また、来ますね
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「いらっしゃ……って、優奈!」
「ヤッホー、かっちゃん!」
ただでさえ君島のせいで頭を抱えている中、今度は優奈の奴まで店にやって来た。
しかも、あの滝川アリサと一緒に。
その上滝川の奴、ジッとこちらを睨みつけてやがるし……。
「はあ……それで、なんで優奈はわざわざ俺のバイト先までやって来たんだ?」
俺はジト目で睨みながら優奈に尋ねる。
「えー、アタシは別に滝川さんと親交を温めに来ただけだもん。ねー」
「そーそー、別にアンタに関係なくない?」
コ、コイツ等……どの口で言ってやがるんだ!?
店に入ってきた時の態度といい、あからさまだったじゃねーか!
オマケに。
「…………………………」
滝川め、そんなに四条を睨みつけやがって……。
「ハイハイ、客だってんなら早く席取って注文してくれ。ああ、この辺りは今俺が清掃中だから、座るんなら向こうへどうぞ」
俺はビッ、と奥の空いている席を指差す。
つか、四条の傍に座られたら、絶対に揉めそうだからな。
「もー! あんなとこじゃ、かっちゃんが真面目に仕事してるか見れないじゃん!」
優奈よ……お前は何を言ってるんだ?
何で俺がお前に監視されながら仕事しにゃならんのだ……って。
ああ……そうか……。
タイムリープ前、四条がいつもこの席に座っていたのは、そういう……。
「……はは」
俺は思わず乾いた声で薄ら笑いを浮かべた。
本当に、俺は……。
「かっちゃん?」
「え? ……ああいや、何でもない」
「?」
不思議そうに俺を見る優奈に適当に相槌を打つと、俺はまたテーブル拭き……の前に。
「ああ、君島。お前も優奈達と一緒に向こうの席に行けよ」
「む、何故だい同志。僕はまだ四条同志と話が……」
「バーカ、真面目に見て分かんねえのかよ。四条は今勉強中なんだよ。だから邪魔すんな」
「むう……確かに、同志の言う通りか……ならば、四条同志が勉強を終わるまで、向こう待機してるよ」
「や、帰れよ」
とりあえず、優奈達は渋々奥の席へと向かった。
だけど……アレ? 滝川の奴、何気に嬉しそうにしてねえか?
ま、いいか。
「……はは、何だか悪かったな」
「ふう……なんであなたが謝るんですの? あなたは別に何も悪くないでしょう」
「そうは言ってもさ……結局は、俺の人間関係のせいで面倒くさい状況になった訳だし」
そう言うと。
「クスクス……本当にもう……あなたは少し気を遣い過ぎですわよ?」
「そ、そうか?」
「ええ」
何故か四条に笑われてしまい、俺は思わず頭を掻いた。
「おっと、せっかくアイツ等を追い払ったのに、俺が四条の邪魔しちゃ悪いな。じゃ、頑張れよ」
「ふふ……ええ」
俺も今度こそ仕事に戻り、フロア清掃に精を出した。
◇
「ふわあ……」
「コラ、数馬くんあくびしない」
夜の十九時を過ぎ、客足が途絶えて暇をしていた俺があくびをすると、すかさず久遠さんに注意された。
「しっかし……なんでうちの店って、こんなに客少ないんですかねー」
「倉本くん、それは言わないでよ……」
俺の呟きを拾った店長が、半分涙目になりながら窘めた。
や、だってうちの店、天下のワックだよ? しかも駅前店だよ?
普通、これだけの条件揃ってたら、お客さんが大勢来て忙しくなる筈なんだけど……。
「まあ、数馬くんの言うことも一理あるわよねー」
そうですね、久遠さん。
そんなうちの店だからこそ、俺達は雇ってもらえてるんだってこと、そろそろ理解しましょうね。
俺はジト目で久遠さんを見ていると……お、四条がテーブルの参考書やノートを片づけてる。
もう帰るのかな?
「倉本さん、それじゃ失礼しますね」
四条はわざわざカウンターまで来て、俺に挨拶をしてくれた。
「おう、気をつけて帰れよ」
「ふふ、そうしますわ。それと……アイスティー、ありがとうございました」
「いいっていいって! それより……」
俺は「また来てくれ」って言おうとして、やっぱり止めた。
だって、この世界での四条はまだ俺のことが好きな訳じゃないし、そんなのは俺のワガママだ。
何より……前の世界で見捨てた男が、最後の日に告白されたからって、どの面下げてそんなこと言えるんだって話だし……。
だけど。
「ふふ……また来ますね」
「あ……」
彼女は俺の欲しかった言葉を残し、手を振りながら店を出て行く。
俺は、そんな彼女の背中を、見えなくなってしまった後もただ見つめていた。
「同志よ」
「…………………………」
「かっちゃん?」
「…………………………」
「倉本クン?」
「…………………………うおっ!?」
気がつくと、いつの間にか優奈達が俺の前にいた。
「お、おお……お前達も帰るのか?」
「うん!」
「そっか、気をつけて帰れよ」
「ふう……同志達と心ゆくまで話ができなかったのは残念だけど、まあ仕方ないね……」
コラコラ、そもそもバイト中にそんな話をする気はさらさらねえよ。
「だけど、倉本クンって君島クンと仲いいよねー。どう? せっかくだしこの四人でどっか遊びに行ったりしない? 親睦も兼ねてさ」
唐突に、滝川がそんな提案をした。
……何か、裏がありそうだな。
「ま、バイトもあるから一応考えとくよ」
俺はそれとなく曖昧に返事した。
まあ、これなら約束した訳じゃないしな。
「ふうん。ま、考えといてよね」
「じゃあね、かっちゃん!」
「同志よ、また明日学校で」
「おう」
俺は手をヒラヒラさせて三人を見送る。
滝川があんな提案をしてきたのは気になるけど、一度調べてみるのもアリかもな。
……アイツが前の世界で、なんであんなに四条をイジメていたのかを。
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次回は明日の夜更新!
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