嫉妬と勘違い
ご覧いただき、ありがとうございます!
「……誰にも、言わない?」
滝川が観念するような、それでいて縋るような瞳で俺を見ながら、そう呟いた。
「! ああ、もちろんだ! 約束する!」
よし! 君島には悪いが、コッチは四条の命が掛かってんだ! おとなしく犠牲になってもらうぞ!
「……そ、その……」
滝川は、訥々と話し始めた。
君島とは同じ中学出身で、中二の頃からずっと好きだったこと。
今の高校も君島の志望校を調べて、僅かに自分の学力ではランクが高かったものの必死で勉強して入学したこと。
君島の好きなキャラが、ちょっとギャルの入ったジルコンエンジェルだったことから、少しでも気を引こうと高校入学を機にギャルになったこと。
……つかコレ、ほとんどノロケじゃね?
「……一年の時、いつものように廊下から君島クンとアンタがクラスで楽しそうに話してるのを眺めてたら、あの女が同じように廊下から二人を眺めてたのよ」
「……へ?」
俺は思わず気の抜けた返事をした。
滝川の行動もメッチャ気になるが、とりあえず今は置いといて……。
「四条が……俺達を見てた?」
「そうよ……アイツ、よりにもよって君島クンに目をつけるなんて……!」
お、おおう……まさかの嫉妬から四条に絡んでたとは……。
「な、なあ、念のため確認するけど、それってただの見間違いじゃないのか?」
「っ! そんな訳ない! だって、アイツのあの目は、絶対に君島クンに惚れてる目だったし!」
や、んな訳ねーと思うんだけど……。
だってあの日、四条は確かに俺のことを好きだって言ってくれた。
つまりそれは、君島のことが好きじゃなかったってことだ……って、アレ?
ひょ、ひょっとして、一年の頃から四条は俺のことが好きだったってこと!?
「あうう……」
「……なんでアンタ、急に顔真っ赤にしてんの?」
思わず呻き声を上げた俺を、滝川がジト目で睨んだ。
や、そりゃそんな新事実を知らされたら、そうなっちまうのは仕方ないだろ……。
「と、とにかく、四条が君島のことを好きだってことはない! 断じてない! 絶対にない!」
「嘘よ! だって四条の奴、あんなにニチアサ魔法少女の話で君島クンと盛り上がってたし! アレだって彼の気を引くためにあざとい真似した結果だし!」
や、それこそ大間違いだと思うんだけど……。
「マテマテ滝川さん、四条は君島とのファーストコンタクトの前から、『甘エン』マエストロだぞ?」
「…………………………は?」
呆けた表情の滝川に、俺はかいつまんで説明する。
始業式の日、俺と四条が親睦カラオケを蹴って二人でカラオケ行ったこと。
そこで、四条は終始歴代『甘エン』シリーズのテーマソングを歌い続けていたこと。
さらには、全ての曲においてサファイアエンジェルの決めポーズをしていたこと。
「……オマケに、四条が『甘エン』マエストロだってこと、君島が知ったのは昨日だ」
「う、嘘……」
や、俺も四条のそんな事実を知った時は、嘘って思ったよ。
だけど、同じ『甘エン』マエストロだから分かる。
アレは……ガチ勢だ。
「まあ、そういう訳で……四条は滝川さんのライバルではないんだよ」
「…………………………」
ふう……つか、それで四条のことイジメてたのかよコイツ……。
嫉妬って、怖えなー……。
「で、でも! それだけじゃなくてウチは聞いたし! 四条が君島クンに気があるって!」
「はあ? 誰がそんな嘘言ったんだ?」
「そ、それは……」
そう言うと、滝川が口をつぐむ。
よし、もう一押し。
「……この際だ。滝川さんがそれを明かしてくれたら、グループって形だが君島と一緒に遊びに行くような機会をセッティングしよう」
「っ! ホ、ホントに!?」
「ああ……さらに、君島と二人っきりになれるよう、俺が全力でバックアップする。どうだ?」
フフフ……ここまで提示してやったんだ。半分ヤンデレ入ってる程君島が好きな滝川としては、これに乗る以外の選択肢はあるまい。
「ぜ、絶対にウチが言ったってバラさないでよ……?」
「もちろん、約束だ」
よし!
俺はテーブルの下でガッツポーズした。
「それで、ソイツの名前は?」
「そ、それは……」
滝川は一瞬躊躇するような仕草をした後、俺を真っ直ぐに見据えた。
「……“益村……憲治”……」
へえ……裏であの男が手を引いていたのか。
全く、爽やかなフリして、やることが陰湿だなあ……。
「……そっか、ありがとな」
「そ、それで! 本当にウチに協力してくれるんだよね!」
「おう! 任せろ! 何なら今度の日曜日にだってセットしてやるぞ!」
そう告げると、滝川がぱあ、と満面の笑みを浮かべた。
コイツ……よっぽど君島のことが好きなんだなあ……。
「しっかし滝川さんも、そんな益村の話なんか、簡単に信じるなよな……」
「え? どうして?」
「や、考えてもみなよ。そもそも四条はあんなキャラだから、アイツと仲良い奴なんて俺くらいしかいねーんだぞ? じゃあなんで、益村の奴が四条の好きな相手を知ってるんだよ」
「あ……」
そう。つまり、益村は最初から四条にヘイトを集めるために、滝川にそんな適当なことを言ったってことだ。
……益村の目的が何なのか、それが次に俺が調べるべきこと……だな。
「まあ……約束の件は期待しててよ」
「ホ、ホントだかんね! 絶対だし!」
滝川は瞳をキラキラさせ、俺の手をギュ、と強く握った。
ちょ、ちょっと怖い……。
「……へえ、仲がよろしいんですのね」
「へ……?」
凍えそうな程冷たい声が聞こえ、俺はおそるおそる振り返ると。
「し、四条!?」
……そこには、頬をプクー、と膨らませた四条が立っていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!