悪役令嬢とファストフード
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放課後になり、クラスの連中が帰り支度を始める。
おっと、俺もサッサと帰る準備しないとな。
机の中から必要な分の教科書とノート、筆記用具を取り出し、カバンの中に入れ……「……倉本さん?」……アレ? 隣の席からドスの利いた声が聞こえてきたんだけど……?
俺はおそるおそる隣の席を見やると……四条が腕組みをしながらプクー、と頬を膨らませながら睨んでいた。
「え、ええとー……四条?」
「何ですの……今あなたがカバンに入れた、英語の教科書は」
「っ!?」
し、しまった!?
「……最初からお持ちだったのでしたら、わざわざ私が教科書を見せる必要、なかったんじゃありませんの?」
「あ、あははー……」
ヤベエ……失敗した……。
こ、ここはどうやって言い訳を……って、そろそろ時間もヤベエ!?
「わ、悪い四条……お、俺、この後バイトが入ってるから!」
俺は両手を合わせて四条を拝んだ。
や、まるで俺がバイトを言い訳に逃げようとしてるみたいだな。
「はあ……もう、別にいいですわよ……」
四条が呆れた表情で手をヒラヒラさせた。
そ、それはそれで何だか気に入らん…………………………あ。
「そ、そうだ! 何なら、俺のバイト先に来るか? 教科書のお詫びにハンバーガーのセットぐらい奢るぞ!」
「ええっ!?」
うむ! 我ながらナイス提案だ!
これなら四条への借りを返すことにもなるし、またしばらく四条と一緒にいられるしな!
「べ、別にいいですわよ……」
「や、そういう訳にはいかねー! こうなったら、意地でも奢らないと気が済まねー!」
「もう! なんですの!」
フフ……俺は昨日の放課後と昼休みで分かったことがある。
四条は強引に頼むと、断れない奴だってことをな!
「頼む! 俺は四条に罪滅ぼしをしたいんだよ!」
俺はまた四条に向かって拝み倒す。
や、これ今日何度目だ?
「はあ……もう、本当に仕方ない人ですね……」
四条は溜息を吐きながら、そんな俺を見て苦笑した。
「よし! んじゃ、早速行こうぜ!」
「あ! チョット!?」
俺は自分のカバンと四条のカバンをひったくると、足早に教室の出口へと向かう。
すると彼女は慌てて俺の後を追いかけてきた。
「はは!」
「もう!」
頬を膨らます四条を可愛いと思いながら、俺は彼女と一緒に教室を出た。
「「…………………………」」
……そんな俺達を何故か睨みつけていた、優奈と滝川を無視しながら。
◇
「そ、それで、倉本さんのアルバイト先というのはどちらなんですの?」
学校を出た俺達は駅前に来ると、少し足早に歩く俺についてきている四条が尋ねた。
「あれ? ほら、さっき言ったじゃん。『ハンバーガーのセットぐらい奢る』って」
「そ、それは分かってますわ! そうではなくて、どちらのハンバーガー屋さんかと聞いているのです!」
「あ、そっか」
俺は頭を掻きながら愛想笑いをする。
「もう……そんな仕草をしても可愛くありませんわよ」
「うるせー」
ジト目で睨む四条に、俺は精一杯の悪態を吐いた。
ちくせう、可愛くないことくらい、この俺が一番分かってるよ。
「まあいいや。んで、俺のバイト先はあそこだよ」
俺は駅前通りにあるワックを指差す。
「ああ、あそこなんですのね」
「おう。一年の夏休みからだから、もう結構バイトしてるぞ」
や、彼女もいないし、金欲しさに去年の夏休みにバイト入れまくった結果、今じゃ辞めるに辞めれなくなっただけではあるんだけど。
つか、店長と久遠さんが辞めさせてくれないだけではある。
まあ、その分あのお胸様を堪能できるんだから、眼福といえば眼福ではあるんだけど。
で、今日はいつもの従業員口ではなく、正面の自動ドアをくぐって店に入る。
「いらっしゃいませー! ……って、数馬くん?」
「はは、お疲れ様っす」
カウンターにいる久遠さんがスマイル振りまいて挨拶するが、俺だと分かると若干ジト目になった。
まあ、バイトが正面から入って来んなって話だ。
「ホレ、四条。どれがいい?」
「あう!? あ、ええと……」
俺がメニューを指差して尋ねると、四条がキョドりながら目を通す。
「……へえー、今日はバイトをサボった挙句、彼女を見せびらかしに来たってワケ?」
「「はあ!?」」
久遠さんの思わぬ発言に、俺と四条は同時に声を上げた。
「なななななっ!? わわ、私は倉本さんの彼女なんかじゃありませんのよ!?」
「そそ、そうっすよ!? それに俺はバイトしに来たんですからね!?」
俺達は身振り手振りを交えながら、久遠さんに必死に説明する。
や、確かにタイムリープ前は、四条は俺のこと好きだって言ってくれたけど……それがいつからなのか、俺も分かんねーし……。
俺はチラリ、と四条を見やると、彼女は顔を真っ赤にしてアワアワしていた。
今の四条は、多分まだ俺のことは好きじゃないんだろうな。
そして、俺は……。
「……数馬くん?」
四条を見ながらそんなことを考えていたら、久遠さんが怪訝な表情を浮かべていた。
「うえ!? あ、ああいや……そ、それじゃ俺も今からバイト入ります! んで、四条のお会計は俺持ちですんで!」
「あ、チョッ!?」
俺はそんな自分の気持ちを悟られるのが嫌で、四条と久遠さんを置き去りにして逃げるように更衣室へと向かった。
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