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 8、「首狩りバニー」

 さて。

 いつまでもマリちゃん先生と話してないで。先生の死体にいたずら書きするためにも、とっととレベル上げにいかないとな。

 ん? ちゅーか今思いついたんだが。オレがマリちゃん先生パーティ組んだら【転移】で666階にあっちゅーまに行けるんじゃねーの? あとはオレが死体抱えるなりなんなりで回収したらいいんじゃね?

『いいこと思いついたって顔してるけど、それ無理よ?』

「先生はわたしの心を読まないでください」

『あ、妹ちゃん設定まだやんのね。ってゆーかさ、【転移】で移動できるのは一度でも足を踏み入れたことのある場所だけよ? 座標指定しないランダム【転移】ならその限りじゃないけどさ』

「え? 先生の死体があるわけですし、【転移】可能なのではないですか?」

『あたしはもちろん【転移】できるけど、あんたが行けないってこと! だいたい、行ったことがないヤツを一緒に連れてけるんなら、もっと奈落の探索は進んでるわよ。どんどん人送って拠点構築しちゃえばいいんだし』

「……なるほど」

 それこそ666階まで移動可能な先生に協力してもらえば、どうとでもなる話なのに。そうなっていないってことはつまり無理だってことだよな。

『魔法使いは魔法を使えるだけじゃだめよ? 仕様とメリットデメリットはしっかり押さえておきなさい』

「はい。精進しますね」

『うん。期待は……しといてあげるから。頑張りなさい』

「了解です」




 先生と別れて、昇降機を目指す。

 奈落にはなぜか、各階層を移動可能な昇降機がある。各階に止まるものと10階層ごとに止まるものがあり、マリちゃん先生の話では100階に行くと100階層単位で移動可能なものもあるらしい。

 とはいえ。各昇降機を利用できるようになるには、各階層を探索して、いろいろ手順を踏んでキーとなるアイテムを入手しないと利用できない。もっとも13レベル以上の魔法使いが居れば【転移】で一気に移動可能なので、キーアイテムはあまり重要ではないんだが。

「……って、よく考えたら。わたしキーアイテム持ってないし」

 地下1-10階なんて、地下75階層探索中だったオレたちには無用の階層だからな。

 まずはキーアイテムを入手しないといけないな。

 やべ、だりぃ。一気に30階まで降りてレベル上げだー! って思ってたけど、いろいろ面倒くせぇな。

 30階までだと、必要なのは……青と赤と黄色のリボンか。

 ええっと。どこで手に入るんだったっけな。


「……っ!」


 不意に足元になにか不穏な気配を感じて。

 オレは咄嗟にガラスの靴で床を思いっきり踏みつけた。

 ギン、と金属音がして、薄い刃を踏み砕く。

『きゅきゅ(うわー。なぜバレタし)』

『きゅっきゅー(アホな新人かともってたら、意外とやるね)』

『にゃん(じょおさまっぽいのです)』

 闇の中から現れたのは、3匹の獣。

「……ここ1階ですよ? なんで2階にいるはずの魔物がいるんですか」

 その姿は、ウサギ獣人を思わせる。人に似た姿に、長いウサギの耳。俗にバニースーツと呼ばれる、まるで水着のような薄く胴を覆う服。に見える真っ赤な毛皮。

 あどけない少女のようなかわいらしい容姿ではあるが、その毛皮の色は犠牲者の血で染まったものだ。


 ――それは、”首狩りバニーさん”と呼ばれる、初心者殺しの凶悪な魔物だった。


 何が怖いかって、こいつらには”致命の一撃(クリティカル・ヒット)”という能力があって、どんなに高いHPがあったとしても一撃で首を刎ねられてしまうことがあるのだ。

 大体3匹同時に現れ、最初の1匹が”足首”をはねて移動力を奪い、次の1匹が”手首”をはねて武器を奪い、そして最後の1匹が”首”をはねて命を奪うという。

 ただの魔物に”さん”なんて敬称がついているのは、それだけ恐れられている証拠なんだろう。

 もっとも、地下2階なんて浅階で出てくる魔物だけにHPは低く、範囲魔法の1発で一掃できる程度のザコではあるのだが。不意を突かれると、高レベルの探索者でも命を奪われかねないという点で油断が出来ない魔物だった。


『きゅっきゅ(ドーモー。探索者=サン。首狩りバニー1号です)』

『きゅっきゅ(ドーモー。探索者=サン。同じく2号でっす)』

『にゃーん(以下同文なのです)』

「……あー。丁寧なごあいさつどーも。首狩りバニーさん。アリスティアです」

 なんか首狩りバニーが挨拶してきたので、こちらもぺこりとお辞儀をして返すと。

 なぜかウサギどもは困ったように顔を見合わせた。

『きゅきゅきゅ(わ、探索者に挨拶返されたの初めてだよ)』

『きゅっきゅー(でも、首ほしーし。やっちゃおうよ)』

『にゃ、にゃーん(なのです)』

「……」

 というか、だ。

 コボルトに会った時も思ったんだが。なんでオレ、魔物と意思疎通出来てんだ?

 普通に言ってることわかるし、向こうもこっちの言うこととわかってるポイよな。

 ……ってゆーかよく見たら1匹妙に耳が短いのがいるってゆーか、三角のお耳と言い長い尻尾と言い、3匹目のやつって猫だよな? どうなってるんだ。

 いやそもそも階層をまたぐことのない魔物が、別の階層に居る時点で既におかしいわけだが。

「あの。なんで1階にいるんですか、あなたたち」

『きゅ(ピクニックなの)』

『きゅ(えんそくなの)』

『にゃん(なのです)』

 ……おう。そんな気軽に階層移動できるとか聞いたことないんだが。

 奈落で何が起きてんだ。

『きゅきゅ(ってわけで、足首ちょうだい)』

『きゅきゅ(手首ちょーだい)』

『にゃにゃん(乳首ほしーにゃ)』

「こら、最後のにゃんこ。あなたなんか間違ってない?」

 ちゅーかもしかして”首狩りにゃんこさん”とか言う亜種なのかな。聞いたことないが。

『きゅー、きゅっ!?(いっくぞーって、武器壊されてたんだったっ!?)』

『きゅきゅっ!?(え、1号がいかないとあたしいけないよ?)』

『にゃんにゃん!(にゃっはー! 乳首いただきっ。なのですっ!)』

 オレの胸に刃をのばしてきた、にゃんこなバニーさんを棍で叩き落す。

「……まあ、魔法の修行終わったところだし。実験台になってもらおうかな」

 元パーティの仲間のあーちぇとか。

 首狩りバニーさんみたいなクリティカル持ちにいい記憶がないのか、出たら速攻で【核撃】をぶちかますんだよな。

 オレはまだ範囲魔法は【小炎波】くらいだが、とっと片づけちまおう。

「ふん。無様なイケニエ共。我の闇の力に恐れおののき、自らの卑小さを思い知りながら闇に沈むがよい。【小炎波】っ!」

 ぷすん。

 煙も出なかった。

 ちゅーか、マリちゃん先生の所で絞られ過ぎててMP空っぽだったの忘れてたわ。

 あとなんか変な台詞出たのは指ぬきグローブの呪いのせいだからねっ!?

『……きゅー?(何今の。チューニ病ってやつ?)』

『きゅー(わー。はずかしー)』

『にゃー(チューニが許されるのは小学生までなのです!)』

「……おい、お前ら。覚悟しろ」



 棍でぼっこぼこにしてやったが。なんか、言葉が通じるとなかなかいまいち命を取る、とまでは踏み切れなかった。

『キュー(ばたんきゅう)』

『キュー(はらほろひれはれ)』

『にゃぁん(やられたのです……)』

「確かこの辺に、2階へのシュートがあったはず。ここだったかな」

 オレはのした3匹を引きずって、シュートに蹴り落とした。

「んじゃな。……これに懲りたら、1階に遠足になんて来るんじゃねーぞ?」


『きゅーっ!?(ぎゃー。ここシュートじゃなくて、落とし穴だしっ!?)』

『きゅーっ!?(助けると思わせてトドメさしに来るとか極悪非道だよねっ!?)』

『にゃーん!?(サヨナラーなのですっ!?)』


「……あ、ごめん」


 うん。悪気はなかったんで許して欲しい。

★ひとことメモ★


真理「……それにしても。ずいぶん特殊なクラスになってるわね、アルのやつ。もしアレだとしたら。本当に666階までいけるかもね」


アリスティア「マジでごめんなさい、ほんとーに悪気はなかったんです」


バニー1「きゅー(1階なら首狩り放題だと思ったのに)」

バニー2「きゅきゅー(そりゃ強いのも1階通るよね……)」

にゃんこ「にゃーん……(く、禁断症状なのです、ち、首、きり、たぃ~)」


★設定殴り書き★


【転移に関する補足】:

 【転移】の魔法は使用者のみならず、同じパーティのメンバーも足を踏み入れた場所でないと移動できない仕様。このため、野良パーティなっどでは通常は足を踏み入れたことのある階層の階段付近に転移するのが慣習となっている。主人公はずっと固定パーティだったためこの仕様を知らなかった。


【致命の一撃】:

 どれだけHPが残っていても、発生すると攻撃がかすっただけで首を刎ね飛ばすという恐ろしい攻撃。恐ろしいことに首に当たらなくても首が飛ぶため、これを避けるためには攻撃自体に当たらないようにするか、相手の攻撃をつぶす必要がある。

 首狩りバニーの場合、攻撃順序が足首→手首→首と決まっているため、知っていれば比較的攻撃をかわすのもつぶすのも簡単である。


【首狩りバニーさん】:

 奈落のアイドル。その愛らしい様子で探索者を油断させ、すかさず首を刎ねようと狙ってくる。首と名の付くものに異様な執着を見せる傾向がある。こいつらが複数で現れると高レベル探索者でもキケン。


【シュート】:

 いわゆる滑り台。一見何もない床がいきなり斜めになって浅い階僧から深い階層へ一気に移動させる罠で、気付かずに踏んでしまうと元の階に戻れなくなってひどい目にあう。しかし、どこに移動させられるかちゃんと把握している場合はショートカットとして使われることもある。中にはシュートを使わないと入れない階なんてものも存在する。

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