初恋の人
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「し、四条!?」
振り返ると、そこには頬をプクー、と膨らませた四条が立っていた。
だけど……ど、どうしよう、まともに四条の顔が見れない……。
や、だって、滝川にあんな話聞かされて、実は四条が既に俺のことが好きだなんて分かっちまったら、タイムリープ前の告白がどうしても頭をよぎる訳で……。
「へえ……倉本さんはアルバイトがない日は、こうやって他の女子と一緒に過ごすのがご趣味なんですのね」
「っ! ち、違う! 違うから!」
四条の辛辣な言葉に、俺はそれを慌てて否定する。
だって、そんな風に四条に思われたくないから。
「……どうなんでしょうか? 始業式の日も、そうやってたまたま隣の席にいた私に声をかけたのでしょう? 都合が良かったから」
「っ! そんな訳ないだろう!」
気がついたら、俺は店の中で声を荒げていた。
四条の言葉が、事実じゃないから。
俺の想いを、四条がそんな風に受け止められていたのかと思い、悲しくなったから。
「ちょっとアンタ……それはないんじゃないの?」
すると、滝川が俺達の間に割り込んで四条に食って掛かった。
「あなたには関係のないことです」
「フザケンナ。アンタ、倉本クンの気持ち、考えたことあんの?」
「お、おい!?」
ちょ、ちょっと滝川!? 何を言おうとしてんの!?
「倉本クンはねえ、親身になってウチの相談に乗ってくれて、オマケにアンタのことだって気にかけてたんだよ? なのにアンタときたら、勝手にヤキモチ焼いてバカじゃないの?」
「っ!?」
や、お前だってほんのちょっと前まで、四条が君島のこと好きだって勘違いしてたじゃねーか。
お前のその台詞、まんまブーメランなんだけど。
「全く……とにかく、ウチと倉本クンは別に何かある訳でもなんでもないから。それより、そんな態度じゃ倉本クンに本気で嫌われるんじゃナイ?」
そう言い放つと、滝川がフン、と鼻で笑った。
いやいやいや、俺と四条の仲がこじらせるような真似ヤメロよ!?
「……失礼します」
そう言い残すと、四条は唇を噛みながら店を出て行ってしまった。
「ちょ、ちょっと滝川さん!? 何ケンカしちゃってんの!?」
「ハア? そんなの、アイツが変に拗ねておかしなこと言うからじゃん。それに、誤解が解けたからって別にアイツと仲良くする訳じゃないし」
ぐ、ぐむ……滝川にしては正論だ……。
「ま、だからってウチもアイツの邪魔までする気はないけどさ。とりあえずは、中立でいさせてもらうから」
「?」
コイツ、中立って一体何を言ってるんだ?
「それより、あの約束絶対だからね!」
「お、おう……今日はサンキューな」
「うん。それじゃ、ウチももう行くね」
そう言うと、滝川も紙コップをゴミ箱に捨てて店を出て行った。
「修羅場! 修羅場!」
「……うるさいですよ、久遠さん」
そして、カウンターの陰に隠れながら修羅場コールをしていた久遠さんを、俺はジト目で睨んだ。
◇
「ただいまー」
「あ、兄貴、おかえりー」
家に帰ってリビングに行くと、ソファーで寝そべりながらスマホをいじりながら佳代が返事した。
「あ、そうだ。お母さんが『今日は晩ご飯用意できないから、“アルル”で済ませて』だって」
「へえー」
そうか、それじゃ久しぶりにセンパイの顔でも拝むとするかあ……。
「あー、兄貴鼻伸ばしてるし」
「うるせー」
チクショウ、別にセンパイに憧れ抱くくらいいいだろ。
何つっても、俺の初恋の人なんだから。
という訳で、俺はサッサと着替えを済ませると。
「よっし、んじゃ行くか」
「ねーねー。この前の約束、忘れてないよね?」
「約束?」
はて……何か約束なんかしたっけ?
「はあ……忘れてるし……」
「?」
「私の入学式の日、『アルルでデラックスパフェ奢る』って言ったよね?」
「あー、そういえばそうだったな」
そうだそうだ、俺が四条が生きてるか確かめたくて、佳代を置き去りにして学校に行ったんだった。
今から考えれば、普通に佳代と一緒に行けばよかったなあ、と後悔している。
「思い出した?」
「おう。ちゃんと奢ってやるから安心しろ」
「えへへー、やった!」
おーおー、はしゃいじゃって。
高校生になってもお子ちゃまなところは相変わらずだな。
で、俺達が家を出てから歩いて十分。
住宅街の真ん中にある喫茶店、それが“アルル”だ。
——カラン。
「いらっしゃいませー……って、あは! 二人共久しぶりだし!」
「ご無沙汰してます、センパイ」
実は、この喫茶店には俺の憧れで、初恋の女性……“萩月しゆの”センパイがバイトしている。
俺と佳代は挨拶もそこそこに、いつもの席に座ると。
「そういえば、佳代っちもアタシと同じ高校に入学したんだっけ?」
「えへへー、そうなんです」
「あは! じゃあ佳代もアタシの後輩だし!」
そう、俺も佳代も、センパイと同じ高校を選択した。
センパイはもう二十歳だし、俺とは絶対にかぶることはないんだけど、それでも、センパイの後を追って今の高校にしたんだ。
佳代も佳代で、センパイのことが好きだから同じ高校を選んだらしいし。
「ええと、それじゃ俺はAセットで。佳代は?」
「私は玉子サンドとデラックスパフェ!」
「あは! 了解!」
センパイはカウンターへと戻ると、マスターにオーダーを伝える。
その際に、いつものようにマスターの娘さん……まあ、あの人も僕達の先輩ではあるんだけど、その人が先輩に絡んでいた。
その時。
——カラン。
「いらっしゃ……塔也!」
店の扉を開けて入ってきた男の人……センパイの恋人、“池田塔也”さんだった。
センパイは、塔也さんを見るなり、蕩けるような笑顔で出迎える。
はは……そうだった。俺はセンパイのあの笑顔を見て、完全に諦めたんだったな……。
「? お兄ちゃん?」
「ん? おお……や、何でもねー」
「?」
不思議そうに俺を見る佳代に苦笑すると、自分の気持ちを誤魔化すように水を口に含んだ。
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