帰っても、生活のためにお母さんは夜遅くまで働き続けており、ほとんど顔を見ることもなかった。
だから、イジメについて相談することもできず、私はずっと独りぼっちで過ごしていた。
そんなある日の朝、私は憂鬱な気分のままいつものように学校に登校すると、机には心無い落書きが目一杯書かれていた。
それを見た私は、とうとう我慢できなくなって学校を飛び出した。
もう、こんな毎日は嫌だ!
私は、何も悪くないのに!
学校ではいじめられ、家に帰っても独りぼっち。
「もう……やだよお……!」
泣きながら私は行く当てもなくさまよい続け、気がつけば知らない街に来ていた。
帰り道も分からず、オロオロとしていた私。
でも、それと同時に、このまま行方不明になったら、お母さんが心配して探してくれるかも……そんな淡い期待もあった。
だから、私は近くにあった公園のブランコに揺られながら、ただボーッと過ごしていた。
「お腹、空いたなあ……」
太陽が低くなり、もうすぐ夕方になりそうな時間帯。
学校を飛び出した私は、当然お昼ご飯も食べてなくて、お腹を押さえて空腹を我慢していたのを覚えてる。
その時、公園の前をランドセルを背負った小学生が、楽しそうに歩いているのを見かけた。
もう、下校の時間なんだろう。
私はプイ、とそんな小学生達から顔を背けた。
違う学校だからっていうのもあるけど、またイジメられたらって思ったら怖くなってしまったのだ。
しばらくやり過ごし、下校する小学生達の姿も見なくなった。
私はホッと胸を撫で下ろし、また寂しくブランコに揺られる。
だけど。
「なあなあ。お前、この辺の奴じゃないよなあ?」
「っ!?」
後ろから声を掛けられ、私は身体を硬直させる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!?
パニクったまま、私はおそるおそる振り返ると……。
そこには、私と同い年くらいの男の子と少し年下の女の子が、手をつなぎながら私を見ていた。
「なあ、この近所じゃないんだったら、早く家に帰らないと怒られるぞ?」
「あ、あう……」
男の子の指摘に、私は言葉を詰まらせた。
……家に帰ったって、どうせお母さんは仕事でいない。
学校から連絡だって行ってるはずなのに、全然探している気配もない。
そう考えたら、急に悲しくなって、そして……。
「う」
「う?」
「うわああああああん……!」
私は、声を出して泣いてしまった。
「オ、オイ!? どど、どうしたんだよ!?」
「お姉ちゃんどうしたの!?」
二人が慌てて私に駈け寄り、オロオロしながら心配そうに声を掛ける。
その様子から、この二人が悪い子達じゃないってことは分かったけど、今まで我慢してたものが一気に出てしまったから、涙が全然止まらない。
「あああああ!? と、とりあえず落ち着けって! な!」
男の子が私の背中を優しくさする。
こんなに親切にされたの……誰かに構ってもらえたの、久しぶり……。
「ぐす、ひっく……!」
しばらく泣き続け、ようやく落ち着いた私は、ゴシゴシと手で涙を拭う。
「お、落ち着いたか……?」
「ぐす……う、うん……」
「はああああ……良かったよ……」
心底安堵したのか、男の子は思い切り肩を落として息を吐いた。
「それで……そんなに泣いてたってことは、ひょっとして迷子か?」
「すん……あ、あう……」
どう答えたらいいんだろう……。
迷子でもあるし、でも、泣いた理由はそれじゃないし……。
「ま、まあ、だったらとりあえず俺達の家に来いよ。な?」
私の顔を覗き込みながら、男の子がそう提案すると。
「…………………………(コクリ)」
何故か私は、素直に頷いてしまった。
……ううん、違う。
男の子の優しい眼差しが嬉しくて、私は甘えたんだ。
◇
「ここが俺達の家だ!」
男の子……“数馬”くん達の家は、マンションの三階の、一番奥の部屋だった。
「お、おじゃまします……」
私はおずおずと家に上がる。
「おう! んで、リビングはコッチな!」
「あ……」
男の子は私の腕を引っ張りながら、リビングへと案内する。
「まあ、ソファーでも座っててくれよ!」
「う、うん……」
言われるがまま、私はソファーへと座ると、女の子……“佳代”ちゃんが私の隣に座った。
「ねえねえ、お兄ちゃん! 『甘エン』観てもいい?」
「おう、いいぞー」
「えへへ、やったー!」
佳代ちゃんは嬉しそうにテレビのリモコンを取ると、ビデオ画面に切り替え、再生ボタンを押した。
すると……画面に映し出されたのは『魔法少女スイートエンジェル』だった。
『うふふ……ダイヤモンドエンジェル、ガーネットエンジェルも、この私、“リージュ”にかかれば大したことありませんわね?』
敵の幹部がスイートエンジェルの二人を捕え、高飛車に笑う。
「あー! 二人共がんばれー!」
佳代ちゃんが拳を握りしめ、必死で応援している。
何だか可愛い。
「ホレ」
いつの間にか傍に来ていた数馬くんが、テーブルにジュースとお菓子を置いてくれた。
私はお腹が空いていることもあり、ゴクリ、と唾を飲み込む……って、その前にお礼を言わないと。
「あ、ありがとう……」
「はは、いいっていいって!」
手をヒラヒラさせる数馬くんに、私はクスリ、と笑うと、早速お菓子を口に入れた。
「美味しい……」
「そうかそうか、おかわりもあるから遠慮なく言えよ!」
「うん……」
私ははしたないと思いながらも、夢中になってお菓子を食べる。
しかも、お菓子がなくなるタイミングを見計らって、数馬くんがお菓子を追加してくれるから、ついつい手が伸びてしまった。
ま、まあ、お昼ご飯食べてないし、しょうがないよね……。
「それで、何で迷子になったんだ?」
ようやくお腹が落ち着きを取り戻したところで、数馬くんが尋ねた。
「あ、う、うん……」
私は思わず言い淀む。
だって、イジメのショックで学校を飛び出したなんて言いづらいし、それに……。
「はは、口に出して言ったほうが、楽になることもあるぞ?」
「あう……」
私を見つめる数馬くんの瞳は、相変わらず優しい。
数馬くんなら……言ってもいい、かな……。
気づけば、私は訥々と話し始めていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜更新!
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